さて、株式公開=金儲け主義とは限らないというブログに対して、もとの質問の主から、黒字にするために、1軍の選手を全員売り払って2軍選手だけ使えば、10-20億の黒字になる。それでいいのか?村上氏ならそのくらいのことを考えかねない

という趣旨のメッセージをいただいた。

さて、このことについて2つの私の見解を述べたい。実は、これは大切なことである。

確かに1軍の全選手をトレードに出すことは野球協約上はできる。これを金銭トレードという形にすれば、10億か20奥の金が入るかもしれない。また選手の人件費も大幅に浮くだろう。

ただし、上場したいという人が、そんなことをやることは考えられない。むしろやるとしたら、松田元のようにケチなオーナーがいるとか、経営に監視機能がかい非上場の場合だろう。

要するに上場したいということは、時価総額を上げることで利益を得ることを図ることである。上記のようなことをすれば、まず球団の魅力がまったくなくなるので、時価総額は暴落する。球団にとって株価を上げるもっとも価値が高いものは、選手だからだ。

逆に球団が上場していた場合、100億円かけてイチローをとってきても、時価総額が200億円上がるならかえって儲かることになる。選手を全員放出して10億や20億の金を得るより、いい選手をとってきて株価を上げたほうが得と考えるのが、上場企業の経営者の考え方だ。(もちろん、日本の球団関係者はおろか、親会社のほうもそういう考え方をもっていないのが残念だが)

もう一つは、球団経営ということがある。1軍の選手を全員放出して、2軍の選手だけを使うチームに客が入るかということだ。これによって観客動員数が、150万人から20万人(こんなチームなら1試合3000人も入るかも疑問だ)に減ったら、入場料収入だけで、20億はへこむ。球場での飲食品やグッズの売り上げも激減するだろう。そして、これは単年度の話でない。その2軍の選手たちが客が呼べるレベルに育つまで5年も10年も続く。

つまり、まともな経営感覚があれば、そんなことをすることはありえない。目先の利益を追いかけるのは、むしろ自動車会社の経営もろくにできずに、球団のオーナーに居座っているような奴である。たまたま、新球場に移って観客動員数が増えているようだが、金本や新井を出して、それによる観客が減るなどのデメリットを考えずに、人件費として損だとしか考えられないというのはまともな経営者のやることではない。

つまり、金儲けというのは、人が考えるほど甘くない。逆に巨人のように、何億も出してよそから奪い取った選手をろくに使わず、売り上げに貢献しないというのでは、これもバランスシートに合わない。

ということで、上場や経営で利益を出すのは、人件費を削ればいいという単純なものではない。アメリカ企業の場合は、逆にできる社員に関しては何億も、何十億も払うのは、その人がその10倍くらいの金を稼いでくれると考えるからだろう。日本の場合は、トップレベルの人にそんな高給を払わない代わりに、一般労働者の給料を高くして、製品の質を高めたり、愛社精神を高めたりした。それをやめたら、日本企業が落ち目になり、競争力をかえって失ったことは記憶に新しい。

二つ目の論点は、村上氏ならやりかねないという話である。

メッセージの主は、村上氏に会ったことがあるのだろうか?私は灘校の1年先輩ということで、知り合いかどうかをよく聞かれるが会ったことはない。村上氏の知り合いには、何人かあったことがあるが、人によって印象が違うのは確かだ。金儲けに関心が強い人という人もいれば、本気で世直しをやりたがっていたので、金儲けはその手段ではないかという人もいる。昔は世直しを真剣に考えていたが、変質したという人もいる。

少なくとも、これは会った人からの一次情報である。人間というのはそれだけ複雑なものなのだ。

私も精神科の医者をやっているせいか、何か事件があったり、目立つ政治家がでてくると、どんな人かというコメントを求められることがある。なるべくいろいろな可能性を想定して、決め付けないようにしているが(そもそも、そんなコメントを出すこと自身慎まないといけないと私も理解しているが、ほかの決めつけよりましと思って、コメントを出すようにしている)、結局、テレビや新聞や雑誌で使われるのは、ほんの一部で、結果的に相手のことを決め付けるようになっている。実際、精神科医でも会ったことのない人のことはよくわからないので、非常に後味が悪い思いをする。

だからマスコミの人間評は信じないようにしている。

このブログでも問題にしているが、悪人と決めたら悪いことしか書かないし、また弁護側の情報を一切流さないで、警察情報や検察情報を垂れ流す姿勢も危険だ。(弁護側から見ると、大事件がどんな風に見えるかは、武藤 春光 弘中 惇一郎著、『安部英医師「薬害エイズ」事件の真実』に衝撃を受けた。本の内容を鵜呑みにする必要はないが、検察情報だけでなく弁護側の情報もマスコミは取り上げないとフェアでないとは痛感した。

そういうわけで決め付けをするだけでなく、ほかの考え方もしてほしい。

よしんば村上氏が悪人だったとして、悪人のいうことがすべて間違っているとは限らない。私のような悪人でもだまにはいいことを言うように、悪人もときには正しことを言う。悪人や嫌いな人だからといって、全部否定していると思考の幅が狭くなる。逆に善人だからといって、すべていいことを言うとは限らない。橋下知事だって、すべて正しいやり方とは限らない。

何度も言うが、私が正しいといいたいわけではない。ほかの可能性も考えられる柔軟性をもってほしい(これはメッセージの主だけでなく、すべての読者の人に)といいたいし、多様な情報の一つとして、私の意見も入れて欲しいのだ。