「東北弁なんてのは間が抜けて聞こえるので、どうしても東北弁を話してる人は切れ者には見えないわけです。それでも話せと言うわけですか?」

というメッセージをいただいた。

確かに昨日東北の人は言葉を直す傾向があるということを書いたので不快に思われた方がいるかもしれない。

たまたま私の知り合い、そして尊敬する東北出身の人は言葉を直さない。昔勤めていた浴風会という病院の院長や、私が世話になった東北大学の老人科の教授の方である。肩書きで得をしているのか、私にはその人たちが切れ者に見えないという風には思えなかった。アメリカ人は、英語が下手な日本人をバカにする傾向があるが、インテリほどそうでなかった。「自分のことばが通じなかったり(頭のいい人は下手な言葉からでも相手のしゃべった言葉を想像できる)、それをバカにする人がいたら、その人の知的レベルが低いと思ったらいい」と教えてくれた先輩医師がいたが、まさにその通りだと思った。

しゃべる内容より、東北弁だからとか関西弁だからという理由で、切れ者でないと思う人がいるとしたら、その人の知的レベルが低いだけだろう。賢そうなしゃべり方というのは、イントネーションや方言の問題ではなく、しゃべる内容と、その構成の問題である。それがダメな人はいくら流暢な標準語でもバカに思えるし、内容より流暢さでだまされる人がいるとしたら、そのほうが知的レベルに問題があると私は信じている。

逆に考えると、方言を直すことに労力と時間をかけるくらいなら、その労力と時間を、教養を磨き、知的レベルをあげることに使ったほうが、よほど切れ者に見えるようになるし、実際に仕事もできる人間になるはずだ。田舎言葉で油断させておいて、実は物知りとか、実は仕事がバリバリできる、計算がめちゃくちゃ早いというほうがよほどインパクトがある(田中角栄という人は、それで官僚を魅了した――もちろんほかの要因もすごかったが――ようだ)と私には思えるのだが。賢そうに見えるバカより、バカに見えるカシコのほうがよほど社会では成功できる。

「それでも話せ」とは言わないが、私だったらそうするとしか言いようがない。私は童顔だし、声も高いので、あまり賢そうに見えないらしい。それでどれだけ得をしたかわからない。されが見ても知的な顔で、渋い声なら、それに追いつく知性を身につけるのは、偉い苦労をするはずだ。

「出身・出生地ってのはただの運であって能力や努力と関係ないのに誇りを持たないといけないのですか」という質問もあった。

これについては、そうは思わないが、誇りを持てる人のほうが幸せだろうし、そういう人のほうが私には好感がもてるという主観にすぎない。郷土で不遇だったり、いじめにあったら、そこが嫌いになるのは当たり前だし、不幸なことだ。ただ、そういう背景もないのに、郷土を隠すというのは、私には主観的に好きになれないと思うだけだ。誇りをもてと言った覚えはない。誇りを持っている人のほうが好きなだけだ。

この人のメッセージは私に攻撃的な印象を受けたし、私のことを好きでないのだろう。わざわざ自分が好きでない人から好かれる必要がないように私には思えるし、私自身もこのメッセージの主から好かれたいとは思わない。

ただ、私が差別的な人間と思われたように感じたので、私の考えを述べただけだ(もちろん、それでも差別的だとは思う。ただ、人の好き嫌いのない人間はいないだろう)。

さて、とある新興の財界人が政治に偉く興味をもっていて、日本の政治を変えたいし、そのために政党のスポンサーになってもいいと思っているという話を聞いた。

いろいろと政治に関係のある人に話を聞いたら、今の日本だと300億円もあれば、買えるのではないかという話を聞いた。

昔と比べ物にならないくらい選挙に金がかからないし、選挙に金をかけてはいけないし、また政治家も金がないから、そのくらいの資金援助で、どちらかの党を野党から与党にしたりできるという。あるいは、今回のみんなの党のようなブームが起こった際に、全選挙区に候補者を立てる資金提供としては、そのくらいで十分だという。それとも、そのくらいの金を巻くことでスポンサーのいない不景気下ではマスコミを抱き込むことができるのではないかと。

耳を疑うような話だが、やたらにリアリティがあった。

たった300億円の金で、年間予算規模80兆円の政府が買える。M&Aであれば、日本政府を300億円で買っても、900兆円近い借金を背負わされるが、300億円資金援助をした政党が選挙で勝てば、そんな義務も負わない。

政治資金規正法をどうやってクリアするのかわからない。政党への貸し付けという形をとって、政党助成金でもとを取れば、下手をすると、それだけで儲かる。

もちろん、用意周到にブームを作らないといけないが、たとえば消費税を上げて、法人税を下げて、社会保障を切り捨てるという、大企業に都合のいいことを言っている議員を自民党と民主党の両方から引っ張ってきて新党を立ち上げる際に資金提供という方法もある。資金提供が表に出ないようにすれば、マスコミをたきつけて大ブーム政党を作れる可能性もある。官房機密費の10倍くらい出せば、買収できるジャーナリストだっていっぱいいるだろう。

今は政党助成金を当てにしないといけないから、思い切った政界再編の新党の枠組みを作るのが意外に難しい(翌年までもてば政党助成金を得られるが、そのつなぎの金がない)

そのくらい出せる人はさすがの日本に何人かはいそうな気がするが、ノーリスクでないので、それを出す人が出てくるかは見ものと思いつつ、怖い話だと思った。

しかし、日本も安い国になったものだ。昔は一人の政治家でそのくらい金を集めた人もいたようだが。