残り二分。60分3本勝負で、ビル・ロビンソンが一本先取、このままでは、猪木の敗北。
観客は祈るように見ている。恐らく、私のようなテレビの前の視聴者も。
ビル・ロビンソンが得意技のダブル・アーム・スープレックス、猪木はリングに叩きつけられ、ロビンソンがカバーするが、猪木は返す。ロビンソン、猪木を立ち上げ、下からエルボースマッシュ。しかし、耐えた猪木はドロップキックでロビンソンをロープへ飛ばす。ロビンソン、ロープでふらつきながらも、戻っても来て、猪木にエルボースマッシュ、そして、傾いた猪木をロープに飛ばす。
時間がもうない。
戻ってきた猪木に、ロビンソンはエルボースマッシュ、しかし、猪木はかわし、ロビンソンは空振りで、背を猪木に向ける。猪木、右脚を後ろからロビンソンの左脚にフック、すぐに、ロビンソンの右腕を左脇で絡め取り、同時に猪木の左脚をロビンソンの首に巻き付ける。
卍固めが決まる。
レフェリーのレッドシューズ・ドゥーガンが、ロビンソンにギブアップかを聞く。ロビンソン、ノーのジェスチャー。卍は続く。ギブアップを求める観衆の応援のボルテージは最高潮。割れんばかりの声援。
ウォォォォォォォォォォォォォォォ!
レッドシューズ・ドゥーガンがまたきく。
ロビンソンはギブアップのジェスチャーを示した。猪木が祈りに答えた瞬間。
ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!
日本中で、
ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!

猪木が一本取り返した。試合時間は残り三十秒しかなかった。

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私のアントニオ猪木の一番の思い出は、このシーンであった。祈りを叶える英雄であった。闘う鬼神であった。