いろいろな激励のメッセージのほか、放送大学が高いというメッセージもいただいた。まさにその通りだと思う。

さて、本日の読売の一面は、埼玉の特別養護老人ホームで県が個室の介護報酬の算定を誤って解釈したために約2億円の過払いが生じたというものだ。

この背景には厚生労働省の特別養護老人ホームの個室化政策がある。

要するに相部屋部分が併設されている、個室が原則の「新型」特別養護老人ホームには、「新型」の介護報酬を適応しないということだ。つまり、全館が「新型」でないと新型の扱いを受けない。

ということで、厚生労働省は、基本的に全館個室の特別養護老人ホームに高めの介護報酬をつけることで、それを誘導しているようだ。一部、個室では、いくつ個室をつくっても介護報酬の優遇は得られない。

しかし、これにはいくつも問題がある。

一つは、個室型の特別養護老人ホームの家賃が、相部屋より高いという現実がある。その額は月額で1.5万円から5万円くらいだそうだが、貧しい層には大きな金額だ。そうでなくても、食費は介護保険から出なくなったために、介護保険の1割負担と食費を会わせると10万円くらいになる。個室料を合わせて15万というのなら、民間の介護型老人ホームと対して変わらない。

東京目線でみると決して高くない金額かもしれないが、地方の場合は、厚生年金も受けられない人が多く、安かったころの国民年金のために現金収入が極めて少ない高齢者が多いとのことだ。長野に講演に行った際は、「この辺の人は、家もあるし、ある程度畑ももっているので、あまり買い物もしないで月5万もあれば食べていけるけど、年金が少ないので、誰かが要介護になったときに、介護保険の1割負担だって大きいんですよ」と言われたものだ。

そういう人にとって月額15万円というのは目の玉の出るような金額だろう。家族が介護で疲れ果て、やっと特別養護老人ホームの順番が回ってきても高くて入れないというのは、まさに悲劇だ。

いっぽうで特別養護老人ホームが足りないのは厳然たる事実だ。保育園の待機児童が4万人と言われるが、特別養護老人ホームに親や配偶者が入れないために仕事をやめる介護離職者は15万人である。いっぽう保育園の定員は約230万人分あるが、特別養護老人ホームは40万ベッド。要介護高齢者は、要支援も入れると500万人近い。

数を足りさせる方が個室化より明らかに先決の問題だ。財政的に見ても、親の介護のために仕事をやめて生活保護を受ける人は少なくない。こんなバカな出費はないだろう。

ところが、厚生労働省の個室化政策の前から、補助金そのほかがつくおかげか、特別養護老人ホームは建物だけは立派だ。民間の有料老人ホームより立派で、スタッフに恵まれ、個室化していたら、それこそ民業圧迫だ。現実に公営や準公営の老人ホームのほうが、私立の有料老人ホームより建物が立派という国は世界中どこを探してもない。

逆に、特別養護老人ホームのほうが建物も立派で、スタッフも多いために、金持ちまでそれに入りたがる。これでは民業が発展しない。そして、どこからとなく、有力者のほうが入りやすいといううわさも流れる。金があるのに、特別養護老人ホームに親を入れれば、国の金で養ってもらえるのに、親の年金も親の家賃収入などもいいように子供が使う。

ついでにいうと、入る順番待ちはひどいが入れるとけっこういいホームが多いので、コネ話はいろいろな形で伝わる。某宗教団体が、「介護でお困りでしょ?うちの都議(県議)の先生を紹介しましょうか?」などと口を聞くといううわさは、耳にタコができるほど聞いた。

実際、これから介護労働者だって人手不足になる(そうならないように、ゆとり教育で、職に就けない人をたくさん作ったのかもしれないが)。個室の介護は、はるかに煩雑だし、人手を食う。高齢者の中には、要介護になってからなら相部屋のほうがいいという人も少なくない。

立派な老人ホームに入りたい人はそれこそ有料老人ホームに入ればいい。棺桶に金を残したり、残した子供に争いのタネを残すより、そのほうがよほど、国のためだし、子供のためだ。

「個室でゴージャスなものがいい」という考え方より、困っている人を助けるという福祉の本来の姿を取り戻さない限り介護問題は解決しないだろう。そして、首相にしたい人ナンバーワンの舛添要一という人は、厚生労働大臣時代、この政策を追認し続けてきた。彼が介護のプロと本当にいえるのか?介護者の苦労を知っていると本当に言えるのか?姉に任せきりで、自分はいいとこどりという噂話が、彼の介護政策を見る限り、本当に思えて仕方がない。