第二、副食物を獲得するための實施事項

(ハ)南瓜、胡瓜、胡蘿蔔(※ニンジン)、甜菜、大根、蕪、甘薯、菊芋、向日葵等蔬菜(※野菜)類の栽培

之は特に取り立てていふ程のこともないのであるが、人糧としての領域を擴大して行へば譯なく實行の出來ることである。主食に混與して調味の用をもなすものであるから、是非共實施する必要のある事項である。

(ニ)川魚の飼養

簡單な養魚池を作つて鯉、鮒、鰻、鱩、其他種々研究して見て適當なるものを養成する案である。

(ニ)家禽の飼養(原文ママ)

鶏、鵝鳥の如きものを飼つてその肥育、繁殖を圖り肉と卵を利用するの案である。

(ホ)山羊及び乳牛の飼養
餘剰牛乳を犬に利用し得るのみならず、牛糞は耕作物の肥料として活用が出來るのである。牛乳は魚、鳥獸肉の無い時に於て、單に之のみを飯に掛けて練り、餌として與へると犬は喜んで食するものである。
經濟上から見ても非常に都合のよいことである。山羊を飼育してその乳を與へることも大に考へねばならぬ。山羊は草食動物であるから、冬は乾草を其他の時期は生草を與へれば簡單に飼育されるのである。
(ヘ)豚の飼養
犬の食ひ殘しを處理するためにも得策である。尤も近來は犬も食糧は十分でないから澤山は食殘しは無い筈であるが、實際上多數の犬を飼育するところでは若干量の殘飯はいつも出るものであるから、爾餘の庖厨殘滓の活用と共に、豚が後ろに控へてゐることは其肉を利用することと共に有利な條件である。
(ト)其の他肉類の取得案
家禽、家畜を飼養して其の肉を利用する外に、屠場の解體殘物即ち内臓等を利用する手段がある。
しかしながらこれとても矢張り人の食用に供せられ、殊に滿人間には其の料理が發達してゐて利用範圍も廣く、之が兩得には相當の苦心を要する。
次は野犬の肉を利用すること。
野犬狩によつて得た相當數の駄犬を拂下げる等の手段により取得するの案である。平生引續いて任意に之を獲得するといふ事は不可能であらう。犬によつては野犬の肉は食はないものがあることを實驗したのであるが、調味の仕方如何によつては嗜食するものである。
野獸肉を利用すること。
野兎、野鼠類(ドブ鼠、畑栗鼠)、家鼠、獐、黄羊(※モウコガゼル)等の捕獲利用であるが、黄羊などはむしろ人の食用として羊以上である。
兎や緬羊、山羊は家畜として飼養して牛、豚、鶏に次ぐ利用効果を擧げ得るものであらう。
次は野鳥肉を利用すること。
雀、雲雀、ツグミ、鵲、烏等を種々の手段で捕獲する案であるが、冬などではカスミ網とか罠とかで努力次第で得られるものである。
次は川魚を利用すること。
川魚を少しく工夫を凝せば大なる困難を伴はずに得られるが、地の利を得なければ實功を収むることは出來ないわけである。
次は介類の肉を利用すること。
差し當り池、湖、沼、川に棲む介類を漁獲する方法を可とし、或場合には自然状態のままで一地區に繁せしまるのも一案であると思はれる。
次は蟲類の捕獲利用。
イナゴ、蟋蟀、カマキリ、ケラ等々の虫を探してやることであるが、更に進んでは土中に居るツイモ、木材中に居るカミキリ虫の幼虫、蜂の幼虫等をも利用するのである。イナゴやコホロギはむしろ美味求眞(※木下謙次郎の著作) の域にあるもので、人様の特別料理としては蛙(赤蛙、殿様蛙、食用蛙)、カタツムリ(拂蘭西料理の珍味)と共に、犬には過分の御馳走であらう。
味の附け方次第で犬食の役をする。
其の他種々のものがあると思はれるが、一寸記して見ても以上のものが存する譯である。
(チ)蔬菜代用品としての野草の利用案
野草を食用に供することに就いては年々歳々新聞紙上で指導、宣傳して居るところであるが、あの範圍のものを犬にも適用して見れば、可なりの利用性があることゝ思ふ。自分の實驗ではアカザ、ヒユ(莧)は嗜食に適する。

 

※次回へ続く

 

満州軍用犬協会 吉本豊繁『戰時犬糧の擴充と經濟的給與法(昭和18年)』より

 

戦前から各国で繰り返されてきた犬のカニバリズム実験が、滿洲国でもおこなわれていたとは。

当時の中国大陸においては野犬肉がタンケージ(肉骨粉)として出回っていたらしく、「ドッグフードの原料として安物のタンケージを購入したら犬肉だった」という記録もありました。