子どもに脳死を認めるかどうかの議論が喧しい。

外国が、外国人の移植を認めない方向に動いたことが大きいようだが、私は移植待ち患者に期待をさせすぎる問題をどこも触れないのが疑問だ。

一つには、大人の脳死移植でさえ、11年間に100例ほどしかできていないのに、子どもが脳死状態になって、体も温かく心臓も動いているのに、臓器提供者がどれだけ現れるのかという素朴な疑問である。

最初の数例は、移植学会や脳死を認めた手前もあって、相当な圧力をかけて臓器を提供させるだろうが、あとは現場の救急医療をやっている医者たちがそれほど熱心に動くと思えないし、また最初の数例は新聞に載るから移植医も一生懸命やるだろうが、それ以降は手柄にならないので、彼らも一生懸命やるように思えない。

最初の1年は、2,3例、その後は年に1-2例というのがいいところだろう。

そのために法律をかえる必要があるのかどうか?

もう一つは、移植医の技術に対する不信である。

アメリカみたいに子どもの脳死心臓移植が毎年1000とかいう単位で行なわれるのなら技術的にもあてになるが、できて数例ということで本当にうまくなるのか?心臓のバイパス手術でも年に100例くらいやっていないと信用できないというのが心臓外科医の常識である。

ついでにいうと、手術がうまくいったとしても、免疫抑制剤の使い方だってなれていない。手術がうまくいっても免疫抑制剤の副作用で死ぬという笑い話のようなことだって現実に起きている。

最後に言いたいのは、移植医のモラルである。

日本で最初に脳死移植をやった深尾という医者は、後に日本の移植学会の理事長にまでなるのだが、法律で決まる前に脳死移植をするということはおいておいても、糖尿病で腎臓を悪くした患者(透析を受けながら仕事ができていた)に、すい臓も移植すれば糖尿病も治るとうそをついて、腎臓だけでなくすい臓も移植した。深尾はアメリカで肝移植を習ってきたがすい移植はやったことがなかった。

結果的に、その患者の糖尿病は治らず、手術後、一度として仕事に復職できず、1年で死んでしまった。透析を受け続けていたら8割以上の可能性で1年以上生きられていたのに。

深尾は、絶対死ぬことがわかっていて、心臓死の肝移植をやったことのある人物でもある。(もちろん、レシピエントは数日で死んだ)

こういう人を殺すことが平気な人間が、やりたいから移植をやり、そのために法律まで変えさせて、これが認められたらみんなが移植を受けられるようなうそをいい、結局数人しか移植をしないでしゃんしゃんである。

脳死移植が禁止されていたころ、日本の人工心臓のレベルは世界一だったし、生体肝移植も世界でトップレベルになった。

あわてて法をかえるより、必死で人工心臓を作るほうが、誰もにハッピーなのは間違いないだろう。

そして、移植医が1年で死ぬという患者の多くは内科が優秀なので10年以上生きる。移植医に殺されるより、技術の進歩を待ったほうが賢いのである。今はすい移植をしなくても、ランゲルハンス島の移植も可能になっている。(まだ成績は十分ではないが)