ドーベルマンの進路檢討の座談會

出席者

相澤晃

武久孝雄

中込政重

野呂横行

古屋千秋

横井準一郎

白木正光

 

【モデルのドーベル】

野呂
僕はその頃まだ慈恵の學生で、太宰さんが高輪にゐて学校から近いものだから、毎日のやうに行つて教へを乞うたものです。
知合つた動機は共進會でユンケルを見て、ウーと云つて向つて來るキビ〃した動作がとても氣に入つたからです。
その頃僕は獨ポ(※ジャーマン・ポインター)を飼つてゐたが、訓練は非常によく這入るけれども、どうも氣迫が足りぬやうで物足りなかつた。
太宰氏へ行くと第一の質問がドーベルはどこがよいかで、太宰氏はキビ〃してゐて氣性のすぐれたところがよいと答へたが、その質問を行くたびに飽きずに繰返し、太宰氏も又同じことを何時もの口調で語つて、それがちつともお可笑しくなかつた。
それからドーベルの頭、顔と順次に聞いて行くのだが、太宰氏のところに白いドーベルのモデル、なんでも二十何年度のジーゲル像とかがあつて、それを持つて來て説明して呉れる。
あのモデルは實によく出來てゐた。
古屋
それはよいわけだ。理想の體型に作つてあるので、あんな犬は實際にはない。
横井
そのモデルが現在どこにあるか知つてゐるか。
野呂
まだあれが殘つてゐるのか。
横井
三倉(博)君のところにあるよ。
野呂
自分もドーベルの仔犬が欲しくて溜らず、太宰氏にどこかに仔犬がないかと聞くと、あるが百圓以上との答へ。
學生の身分では手が出ず、本所のある犬屋に探して貰つて、漸く耳の折れた小形の牡を手に入れたが、眞黑の犬でドーベルの特徴であるタンが出ないのには弱つた。
漸くチヨコレート色位にはなつたが、それ以上にはどうしてもならぬ。それでも一生懸命訓練したものです。
さうしてこうしてゐる中に中村氏にチヤンピオンが這入つたと云ふ噂をきゝ、その後は屢々アーコーを見に中村氏を訪づれたが、そこで横井君と初めて會つた。
あの時アーコー、ボルダーのほかに今一頭牝のシスターが來たが、僕はボルダーの顔立ちが一番好きだつた。太宰さんもボルダーがよいと云つてゐた。
顔もよいが、身體もよく典型的のものゝやうに思つた。
横井
缺點もあつたよ。
古屋
缺點のないのは今のモデルだ。

(次回に続く)