気になったメッセージについてまずいくつかコメントしておきたい。

理系出身は正確には初めてではないというメッセージ。確かに田中角栄の中央工学校卒というのは、どのくらい通っていたのかに疑念はあるが、彼が非常に数学的センスがあり、また数字に強い政治家だったのは確かなようだ。鈴木善幸が現東京水産大卒ということで、確かにカテゴリーとしては理系といわざるを得ない。ご指摘を感謝する。


頭のいい人として、原丈人さんというかたをご紹介いただいた。残念ながらこの方のことは存じ上げない。私自身は会ってみないと頭がいいとか信じないほうだが、機会があれば著書などを読ませていただきたい。

大学進学率が5割を超えてますますの学力低下を心配するメッセージをいただいた。これについては、現状ではあたっていると思う。ただ、フィンランドの場合は、大学進学率が7割を超えているのに、学力低下が問題になっていない。これは、大学入学資格試験があるからだ。日本でもこれを作れば、名前だけ書いて大学に入る人とか、面接をうまくごまかせば大学に入ってしまう人はいなくなる。ちなみにフィンランドでは、これに合格しなくても専門大学(AMK、基本的には職業大学)には進学できる。日本も見習う価値のある制度といえそうだ。

さて、本題に移りたい。

私は、現在、テレビのレギュラーがなくなっていることになっているが、厳密にいうと、CSの医療福祉チャンネルというところで、テレビキャスターの黒岩祐治さんがやっている『黒岩祐治のメディカルレポート』という番組で、レギュラーコメンテーターをかれこれ6年務めている。

実は昨日は、その収録で今回は2回分の収録になる。一つは病理医の不足で、一つは研究医の不足がテーマだ。

実は、病理医の不足は前から問題だと思っていた。海堂尊さんなども問題にしていたはずだが、日本だとほとんど病理解剖がされないので、毒殺の場合なら、一回目ならまずばれないだろうということだ。二回目以上ならさすがに疑われるだろうが(実際、カレー事件がなければ、和歌山の保険金殺人にしてもそのまま素通りだったし、トリカブトにしても何回もやるからばれたのだ)、こんなひどい話はない。

また、高齢社会になると病理医がいないと医学の進歩にも影響が及ぶ。私が浴風会という病院に在籍した際に剖検の検討会にずっと出ていたが、心電図の上では完全に心筋梗塞なのに、解剖してみるとそうでなかったとか、高齢者の多くに小さいがんがあると、あ脳血管性の認知症と思っていたら、ほとんどのケースで脳の表面にアルツハイマー型の変化もあったとか、逆に認知症と思っていたら、脳を解剖するとなんでもなくて、実際は欝だったかもしれないと反省するとか、実に学ぶことが多かった。

高齢者の検査の結果が本当に正しいかを見るために病理医の存在は貴重だ。

あと、がんの場合にしても、病理医がいない病院で手術すると、術中の迅速診断ができない。すると、外科医が勘でどこまでががんかを判断するとか、あるいは、思い切り大きめにきるとか、そういうやり方になってしまう。

私なら病理医のいない病院でがんの手術など受けたくない。

実は日本でがんが死因のトップになって25年以上経つのだが、いまだにがんに対する体制が遅れている。放射線治療医も、がんの薬物療法の専門家も、術中の病理医も、緩和医療もすべて遅れている。これまで、厚生労働省も医学界も何をやってきたのか?心臓の医者だけが声が大きくてメタボメタボと騒いでいるのとは大きな違いだ。

研究医も不足している。

私はかねがね、ITの次のFT(financial technology金融工学)の次は、BT(biotechnology)だとにらんでいる。これが遅れているのは国家的な損失だ。

私は大学病院の臨床軽視、研究重視を批判してきたが、それは臨床科の医局についてであって、ほとんど学生の指導もせずに研究室にこもる医者が多かったことを問題にしてきた。そのくせ、世界的な研究はほとんど出ていない。New England Journal of Medicineの日本人著者の割合はわずか1%だ。それと比べて基礎医学は少ない人数でよく検討している。

しかし、大学で臨床研修を受けても月に30万くらいもらえるのに、基礎医学なら大学院にいって逆に授業料をとられ、卒後の収入も少ない。

彼らのバックアップ体制がないと研究医の不足は防げない。

日本をバイオテクノロジーで世界をリードする国にするために、ある程度国家戦略は必要だろう。せっかく山中教授がiPS細胞でリードしていても、お金の力でアメリカがどんどん進んでいるそうだ。

民主党政権は金の使い方を知っているのだろうか?