生年月日 不明
性別 不明
犬種 不明
地域 富山縣
飼主 得能友榮氏

戦地から帰国した数少ない軍犬のうちの一頭。

「郷土官民あげての歓呼に迎へられて去る十三日、われらの飛越部隊の精鋭が富山城下へ晴れの錦衣を飾つた後、興奮に湧く富山駅頭の人垣の中に、誰の姿を求めてかしきりと鳴き叫ぶ一軍用犬があつた。
この軍用犬こそ哀話の主人公富士井部隊所属のヤオ號で、一昨年十二月富士井部隊下の渡邊部隊勇躍渡満するに當つて、富山県婦負郡八尾町得能友栄氏から特に同部隊へ贈られたもの。
ヤオ號の輝しい出征の際には、わざわざ得能氏妻女小夜さんが心尽くしの新しい首輪を携へて富山駅頭に見送り、別れを惜しむ美しい姿に、渡邊部隊長等を泣かせ、やがて湖北の広野に颯爽たる勇姿をみせた。
ヤオ號は○○軍所属の軍犬三百頭のうち、断然トツプを切る猛犬ぶりを発揮し、討匪戦線に出動しては一躍二名もの匪賊を倒すといふ赫々の武勲をたて、今回め でたく凱旋したが、ヤオ號は過ぐる歳勇躍鹿島立つた想ひ出の富山駅にをりた刹那、なつかしの舊主を忘れ難く、歓迎の人々の中に得能夫妻の姿を求めて鳴き叫 んだものとわかつた。
ところが探す得能氏一家はヤオ號の出征後離散のうき目にあひ、今はその行方もわからぬ始末で、歓迎者の中に舊主の姿を求め得なかつたヤオ號は、それ以来す つかり悲観して、さすがの猛犬も今日このごろは痛々しい有様に同情して富士井部隊長が「ヤオ號が病気にでもなつては大変だ」と、せめて一目でも得能氏夫妻 の姿を見せるため、部隊総がゝりで得能氏の行方をさがすことになり、ヤオ號がなつかしの舊主に見える日は決して遠いことではあるまい」

「おゝ舊主いづこ」より 昭和10年