雪だ雪だ大雪だ。
嬉しさうな子供の大聲にむつくりはね起きて雨戸を開けば、世は銀世界。木々に咲きたる花、街路に一面の白綿、そしてまだ早いから足跡一つもない美しさといつたら、寒さを忘れて其景眺むる楽しさ愉快さ、早く不元氣勝なる友人に見せようと、いやだと云ふのを無理に炬燵から引つぱり出して連れていつて見ると、あゝ驚いた。
今まで美しかつた門前には、足跡が散々。
と見ると彼方には隣家の愛犬、雪の中を駆け廻つて居た。

福島縣 齊藤芳月「初雪の朝」より
 

今日は麗はしい暖い天氣だ。
梅や櫻の返り花でも咲きさうに思はれる。辻角の茶店の店先には、黄ろい豆菊がふちの缺けた鉢に、今を盛りと咲いてゐる。
一杯に日の當つた縁臺の傍には白と黒の斑犬が、暖さうにうづくまつて居る。茶店の横の柿の根元で、雀が楽しさうにこぼれた籾をついばんで居た。

岐阜縣 日比野梅園「冬の夕」より