JALはどうも会社更生法を申請することになるらしい。

一般的にいう倒産である。給与体系もこれまでと変わることだろう。

以前は、私もいったんJALを倒産させるべきだと考えていた。そうでもしないと、あのクソ高い賃金体系を変えることができないと思っていたからだ。

昔、JALがフライトアテンダントについて、最初は非正規雇用の形で雇い、その中から正社員を選ぶというやり方で人件費の削減を図ったときに、違う給与体系の人間が入ると安全が保たれないという屁理屈をこねて、それを許さなかったことがあった。フライトアテンダントについては、地方では確実にコネ入社(身長が足りないのに、声をかけられた人を私は知っている。とある県の県知事の講演会長の娘だったが)があった。その利権がなくなるのを恐れてのことと思った。

ただ、マイケル・ムーアの『キャピタリズム』を見ていると、いまやアメリカではパイロットの年収が17000ドルというところもあるという。アルバイトが当たり前ということで、これで安全が守れるのかというムーアの懸念はあながち的外れではあるまい。一方で、アメリカは厳重すぎるテロ対策で、非常に飛行機に乗るのに時間がかかるなどの不便が生じ、それがさらに飛行機離れに拍車をかけている。そうでなくても、不景気で収入が減って、貧しい人が自動車を利用しようとしているのだから、踏んだり蹴ったりの状態になっている。しかし、おそらく、彼らも非常な薄給だろうから、テロ組織などに買収される人間が出てこないとは限らない。善良な人間が不便を強いられる中、お金の問題でテロが可能になるならまさに笑い話だ。

JALの高すぎる給料などは問題だろうが、会社更生法で、国際競争力をつけるためとか、会社の再建のためという美名で、ものすごく安い給料が設定された際に、パイロットは全日空が大量に採用しない限り、ほかにまともな働き口はないし、外国人のパイロットなどいくらでも安く来てくれるだろうから、それを飲む人もたくさんいるだろう。フライトアテンダントにしても、憧れていたり、玉の輿にのる道具だとか思って、やはり安くてもやりたいという人がいるだろうから、これも相当な賃金カットが可能である。

ところが、たとえばJALが今の3分の1とかいう給与体系にしたら、当然、ANAも対抗上、3分の1とはいかずとも、半分などという提示をすることになるだろう。こういう形で、一気に航空業界の給与のデフレスパイラルがきてしまう。簡単にアメリカのようになってしまいかねないのだ。

もう一つは、もちろん会社の再建を資本主義の論理に則ったものにし、管財人もおそらくJALの特殊事情にあまり斟酌を加えない人になるだろうということがある。

要するに、赤字部門、赤字路線は徹底的にリストラされるということだ。

もともとJALが国策企業として、赤字路線でもやめさせてもらえなかったということが、今回の経営破たんの一因になっていることはよく知られているが、もう一つの特殊事情として、ほかに飛行機が飛ばないのに、飛行機がないと困る、多くの離島などに飛ぶJASとJALが合併したという事情もある。

資本主義の論理で、ばかばかとそういう路線を切られてしまうと本当に、離島の人の交通手段が船しかなくなってしまうこともあるだろう。あるいは毎日飛んでいたのが、週2,3日になってしまうこともありえるだろう。

銀行を助けるためには何千億、何兆円の公的資金をつぎ込んだのだから、地方の人、田舎の人の生活を守るために、ある程度政府が負担することだってあっていい。

赤字をなくす、税金を使わせないために、地方の人の生活を犠牲にしてよいというのは、まさに東京の目線の発想だ。そして、大マスコミはすべて東京にキー局や東京に編集部、編集局があるために、その発想で報道を行い続ける。

JRも赤字がなくなってよかった、税金の無駄がなくなってよかったというが、結局割を食っているのは地方の人間だ。そして、自動車しか移動手段をなくしておいて、東京の発想で、事故も起していない飲酒運転の人間を厳罰化する。

地方をどんどん住みにくくして、東京一極集中にしておいて、形だけ地方分権というのがシナリオかもしれないが、次の選挙で出てくる首長たちの政権は、そのことを念頭においているのだろうか?文献より前に、ちゃんと東京に集中した富を地方に奪い返すとか、東京の人間の払う税金を減らすために、地方に不便になる仕組みを作るよりは、税金は高くても、地方の不便がきちんとヘッジされるような仕組みを堂々と要求していい。

飛行機が地元に飛ぶための税金による補助金や、飲酒運転の厳罰化をするなら、地方のローカル線やローカルバスを復活させたり、タクシー代の補助金を出せというくらいの要求は当然だ。

資本の論理を優先させて、飛行機の安全が犠牲になる。飲酒運転の厳罰化も長期的なトレンドでみると、地方の人が仲間と飲んで愚痴をこぼしあう機会を奪い、地方の飲食店を淘汰し、一人で飲むためにアルコール依存が増え、という形で人の命を奪っていくことだろう。

「安く上げればそれでいい」という発想が日本を、とくに地方をどんどん住みにくい国にしている。