NHKの会長人事が話題になっているが、この問題を考える場合に、NHK会長をなぜNHKの外部から招聘するようになったのかを見ることが重要なのではないかと思う。

私はNHKのOBであるので、NHKの中から見た視点を交えお伝えしたい。

NHKは8年前に福地茂雄会長を迎えるまで、4代続けてNHK内部出身の会長であった。
度重なる不祥事に十分に対処できず、組織の根本的な意識改革が必要であったことから、外部から会長を招くことになった。

事の本質はNHK内部出身の会長でなぜ十分な改革を行うことができなかったか、この点に着目する必要がある。

NHKは放送局でありジャーナリズム組織であるわけだが、一定の職位以上では権力闘争が生じる。
すなわちNHKのトップである会長職を狙う、その前段であるNHK理事を狙う、そのために視聴者のほうを向くよりも組織の上の様子をうかがう人物が出てくる。

なぜそうなるのか。
現場を離れ管理職となった人物が、より上位の職位を目指すことは一般企業でもごく普通のことだが、NHKの場合は、役員である「理事」になる場合、いったんNHKを退職し退職金を得たうえで理事になり、理事報酬(年間2千200万円)と理事の退職金も得られる。

その後は関連会社を重役で渡り歩き、現場で最後までジャーナリストや制作者として働いた人物よりもかなり多くの収入を得ることができる。

さらに理事はNHK内部で絶大な権力を持ち、会長職ともなればなおさらである。
そして、権力を維持するため不祥事はなるべく“起きなかった”か“外部に漏れない”ようにする。

こうしたNHKの体質が不祥事の発生と不祥事からの再生を困難にし、外部からの会長招聘に至ったのである。

アサヒビールから福地茂雄会長を招いて以後、それ以前に比べ組織改革や意識改革は進んだが、それでもまだ不祥事が起きる。

その一方で、NHK内部では、内部からの会長昇格者を出すことをあきらめていない勢力もある。

あくまでNHK会長人事は経営委員会の判断だが、経営者として第一線の厳しさを経験している外部の方が会長職に就くのは、NHKにとっても視聴者にとってもメリットは大きいのではないだろうか。


『 NHK会長に上田氏 三菱商事元副社長、籾井氏は退任 』(日本経済新聞)
http://mw.nikkei.com/sp/#!/article/DGXLASDZ02I90_S6A201C1MM8000