この間、京都の展覧會である審査員がトロツテイング中犬の脈搏を診られた。それは自分の過去の展覧會の經驗の中で最初に見た圖であつて、一寸奇異な氣持に馳られたのであつた。
然しそれが將來審査法の新機軸となるかも知れないと密かに思つたのである。
ところがJSV大阪支部の十日會(研究會)に於て某氏の質問に答へて同審査員氏は左の如く答へられた。
十秒間脈搏を數へたが一席になつたA犬及び二席のB犬は十四で、三席のC犬は十七であつたと。
自分はこの答へをきいた時がつかりした。同氏に多少でも醫學の知識があれば、僅か十秒間の脈搏數の比較が、而も走つたあとで如何に不正確なものであるかは氣付かれる筈だと思ふ。
然し左程正確さの必要がないとしたら何をかいはんやであるが、近來往々にして傾向を表はす「席次決定を勿體ぶらず」と自分らを疑はしめる應答はして頂きたくないものである。
 
大阪・淀川犬助『犬界の動向』より