ドーベルマンの進路檢討の座談會

出席者

相澤晃

武久孝雄

中込政重

野呂横行

古屋千秋

横井準一郎

白木正光

 

【ドーベル苦難史】
横井
こゝらで最初の題目に引戻して、ドーベル發達の第一の蹉跌は、最初來た犬が皆氣が荒い犬だつたので、餘りに氣性の荒い、喰ひつく犬だと一般に誤解されたゝめと思ふがどうか。
古屋
それから尾や耳を切らねばならぬこと。
横井
それはその次の時代の原因で、前記の誤解も次第に薄れて飼ひ始め、さて蕃殖となるとこの第二段の障碍にぶつかつてすつかり駄目にした。
野呂
しかしその斷耳斷尾の障碍も先輩諸氏の努力で、最早問題でなくなつた。
横井
そこで今後はドーベルの目標をどこに持つて行くかと云ふ段取りになつた。
 
野呂
軍用犬のみに限らず、スイス、アメリカでは警察犬として大に功績をあげてゐる。
古屋
何時かの「ケンネル殺人事件」は、ドーベルマン黨にとつて胸のすく映畫だつた。
野呂
あれは僕も見て嬉しくなつた。ワイヤーかなにかを盗まれた揚句、その惡漢をドーベルマンが捕へるのだが、猛然と體あたりを呉れて惡漢に飛びかかつて行く。
某氏がシエパードはピストルを向けられて初めて攻撃するが、ドーベルはポケツトに手を入れた瞬間に飛びかゝつて行くと云つたが、あれは將にそれを立證するやうな映畫だつた。
白木
次にドーベルの發展策に就いて皆さんの意見を伺ひます。
中込
全くなんとかしてこの有能のドーベルを他の軍用犬に負けない位に普及させたいと思ひ、いろ〃骨も折つたが、未だ豫期の成績の擧がらぬのは殘念です。
横井
先程述べた第一次、第二次の障碍を突破して、なほ現在ドーベルがのびない今日の原因は、訓練がドーベルには缺けてゐるせいだと思ふ。
野呂
それには我々のドーベルは何故訓練がないかをまづ詮議する必要がある。
横井
ドーベルの氣質を十分摑んでゐぬためだと思ふ。
野呂
で、この際僕は犬の研究の正月號にも書いたが、早期訓練、むしろ訓育と云つた方が適當かも知れぬが、ドーベルは仔犬の中から適當に指導して行くことが最も大切であることを力説したい。
武久
私のその説に賛成で、現に五頭の使役犬を作るべく努力中です。その結果は半年先きでないと判らぬが、私は不言實行で行く積りです。
野呂
古屋さんはジヨツクのやうなああした立派な犬を作る自信もありませうが、しかし今後あれ丈けの犬が出來るかどうか。
横井
世間では偶然の産出のやうに云ふ人もあるが、それは古屋さんが古い犬飼ひであることを知らぬものゝ言で、古屋さんが永年犬に苦勞し相當の犬を飼つて經驗を積んでゐたからあれ丈けのものが出來たのだ。
帝犬の第一回展には太宰氏が審査してアリー一席、ジヨツク二席になつたが、私はあの時は評判程にも思はなかつた。それが第二回展の時見て、その完成してゐるのにびつくりした。これがジヨツクかと思つた。
野呂
僕も帝犬の養成所で見た時は大した犬と思はなかつたが、代々木(第二回展)で見た時は感心した。
あの時たしか三歳でしたね。
横井
牡は三歳位にならぬと本當のことは判らぬ。
白木
相澤さんは何もおつしやらぬが、この邊で一つ結論をつけて下さい。
中込
結果は來月五日のドーベルの部會で發表すればよいでせう。
白木
それはずるい。こゝで結論をつけて貰つて、それを來月の話題にすれば、参會者にも徹底してよくはありませんか。
相澤
野呂さんの理想論にも、古屋さんの現實論にも敬意を表しますが、私はこの犬種に一番缺けてゐるのは訓練でないかと思ふ。
この事は野呂君も力説してゐるがその實績が上つてゐない。これを何んとか物にしたい思ひ、自分も幼犬から訓育を試みてゐるが、まだ前途遼遠です。
横井
ともかくドーベルは傳令犬として大切なスピードと感度の點で三犬種中最も優れてゐる丈けでも、本犬種發展の意義があるが、我々ドーベルマン黨は一層奮起して國家に貢献する犬を作るやうにしたい。
白木
ではこの邊で、有難う御座いました。

 

(完)

 

(以上)