【軍用適種犬としての家庭犬】

このシエパード犬は軍用犬として今日各國とも最も多く採用され且つ役立つて居るのでありまして、此の犬は家庭に於ては如何なる御用をつとめるかと申すと、先づ第一に番犬として家を護る、晝夜家の内外に注意を拂ひ、盗難の豫防、火災の豫報、家人の不慮災難の報告をなすと共に、又お子さんの散歩の警戒、通學兒童の護衛、連絡通信、辨當の配達、お出迎、特に御婦人は買物にゆくときは其の伴侶として運搬警戒に任ずるのであります。
今例を申上げましやう。
(1)通學兒童の出迎、見送りに就て
學校と家庭との距離に種々の危險場所や又不慮の災害起り易き地區を通過する小學、幼稚園の兒童の伴侶とするならば萬一此等の地點に於て危險發生せば、この犬は死力をつくして危險の排除に努力し、若し自己の力及ばざる時は逸早く駈け歸り急を主人に告げるのであります。
そうしてその現場に案内する特性を持つて居るのであります。
又辨當を恰度よき時分に學校や幼稚園にお届けすることもなか〃敏速であります。又學校からお子さん方のお歸りには其の學校迄お出迎へして警戒しながらついていき、途中暴漢現はれたるときは直ちに防ぐと云ふ有様で、全く安全なものであります。特に雪降りなどの際に遠い學校へ御通學のお小兒さんにはなくてはならなぬ警戒犬であります。
かゝる訓練は最も簡單且つ容易でありますから、御家庭に於かれて御實施なさるのは最も妙を得たことゝ思ふのであります。
(2)家庭の急を主人に報告する
この話題は最近滿鐡方面に實在した事柄であつて、其の筋を申しますと、そこの夫人は夜勤の主人の歸宅の前に焜爐の木炭に火をつけ煽つて居るうちに突然倒れたのであります。
それを見たシエパードは早速主人の勤務せる役所へ行き、戸をたゝき入るや否や矢庭に主人の袴を喰へてグイグイと曳くので、何事が起つたかと思ひ、犬の行手に駈け歸つて見ると、いつもは表玄關に案内するのに今日に限つて勝手元の方へ案内するので、お腹でもすいたのかしらと考へて我家の勝手元へいつて見ると、家内は眞青になつて倒れてるぢやありませんか。
これはてつきり一酸化炭素の中毒と覺り、家の戸を開け人工呼吸をやり、ヤツト蘇生したと云ふ主人の急を救ひし實例であります。
以上の話題は數限りなくあるのであります。
 

(長くなるので次回へ続く)

 

社団法人満州軍用犬協会 東條向陽 『家庭と軍犬』より

新京市中央放送局 康徳6年9月14日放送