【嫌い嫌いも好きのうち】

 

菓子屋の社長がうんぬん、IT関連の社長の達哉がうんぬん、淳がどうしたこうした、バツイチだからって何もない。

本当の私は恋して傷つく事に臆病になって、いかにも大した事じゃないんだぞって去勢を張っているだけの一番みっともない感じ。

もう、情けない。

 

とってもしんどい二日酔いくらいしか、普段は風邪一つひかない元気な私だから。

きっとこのひどい二日酔いと大きな絶望が気を滅入らせてる。

 

吐くだけ吐いておなかがすいたから、淳とコンビニへ。

おかゆみたいなカップのやつと、胃腸に優しそうだからってヨーグルト。

車ん中で淳と話しながらゆっくりと食べる。

「調子は良くなったんか!食べれるならよしだな」

なんて言って頭をくしゃくしゃとしてくる。

そんなさり気ない接触も淳とは兄弟みたいで落ち着く。

決してドキドキしたりはしない。

一つ年上で半分幼馴染みたいな感じだから(うちの家の方が後から越してきたから)

調子良くわがままだって言える。淳の気持ちを分かっていても淳が何も言い出さない事で今の居心地の良さをとっているのかもしれない。

でも、淳と話しながらも私の心は今朝がた感じた絶望が離れない。

「少し眠りたい」

と、そのまま食べっ散らかして私はシートを倒して眠りこんだ。

体はしんどくて眠りたいのに心がトキトキして眠りにつけそうにもない。それでも私は眠ったふりをして寝息をたててみたりした。

そうしているうちに現実と夢との間で私は現実感を失う。

 

恋愛シートの上で駒になる自分を遠くのプレーヤーの自分が自分駒を動かしている感じ。

対戦相手は一体誰なのか。

世間なのか常識なのか、よくは分からないけれど、恋愛シート上にいるのは私だけではなく、誰かがいるんだけど、それが敵か味方かの区別もつかない。

自然体でマイノリティな藤野氏とは裏腹に、私はあえてマイノリティを選択している。

しかもそれは、ひどく中途半端な形で。

 

うつらうつらと眠って起きた時には、もう日がどっぷりと浸かる寸でだった。

淳は淳で一緒になって眠ったらしく

「ハナの鼾が子守唄に聞こえて、俺も寝ちゃったし」

なんて言ってる。

もうすでに私は淳の前でリラックスし、巧妙の事さえも忘れていつも通り。

「ゴリラやし。バナナでもお礼しましょうか?」

「なにを?チンパンジーのお嬢さんに振り回されるのはこりごりだわ」

なんて冗談を言いながら帰った。

 

便のいい、自分を想ってくれている男っていうのは本当に貴重だ。

 

休みもあけて月曜日。私は会社へ行く。

そこは、あのパーティ明けのぐてんぐてんのハナさんとはうってかわって仕事モードで。

だからして余計に気恥ずかしさはあるとも言えるんだけど、あえて喫煙室で会ってもチラリともそんな話はせずと過ごす。

仕事は相変わらずで、時間に追われるしそれなりにストレスも多い。

仕事をしながら、私は週末の失態を忘れて自分を取り戻しているのかもしれないなぁ。

 

平日を何日か繰り返して、私はすっかり通常モード。

菓子屋の社長から何となくな電話があったり(誘うわけじゃなくて、いつもまたねって切る感じ)、淳とファミレスに出向いたり(他愛のない冗談を言ってるだけ)、達哉からの突然の連絡に応じて変わらずシティホテルで何度か朝を迎えたり。

慣れてくると新鮮さも少し薄くなる。

そしてしばらくは、書道展の練習に明け暮れる。

 

自分が夢中になれるものを持つのはいいもんだと思う。

書道を始めたのはすっかりオトナになってからだけれど、当初には考えられなかった書道展だとかやっている今ってやっぱりすごく充実しているように感じるし。

こんな遊び人風情やってても、書道展の方を優先してあんまり遊ばなくなるんだ。

季節はすっかり春めいて、また今年も花見にいけなかったなぁなんて残念がってるそばから昇段とか書道展とか続くから、本当に一年なんてあっという間!

年二回の昇段、そして同じく年二回の書道展への出品。

その間が集中しちゃうから、それ以外の時間がまた爆発しちゃうのかもしれない。

 

そして、出品を終えたまだ梅雨曇りの空の頃、私は藤野氏を飲みに誘った。

彼の誕生日があったから。

私は一つ決心をしていた。

 

続く……