法人税の減税に私が反対していることに批判のメッセージがあった。

確かにヨーロッパの法人税は安い。ただ、ヨーロッパの場合、企業の社会保障料負担がやたらに重いから、その分を法人税を安くしているという要素もある。たとえば、読売新聞が、各国の法人税を論じる際に、その事実をまったく書かないことが偏向報道だと感じてしまう。

福祉を企業に肩代わりをさせる場合、本社を海外においても、その国に事業所をもち、その国の住民を雇っている限り、当然負担させられる。だから、法人税を安くして、社会保障料を企業にもたせるというのも一つの方法ではある。ただ、何度も言うが、法人税は黒字法人にしかかからないが、社会保障料の負担は赤字法人にものしかかる。要するに法人税を安くする代わりに、社会保障料を企業にもたせるやり方は、強い企業にとってはありがたいが、弱い企業はよけいに弱くなる。

ヨーロッパは、ある意味、そこは割り切っている。

実は、そのあたりの話を経済に詳しい人や、賢いとされている人と、たまたまエンジン01の会合があったので、話し合った。

ヨーロッパ、とくに北欧は、社会保障料が手厚い、失業保険が手厚いので、人々はクビを切られることをそう恐れない。労働法規もクビを切りやすいものにしているので、会社も簡単にクビを切る。だから慢性的に失業率が高い。しかし相対貧困率(所得が平均所得の半分に満たない人の割合)が失業率より低いということが起こるくらいの社会保障の手厚さがある。

こういう形式をとっていると、弱い会社や利益を出せない会社が簡単にクビを切るが、儲かっている会社がそれを引き受けるということが割と起こりやすい。守旧的に見えるヨーロッパが、意外に産業構造の転換が早く、たとえば北欧が比較的早くITを主力産業に転換することができた。(もちろん、北欧は教育レベルだ高いことも追い風になったが)経営コストが高くつき、利益を出しにくい代わりに、利益を出せば法人税が安いから、ヨーロッパでは、強い会社だけが生き残り、弱い会社はどんどん吸収合併されていく。ヨーロッパがたとえば、LVMHのように巨大コングロマリット化しやすいのもそのためだ。

日本の場合、法人税を安くするのに、企業の社会保障料負担が低い。法人税を安くすると、企業は当然利益をたくさん出しても税金でもっていかれる金額が少ないから、人件費を削るほうにドライブがかかる。ところが、ヨーロッパと比べて失業手当が少ないから、失業不安でみんなが金を使わなくなるし、貯蓄性向が強くなる。結局、余計景気が悪くなるということになりかねない。

弱い会社を助けたい、生き残らせたいのなら、法人税を上げて、その分を社会保障に回して、海外に本社を移転した会社に、さまざまな規制をつけるというやり方にすることになる。

逆に、ヨーロッパ型に、選択と集中に早くドライブをかけたいなら、法人税を下げ、その代わり社会保障を手厚くして、失業の不安をヘッジしなければいけない。

方向性が定まらないまま、外国のまねをして法人税を下げればいいという考えが甘いと私は思っている。アメリカは企業の社会保障負担が比較的軽い(とはいえ、保険会社の保険料が高いので、意外に企業の負担は重い。自動車産業はそれでダメージを受けた)代わりに、法人税は日本に次いで高い。それでも、タックスヘイブンはともかく、ヨーロッパに本社を移す会社はほとんどない。

累進課税についても、自由や平等を侵すという考え方もあるだろうし、富の再配分のない資本主義というのは、過去の遺物だという考え方もある。アメリカのような国でさえ、累進課税のシステムになっている。相続税にしても、実際は、税金を引かれた残りが財産なのだから、二重課税という批判もある。しかし、オバマは相続税の課税最低限を引き下げ、税率も上げた。このことは日本ではほとんど報じられない。

ヨーロッパの法人税率が低いことは報じられても、企業の社会保障料負担が重いことが報じられず、アメリカで相続税が上がったことも報じられず、増税は消費税しかないとマスコミは訴える。

欧米は貧困層がほとんどいないから消費税を上げても、消費は落ち込まない。アメリカは貧困層が多いから消費税は日本の次に安い、今でも直接税主義だ。

これだけ偏った報道がなされる国で税の論議もあったものではないが、どっちが正しいかより、どっちが結果がいいかで判断するしかないだろう。

私は、累進を厳しくし、相続税を高額だったり、100%にするほうが消費が伸びると信じている。ただ、こういうことはやってみないとわからない。

少なくとも、今はどこが政権をとっても、直接税を上げず、消費税を上げるのが各政党の公約だ。

まずそっちの実験が先にやられるはずだから、うまくいくかどうかお手並み拝見しか私にはできない。

私は政治家でも、ブレインでもない素人なのだから。