さて、私の文章を読む限り、私が金持ちにひがみ、金持ちに強い憎悪の念をもっているように思われるかもしれない。

 そうではなくて、日本の金持ちがケチで、日本の国のことを考えているように思えないこと、そして自分たちの子供に甘いことが問題だと言いたいのだ。

 累進課税をゆるめて金持ちの手取りが増えること自体は、それも仕事のインセンティブになるかとは思うが、それを使おうとせずに、相続のときには、すでに60歳にもなっている自分の子供たちに残そうとするから、不愉快なのである。

 そして、その子供ときたら、小学校から大学までつながっている私立学校にやり、受験をまったくさせないで(そのおかげで私の知る限り、その併設の大学にすら上がれない物凄いバカが何人もいるようだが)、コネで銀行か広告代理店に入れる。30かそこらで自分の会社に入れた時には取締役。自分が元気なうちに社長にする。自分が死んだ後にどんなバカでも社長に居座らせるためには、株を継がないといけない。こんな会社がいくらでもあれば、金持ちが大好きなことばである、「競争に勝ち残るため」「企業が生き残るため」(従業員のクビをきったり、給料を下げるときに使う言葉である)になるのだろうかと不思議に思う。

 子供のほうは、そのような親の恩に報いようとせずに、親が世界一周の船旅に出たいというと、「危ないから」(本音は自分の相続財産が減るから)と言って反対する。「お前たちに迷惑をかけたくないから、妻とちょっとましな有料老人ホームに入ろうと思う」というと、そんな人聞きの悪いことをおっしゃらないでという話になって、10年間で何億円かが償却される有料老人ホームに入るのも反対する。だから、そのくらいの入居金なら家を売れば簡単に入れるはずなのに、1億を超える有料老人ホームはどこもガラガラなようだ。とくに奥さんをがんなどで亡くしたお金持ちはもっと気の毒だ。子供が身の回りの世話をしてくれないし、自分を若返らせてくれて、自分によくしてくれる女性が現れても、子供たちががんと言って再婚を許さない。「そんな女、財産目当てに決まっている」というが、その女性がちゃんと介護して、子供たちは介護しないような場合、どっちが財産目当てなのだと言いたくなる。もちろん、金持ちのおばあさんが、若い男と再婚したいと言えば、キチガイ(あえて差別用語を使う)扱いされるだろう。

 こんな問題がすべて相続税が100%になれば解決する。

 親たちは、子供のために必死で教育をつけるだろうし、自分の会社を継がせるより、エンジェルになってやるという方法がいくらでもとれる。そのほうが国のためだし、その家のためにもなる。

 何より、金を残せば国に取られるのだから、いろいろと金の使い道も考えるだろう。

 1日10万円かかっても優秀な介護のできる人を雇うようになれば、そういうスーパー介護者を目指して、有能な人が競争を始めるかもしれない。

 自分の健康管理のために何十億も出して、自分のための病院を作る人も出てくるだろう。これもおそらく老人医学の進歩に貢献する。

 自分の出身地や出身大学に寄付をして、ものすごく感謝される喜びを味わったり、自分の名前のついた建物が経つことを心底喜べるかもしれない。

 一日百万円もあれば、世界中のおいしいものやおいしいワインを飲みつくせる。もうちょっと出せば、日本中の美女に相手にされるかもしれない。

 金を稼いで本当によかったと思えることはいっぱいあるが、日本の金持ちはほとんどそれを知らない。

 自家用ジェット一つとっても所有の喜びだけだ。ある別の金持ちに聞いたが、日本の金持ちはケチなので、自分の移動のためにそれを使わない。グアムかどこかにおいて、ときどき乗りに行くのがせいぜいの満足のためだそうだ。調布であれ、羽田であれ、使えないことはないのだが、その金が惜しいそうだ。

 多くの金持ちは金を使う喜びをせいぜい大きな家を買うとか、高級車に乗るとか、高い宝石をつけるくらいしかしらない。そして、だんだん貯金通帳を見てお金が増えてくることが目的になってくるのだ。

 相続税を上げると、外国に年寄りが逃げていくという話をする人もいるが、お金があるのに、わざわざ食べ物がまずくて、言葉が通じない国に、子供のために移住したいという不幸な人がいるなら、それはそれで放っておけばいい。国に残った金持ち仲間が金を使うようになって幸せそうにしているのを見ると、バカが治るかもしれない。

 金持ちが金を使うと、需要だけでなく、文化が生まれる。庶民もいつかはそれをやってみたいと思うからだ。

 金持ちが自動車にのると、貧乏人もいつかは車に乗りたいと思う。ゴルフにせよ、テニスにせよ、乗馬にせよ、金持ちから流行ったスポーツは息が長いが、貧乏人から流行ったものはすぐに飽きられるようだ。

 貧富の差を小さくするとか、社会正義ということなら、累進課税の復活のほうがいいのだろうが、私は相続税を100%にして、ほかの税金を上げないで済むようにしろというのは、このように金持ちが金を稼ぐ幸せを感じてもらえるという大きな意義があるのだ。

 もう一つは、若いうちの税金が高くて、それを高齢者の医療や社会保障に使うと、若い人が高齢者に憎悪をもつようになるし、早く死ね、無駄な医療はやめろ、年金暮らしで贅沢をするなという話になりかねない。

ましてや、高齢者は、60歳前後で相続をするので、実際には資産持ちなのである。

 若い人がお年寄りを憎まないで、お年寄りを「お客さん」として大事にするようにするためにも相続税100%は本気で考えるべきなのだ。

 しかし、肝心の金持ちや、お年寄りが、この話にいちばん反対するから厄介なことなのだが