金持ちが貧乏人をだます手口の一つに、日本は相続税が高い国で、そのせいで成城や田園調布の土地がばらばらになるという話をすることが多い。

野口悠紀雄氏の名著『超納税法』に詳しく出ているが、日本の場合、相続税の基礎控除額が高く、路線価は公示価格の8割程度なので、一人兄弟であっても、公示地価3億7500万円まで課税されない。

成城学園は、当初売り出されたときに、一区画140坪だったそうだ。その土地の細分化が問題になるわけだが、現在の140坪の時価は坪250万円程度だから、3億5000万円。140坪の豪邸を相続しても、その家がある程度古くて、建物に価値がないと判断されれば、一円の課税もされないことになる。確かにバブルの一時期のように、坪800万円もした時期であれば、相当の課税がされただろうが、現実には5億円程度の土地を相続しても、数千万円の相続税で済む。そんなものを払えない人が140坪の邸宅に住む資格があるのだろうか?むしろ、庭師も雇えないような人が成城や田園調布に住むほうが、町並みに悪影響を与える。(実際、お化け屋敷のような家も残っているが、治安や防火上危険である)また、現預金も残しているだろうから、子供は腹を痛めず、土地建物を相続できることが多い。

現実には、この異様に高い控除のために、死亡者のわずか5.2%しか相続税を払っていない。払っている人の実質税率はわずか4%という試算がある。(このほかにも、上場していない会社の株についての異様に低い評価の問題もある。だから数千億の相続をして、1割も税金を払っていない、ソニーの盛田氏のようなケースが出てくる。ただ、その息子はくだらない事業に手を出して破産したそうだが)もちろん、実質税率はアメリカのほうがよほど高い。

むしろ、このように異様に相続がしやすいシステムのために、努力して金を稼げるようになっても、成城や松涛になかなか住めないことのほうが大問題なのだ。

では、なぜ成城や田園調布の土地が細分化されるのか?

それは、民法で兄弟が平等相続だからだ。

前述の4億円の土地の相続の場合、二人兄弟で親が遺言を残していても、遺留分は1億円あって、兄が弟に一億円払わないとその家に住めない。3人兄弟なら、二人の残り兄弟に払うのは1億6667万円になる。

遺言を残していなければ、半分にわけないといけない。

それを相続税のせいにして、そうでなくても安い日本の相続税は、最高税率が70%から50%に引き下げられた。

しかし、親が死ぬのが80代半ばの時代では、財産が入ってくるのは60歳前後。この人たちが金を使わないから経済が回らない。個人金融資産の8割が60歳以上という異常な状態なのに、相続税をいじらずに、若い世代から消費税を取ろうとしている。

金持ちのうそにだまされている限り、日本の消費不況は治らないだろう。