石原慎太郎氏が、世襲問題より、官僚が県知事の過半数を握っていることを批判している。

自分の息子たちは、スパルタ教育とかいいながら、幼稚舎から慶応に入れ、受験の苦労をさせず、テレビ局に入れたり、政治家にしたりする人の考え方だから、世襲には抵抗がないのだろうが(そういう点では、政治家にならなかった良純氏だけは、絶対に親の力では合格できない気象予報士に合格するなど、頭が下がる。彼に多重人格の取材を受けたことがあるが、タレントには珍しく私の本をちゃんと読んできていた)、官僚の知事がそんなに悪いことなのだろうか?

官僚を知事にするのは、確かに多くの場合、自民党の思惑である。

実際、小渕優子や二、三回当選した後の小泉の息子が知事の選挙に出たら間違いなしに勝つだろう。そんな形で、各県の知事がみんな世襲になってしまうほうが末恐ろしい。そうでなくても、中央政界は、金王朝も真っ青な世襲国家である。県知事も代々のお殿様というのでは、まさに封建制だ。

ただ、それでは、確実に衆議院に当選できる人間を一人減らす(世襲でない人を代わりに選挙区に出すと負ける可能性が出てしまう)ので、あえて、知事のほうは世襲の人を立てずに、官僚を引っ張ってくるだけの話だろう。あるいは、世襲の方々は、小学校から慶応の幼稚舎とか、成城学園のような学校に行くので、田舎の県知事なんてやってられないと思うのかもしれない。

石原氏は官僚出身の県知事は、霞ヶ関の思惑通りしか動かないというが、鳥取の片山氏や宮城の浅野氏のような改革派の県知事の多くは、官僚出身だった。官僚の手の内や問題点を知っている分、改革派にもなりえるのだろう。自分の県の宣伝といって、たいした改革もやらず、高速道路の誘致にばかり熱心で、東京のテレビに出ずっぱりの県知事より、私にはましにみえる。

もちろん、官僚上がりの県知事にいい人もひどい人もいるだろう。

ただ、ある一定の効果があるのではないか?

実は、私の高校の同級生で県知事になった奴がいる。

私の学年から確か東大の文Ⅰに40人くらい入ったし、官僚になったやつの中にはもっと優秀な奴がいる気がするが、彼は田舎の出身だったので、郷里から白羽の矢が立って、県知事にかつぎあげられたのだ。

田舎出身がちょっとうらやましくなったのは事実だ。

田舎出身だと東大に入って、官僚になれれば、かなりの確率で(実はそれでも結構低いと思うが)知事になれるとすれば、田舎の子供が東大に入るモチベーションにもなるだろう。

世襲の政治家しか知事になれない、政治家になれないのなら、子供たちは学歴で成功するというモデルがもてない。そうでなくても、地方は、高学歴の成功モデルが医者くらいしかない。だから、地方の秀才がみんな医者になってしまうという困った現実がある。東大に入れば、県のトップになれるほうが、世襲でないとなれないより、子供のモチベーションにはいい影響を与えるはずだ。

それが県の発展につながるかもしれない。

ただ、中央集権という点では許せないのは、全国の県警本部長がすべて東京の警察官僚だということだ。

彼らは民意で選ばれたわけではないし、また地元出身とかいうわけでもない。現に小学校の塾の時代から同級生だった奴が縁もゆかりもない県の本部長になっている。

だから、田舎の実情を無視して、飲酒運転をがんがん取り締まって、いなかの飲食店をぼかすか潰す。そのほうが東京で点数が稼げて出世できるからだ。

官僚の何が悪くて、何がいいかも考えず、世襲の肩をもって、官僚を叩くのは、自分の息子をコネでテレビ局に入れたり、政治家にしたりする発想だろう。少なくとも、官僚というのは、どこの大学を出ていても国Ⅰに受かれば、なれる。高知大学を出ても局長になっている人もいる(逮捕されてしまったが)。しかし、都知事の息子がはるかに競争率が高いテレビ局の入社試験に受かっても、客観的に点数で評価される国Ⅰに受かることはなかったはずだと私は信じる。