【嫌い嫌いも好きのうち】

 

『藤野氏に思いを告げて、そして潔く振られるんだ』

と。不思議に絶対振られる予感があった。

けれど、思いを伝えたい気持ちは変えられなかった。

 

日程を決めてからの私は用意周到。

まず、前週に予約した友達の店にシャンパンとクリスタルのシャンパングラスを持ち込んだ。シャンパンはエノティカで限定発売のピンク。

普段の自分用のワインやシャンパンなんかは、地下一階のキタノエースで仕入れるくせに、何となく意気込んだ感じがなんとも自分でもいじらしい。

当日、予測通り藤野氏は残業。(ちゃんと計算内)

だから私はまたもやエノティカに足を運んで、今度はプレゼント用の赤ワインを購入する。

本当は、飲んだらなくなっちゃうお酒類じゃなくて、形として残るものが良くて、色々考えてみたけど、藤野氏にぴったりのプレゼントはどうにもかんにもお酒しかしっくりこなかったんだ。

そうして私は先に店へ入って冷たいビアで湿った空気を忘れさせてくれる、美味しい一杯を楽しんでいた。

これから始まる藤野氏との宴への楽しみと、ゆきあたりばったりの私の告白。

いったいどうなるのやら。

まったくもって私は結論よりも過程が好きなんだと身にしみて感じる。

 

ほてった体も通常に戻る二杯めのビアの半分目の頃、メール。

『多分近くまで来てます』

慌てて飛び出て表で藤野氏を探す。

彼はいつもの足取りでこちらへと向かっていた。私は手を大きく振って

「こっちだよ!」

もちろん満面の笑みで。

「コンタクトもメガネも忘れちゃって、お店の看板とかよく見えてないんです」

だって。

私は藤野氏とお店のオーナーである大将とを互いに紹介する。

またいつものようにお互いに仕事の話とか、近況なんかを話してあっという間に過ぎる時間。

大将が

「そろそろ出しますか?」

って言ってくれるまで、シャンパンの事もそっちのけだった。

「よろしく」

そう言い、私はワクワクしている。

シャンパンが大好きで、何かあればすぐに

「泡行こう」

ってはしゃいじゃう私。

「誕生日おめでとう!」

私と藤野氏、大将と大将の右腕でもあり友だちでもある中田と乾杯する。

「藤野さんを生んだお母さんに感謝」

と、私。

「藤野さんを仕込んでくれたお父さんに感謝」

と、大将。

4人で大笑い。このまま時が止まってしまえばいいのに。

「うちはね、自分の誕生日は、お母さんとお父さんに生んでくれてありがとうって云う日なの。だから、毎年離れていても必ず電話して言うんだ。生んでくれてありがとうって」

「素敵じゃないですか」

「まぁね。子は親を選ぶ事は出来なくて、でもこの親の子で良かったな、なんてオトナになってからしみじみとね」

なんて真面目に言ってるのを大将がちゃかす。

「ハナちゃんも、しみじみなんてしておばはんの仲間入りですわ」

またみんなで笑う。

シャンパン片手に牛すじの煮込みとか、ごぼうを炊いたやつだったり、こぶで締めた鯛なんかを肴に飲んだ。

「誕生日に何をもらうと嬉しいの?」

なんて聞いてみる。

「俺、物に執着がないんですよ。だから、下手に物をもらっちゃうと困っちゃいますね」

なんて。私がプレゼントを用意していないとくくっているんだろうか……。

「じゃ、何が嬉しいの?」

「やっぱりお酒ですかね」

やっぱり私の勘は当たってたんだね。ちょっとガッツポーズ。

 

「ハナさん。アイフォンのアプリで手相占いがあるのを知ってます?」

と、藤野氏。

 私は全然イマドキ携帯なんて興味ないから

「どんなん?」

って。

それで二人で件の手相占いを始めた。

ピロロロン。って手をスキャンして診断が出る。

恋愛について、仕事について、総合的な運勢について。当たっているようでも当たっていないようにも捉えられる内容でも楽しくて。私は提案する。

「私の友達の友達が占いバーを始めたの。この近くだから、行ってみよう」

「いいですよ」

お会計は私が払う。だって誕生日だから。しかも自分の友達のお店だし。ここで誰かに払ってもらうのは何だか気がひけるんだ。

そして、私はカウンターの後手の棚から自分の鞄を取り出し、さらにその奥の紙袋を取り出し

「誕生日おめでとう」

ワインを差し出す。

恐縮しながらも受け取る藤野氏に、私

「ドキドキしたわ。これでお酒って言わなかったらほかってしまうとこだった」

って。二人で笑った。

また、お店を出て占いバーへ向かう時、

「手、つなごう」

って差し出した。うんってこくりとうなずいて黙って手を握ってくれる。ただそれだけの事で私が舞い上がってるなんて、分かっているのかしら?

「藤野さんの手は思ったよりもごついわ」

なんて正直に言ってしまう。

「俺、子供のころからだが弱くて、実はいろいろ格闘技とか習ってたんですよ」

「嘘。ちょっとやってみて!」

女子大小路を抜けて、国道の信号を渡りながら話してた。

ふざけながらも足技をひょいっとするから、私思わず手をつないだまま転んじゃう。

慌てた藤野氏の手を

「きゃッ」

って引っ張っちゃったから、あやうく私の上に転がりそうになる。

寸でで往生している時、信号が赤へ変わった。

プップーー

せっかちなドライバーがこちらを睨みクラクションを鳴らす。

あぁ、もうせっかくはしゃいでるのに。

慌てて私を抱き起してつないだ手をぎゅっと力を込めて

「ハナさん、早く!」

って走り出す。もう、ヒールじゃ走れないよッ。もたもた走りながら、どちらかともなく笑ってた。このまま抱きしめて告白したら、振られても本望なのかも、なんて心のはじっこで思いながら。

 

占いバーはすごく混んでた。

カウンターに5席、ボックス席が二つ。ボックス席にはホモの団体。

表の湿気をカラリと吹き飛ばす空調も、タバコと異様な雰囲気と混ぜ合わせてごちゃっとする。何となく嫌な空気がまとわりつくようなのは気のせいかしら?

そんな中で、タロット占いと気を見てもらった。

さっきまでの楽しい雰囲気が、騒がしさにまみれてかき消されそうで、結局占いを見てもらってすぐに私はつい

「ねぇ、ゆっくりワイン飲みに行こう」

って誘ってた。

だって、占いの結果だってろくなもんじゃなかったんだもの。

それは藤野氏がトイレに立った隙に見てもらったもの。

藤野氏の心の中には、かの専門学生の頃からつきあってた彼女の影がまだ色濃く残っている、なんて不吉でしょう?

 

続く……