とある雑誌で中学受験の功罪というテーマで取材を受けたのだが、そこでいろいろと考えさせられることがあり、今のご時世、文部科学省の罪は、単に学力を貶めただけでないことに気づいた。

一番の大罪は、教育を金のかかるものにしてしまったことだろう。

もちろんこれは貧しい人間のチャンスを奪うだけでも大罪なのだが、それ以上に、これが中流階級の多くの人の可処分所得を大幅に減らしている。

もちろん雇用や老後の不安など解決しなければならない問題はあるにせよ、公立学校からでも、塾に行かずに十分に東大や名門大学あるいは医学部に入れるというのなら、もう少し金を使う家庭は増えるだろう。デジタルハイビジョンのテレビや車の買い替えなどを我慢している家庭の中には、子供の教育費問題もからんでいるはずだ。こういう消費不況の時代には、公教育をしっかりさせることは、意外に大きな景気浮揚効果をもつはずだ。実際、公立からたくさん東大に入る富山とか愛知は比較的経済がいいし、それ以上に「豊かな県」と言われている。消費に金が使えるからだろう。これを財界や経済産業省、あるいは政治家がもっと声を大にしていうべきだ。

あるいは、優秀な女性の就労にも悪影響を与えている。

アメリカなどでは、夫婦で医者や弁護士をやっていても、子供を名門大学に行かせることができるように金はかかるがボーディングスクール(寄宿学校)が充実している。日本にはこれがない。こういう学校を助成するだけでも、エリート女性が働き続けやすくなる。日本の場合、女医さんのかなりの部分が子供の教育のために医者をやめるようだ。そうしないと子供を医者にできないのである。中学受験や大学受験で共稼ぎが明らかに不利だから(データ上も)である。ただし、さすがに子供の情緒的発達も含めて考えれば、ボーディング・スクールは通常中学からになる。そこで、小学校のときに基礎学力をしっかりつけてくれればボーディング・スクールで授業も含めて1日9時間くらい勉強すれば、十分どこの大学だって行ける。現在、富山の片山学園がこのコンセプトで学校を作っているが、おそらくすばらしい実績を出すことだろう。
女性、とくに優秀な女性の活用のためには、この手のシステムは必須と言っていい。医療崩壊の裏の理由は女医さんを十分活用できていないことにあるという。実際、今医学部に入る人の3割は女性だ。早急に対策をとらないと医者不足は止まらない。また地域の医者不足も、子供の教育のため、子供が就学年齢になると都会に住みたがるという事情もあるようだ。

教育をしっかりさせれば、景気や医療崩壊などの現代的な問題の多くが解決に近づく。いい加減文部科学省のアホ官僚をやめさせ、民間を含めて、教育の成功者の立案が通るような(文部科学省は実績のある民間教育の人間を審議会の委員にすると勝ち目がないので、絶対にそういう人間を委員にしないという汚い役場だ。批判の多いほかの官僚だって、民間の成功者を審議会の委員にして、批判を甘受しているというのに、御用学者をもっとも登用するのが文部科学省と厚生労働省だ。東大でも下のほうの人間しかいかない役所というのはこういう発想になるのだろう)教育を再建すべきだ。

逆にそれをやらないことで景気の足をひっぱり、優秀な女性を泣く泣く仕事をやめさせている文部科学省の罪は大きい。