昨夜は私が所属する勉強会、「21世紀文明構想フォーラム」で西川伸一先生の講演を聞く。

理化学研究所の発生・再生科学総合研究センター 副センター長、幹細胞研究グループ・グループディレクターの西川先生は、今話題のiPS細胞のベースになるような幹細胞やその分化についての日本の権威である。

こういう最先端の研究者に話を聞くと、本よりはるかに進んだ段階で今何が起こっているかわかる。

現在は、昔、膨大な時間と金がかかった一人の人間のすべてのDNAをそれほど金も時間もかけずに読めるような機械(これがともに日進月歩で金も時間もかからないようになっているという)ができているそうだ。

さらにそのDNAのどの部分を働かなくすることで、それぞれの細胞が血液になったり、腸になったりするのを決めるのにメチル化と結合する蛋白が働いていることもわかっているそうだ。

しかも、たとえば自分の血液をとると、DNAのどこの部分にメチル化がおこっているのかもわかるレベルに達しているという。

画期的にわかりやすかったのは、iPS細胞についてだ。体の細胞からDNAを取り出し、それを核をぬいた受精卵に入れることで、自分と同じDNAをもった動物や人間を作ることができるのがクローンの技術。受精卵からの分化の初期に、すべての細胞に分化できる細胞ができるが、それを取り出したものがES細胞だが、この二つの技術をドッキングしたのがiPS細胞だという。

要するに自分の体の細胞からとったDNAをもったES細胞、つまり自分のDNAのES細胞が作れるようになったのだ。

これをたとえば血液にしたければ、先ほどのメチル化と蛋白結合で制御すればいい。そのレベルのことが目前に迫っている。

さらに、ガンなどはDNAの異常で起こるわけだが、メチル化とか蛋白結合を外してやると、ガン細胞がもとの細胞に戻るのだそうだ。

実際、骨髄のガンで脱メチル化剤を使って、治療に成功したものがあるそうだ。
(もちろん、ほかの細胞の脱メチル化の危険もあるのだが、ある量でやるとそれがほとんど起こらないという不思議なことが起こっているらしい)

おそらく、10年か20年で医学は画期的に変わるだろう。

問題は、今の医学教育のシステムだ。

日本では、昔流の医学を学んだ連中が大学医学部を牛耳っているので、現状にそぐわない医療がまかり通っている。

たとえば、ガンにしても欧米では放射線治療がトレンドになっているのに、日本では外科の医局が巨大で、放射線科の医局の人員が少ないので、放射線治療医の養成が遅々として進まない。高齢者が増えているのに、総合診療医の養成も進んでいない。

そのせいで患者は古い医療を押し付けられる。外国では当たり前だった、乳がんを小さく切って、その後に放射線をあてる治療法がスタンダードになるのに15年も遅れてしまった。(今でも大きく切るところがあるらしい)

医学教育の抜本改革をやらないと、日本の患者は救われないし、医療の後進国になるだろう。

西川先生が偉いのは、このような最先端の研究者でありながら、その認識をもっていることだ。大学教授になりたがる(業績がぱっとしないやつほど肩書きをほしがることは心理学者でなくてもわかる話だが)ダメ研究者が多い中、京大教授をやめて理研に来るのは、やはり世界レベルだからだろう。

教授争いをするクズ学者は山中先生や西川先生のように何をやっている人かのほうが先に知れて、肩書に頼らないレベルになれるように精進してほしい。