【嫌い嫌いも好きのうち】

 

忘れられないオンナ。

 

忘れられない男。

それは、元旦那なのかもしれない。

でも藤野氏のように、今でも想い続けている、という意味合いではない。

私はきっと彼の人生を、彼が作っていきたかった人生を無にした。

どうしても彼が私を怨んでいるようにしか思えない。

もうきっと二度と会わないけれども……。

 

3件目はレストランバー。路面店で、2階の窓辺に施したカウンター席へ落ち着いた。

もちろんお酒はワインをボトルで。チーズの盛り合わせとピクルスをオーダー。

他の客は少なく私たちの周りには誰もいなかった。

もうずっと前からこんな風に楽しく隣にいて、一緒に酔っ払いをやっているのじゃないかって思える位、やっぱり藤野氏とは居心地がよい。

「このチーズとマーマレードの組み合わせが美味しい」

そう言って、私は藤野氏にチーズにたっぷりのマーマレードをつけて、口元へ差し出す。

躊躇する事もなく、口に入れる。

「本当だ」

その嬉しそうな表情を見ていたら、私の頭に馬鹿な考えが浮かんだ。

それはただの妄想でしかないんだけど。

 

二人で暮らすっていうのも素敵かも。

私たちはそれぞれ家で仕事をしている。

藤野氏はWEBデザイナーとして、私は書道家として。

朝はパンとチーズ、ハムと卵で朝食をとり、それぞれ仕事に取り掛かる。

お昼にはまた一緒にパスタとかオムライスとかサラダとか、一緒に食べるの。

エスプレッソを淹れるのは彼の役目。休憩をはさんでまた仕事へ戻る。

夕方から一緒に買い物へ行ったり飲みにでかけたり。でも必ず一日の終わりにはテラスで二人で乾杯をするんだ。

瞬く星空や輝く月明かりの中で、じっくりとした幸せみたいなんを感じ合うの。

そこには言葉も冗談もいらない。目が合えば優しくキスをする。

 

って、キスもしてない二人なのに。

 

「手、貸してみて」

「?」

「私、案外ハンドマッサージが上手なの」

「へぇ」

と、差し出す手。握る私。これじゃ、キャバクラ通いの変態おやじと何ら変わらないわ。

心で毒づきながらもツボを押してゆく。

「いたたた……」

想像以上に重症。

「ひどすぎよ?」

「ほんとですか?まいったなぁ」

気持ちよくなるよりも痛みが先行みたい。うまくはいかないものだ。藤野氏があまりにも痛がるから、エロキャバクラおやじの私の出番ももうおしまい。

結局、告白して振られてやる!なんて意気込みも、酔いと楽しさでどうでもよくなってしまった。

深夜、また名残惜しさをひた隠しながらタクシーで帰宅。

私は彼をおろして車内から手を振って別れた。

ちっとも私らしくなくて困る。

 

続く……