テレビをほとんど見ない上に、忙しさのあまり新聞をまだ取っていないという非文化的生活を始めて早1週間。

MSN産経のニュースが頼りだが、デフレ経済の恐怖の話が書かれていた。

私の危惧もまさにその通りで、競争や市場原理のおかげでものが安くなったと喜ぶ人は多いが、同時に給料も下がるのでは確実に経済がシュリンクしていく。昔のほうが物価は高かったが、大衆は自分たちは豊かだと感じていた。高くてもいいものはほしがったし、外国製品を安物とバカにしていた。ユニクロをもてはやすのはいいが、昔のように安いものがバカにされる文化がないと、外国に工場をもっていって、ものがどんどん安くなるし、日本の労働力は買い叩かれるか、雇ってもらえない状況が続いてしまう。相続税を高くして、高齢者に金を使わせろというのも、日本の高齢者にはまだその心理が残っているという意味合いもある。どうせ税金でもっていかれるなら、高くてもいいものを買いたいという心理も働くだろう。野菜だって、寿命を考えて国産の無農薬がほしいということになりえる。貧乏心理がしみついた30代までの人たちに金を使わせるのは至難だ。30万、50万の家電でも安いと思える高齢者が重要なのだ。

ついでにいうと、日本人はみんなのスタートラインが同じになった(と見える)ときに国民がパワーを出すし、がんばるようだ。明治維新で、旧来の階級制度が崩れたり、戦争に負けて、財閥が解体されたり、農地解放のようなものがあるほうが、貧しい人間もがんばって国力が強まる。日本人の国民性が貧富の差の大きな社会に合わないのかもしれない。欧米の理論を受け売りにしないで、日本人の国民性に合わせた経済学を打ち立てる必要もあるのかもしれない。

そのほか、MSNニュースでは、南田洋子さんの逝去に伴って、老老介護の問題を取り上げていた。

これも人が考えている以上に深刻な問題だ。確かに配偶者介護が多いのは事実だが、男性のほうが、通常先に死亡することを考えると、最終的にはそれは期待できない。(奥さんが先に死んでも同じなのだが)そして、子どもが多い時代であれば、確かに同居する配偶者が介護していても、子どもが手伝いにくるというパターンが一般的なのだが、子どもの数が急速に減って(前にも述べたが1947年生まれの出生率は4.5あるのに、57年生まれは2.0である)、だんだんそれが期待できなくなる。

いずれにせよ、施設を増やさなければならないのだが、それがぜんぜん進んでいない。

実は、私のように高齢者を専門とする精神科の立場からみて南田さんは例外的なことが多すぎる。

一つは進行の速さだ。

確かに今のご時世70歳前後のアルツハイマーは若年性といっていいくらいだが、はっきり言ってかなり進行が速いタイプだ。それをきちんとメディアで伝えないと、多くのアルツハイマーと診断された方やその家族を不安にしてしまう。私も多くの患者さん(初期の方で、このまま進むとまずいからデイサービスにいって薬を飲んでくださいと伝えている人など)やその家族から、この不安を聞いた。そういう人には、ものすごい例外と伝えることにしている。(家族には例外もいることも伝えるが)

二つ目の例外は合併症の多さだ。

テレビをみた人から聞いた話だが、入院して肝臓の治療をしたら、コミュニケーションがかなりよくなったとのことだ。認知症で人の話がわからなくなるとかいうのは末期に近い状態なのだが、肝臓が悪くて、軽い肝性昏睡を起こしていたり、

私自身、テレビなどを見ていないので、このことはきちんと伝えたのかもしれないが、認知症の症状は合併症があれば、確実に悪くなる。逆に合併症を治してあげれば、認知症の「症状」はよくなる。今回の一件はそのいい実例だったと思うのだが、どうもその啓蒙にいたっていないようで、南田さんは悲劇的・典型的認知症と思っている人が多いようだ。

最終的にくも膜下出血で亡くなったが、これも合併症といえる。アルツハイマーというのは、私が学生のころはなって6-7年で亡くなることになっていたが、10年、20年のケースは珍しくない。さすがにこういう誤解はないだろうが(でも、先々、そんな書き方をする人はいるだろう)、南田さんはくも膜下出血で亡くなったのであって、アルツハイマーで亡くなったのではない。

だから、急に悪くなって、急に死ぬというのは例外中の例外なのに、これが通常と勘違いされては困るのだ。

長門さんにしても対象喪失でうつになる可能性もあるが、長期にわたる介護というストレスにならなかったのは例外的なことなのだ。

三つ目は、これも誰かが指摘していたが、在宅介護ができたにせよ、住み込みの家政婦が使えるのは、やはり例外だということだ。それができないから施設介護が必要だろうし、在宅介護にすべて住み込みがつくのなら失業対策にはなるだろうが、膨大な労働力が必要になる。

経済的に恵まれた介護なのに、あれを見て在宅でやれるとか、在宅でやらなければいけないと思い込ませたとすれば、やはりテレビにありがちな押し付け道徳である。普通の老老介護がどんなに悲惨なものかも伝えないとフェアではない。こんなことだから、施設がいつまでも増えないという問題もある。

早死にと経済的に恵まれているという例外状況を見せられて、最期まで在宅で見とれると国民が思ったら大変なことになる。

この一件はあくまでも例外で、在宅介護は難しいということをもっと強調してほしい。

子供2人が当たり前の世代の親たちがここ数年でどんどん要介護になっていくのである。

ただし、住み込みが大金持ちでない、少しお金をためている人(2-3000万円程度だから、退職金が丸々残っている人)に可能な方法はないわけではない。

現状の介護保険なら要介護5がつけば38万円ほどの介護保険が受けられる。これがバウチャーになれば、住み込みを月に60万円で雇っても、あと22,3万円の負担ですむ。2000万円の貯金があれば8年くらいはもつ計算だ。

介護についてはバウチャー制の導入は保険である以上真剣に考えてもらいたい。(それでも在宅は大変と思うが)