高校の漢文の授業中に夢想した……
儒家、虎に捉われた。虎、四肢で押さえつけ、口を大に開きて、人を俯仰せんとす。虎の眸は暗火に輝く。
「ふふふ、今より、お前を啖呵せむや、何か言わんか?」
「否、斯の状況に於て、何も無し」
「ほほぉ、心、穏やかなり、何も心残りを抱かんのか、家族とか夢とか」
「然り」
「面に、もの有り、と記せり。言ってみん、我は寛大なりや。」
「一つ…」
「さぁ、さぁ、有りしを言え」
「然り、我が師の語りて云う、
『朝に道を聞かば夕べに死せんとも可なり』と。
我、努力せんとす。然れども、歳月進みて、
其の道を知らざる、是れ我が悔悟なり。知らば、死せんかと。
嘘なく、命を捧げん覚悟あり。」
「ほほぉ、道、とか。命を捧げんか。」
「然り」
「我、老虎、至此まで生を保つ、歳月を経て、
是れ地に在りて人が言葉を知る以前より、其処を踏まざる所無し。
其の間、目に入りしも、多多有り。
神仙の地あり、魔境の境あり、桃源の所あり、是れ地に及ばざる処無し。
是れにて、物の道を学び、知恵を賜い、我が思想も己で巡らせし。
大なる歳月を経て、老虎を如此の神域へと導けり。」
「これ真なりや…」
「真、是れの道、我より教えん。」
「感謝せん」
「真理を大声に呼ばんが故、其の威を損ぜんというもの、
細声に言わんが故、耳を差し出せ。」
儒家、右耳を差し出し。虎の言葉に圧倒され、何等か期待せんような心持ちを湧き上がらす。
生涯の目的。
次に、虎は耳近くに呟き、儒家は大きな瞳を展ぜしめる。続いて、虎はその大口で儒家の頭を丸ごと飲み込みけり。
虎、噛み砕きつつ、思索せん。
「然るに、生を保つことのみが、道ならん。命を代えんか、賢き愚者なり。」