生年月日 不明
犬種 エアデール
性別 不明
地域 北海道

人生にスランプがある様に、趣味にもスランプが當然あるのかも知れぬ。
犬ニ接しては喜びと愛を感ずるのに此の春の会の後、犬友の言葉から、ある理解出来ぬものを発見し悩んだ。
先輩は「それは一段の進歩だ」と言ふ。私はその言葉すら理解出来なかつた。
私は自分のそうした気持を打開しやうと常日頃、丈夫でもない身體で試練する時、私は再び喜びと苦痛を感じねばならなかつた。
幼い時より育てた犬故か愛情が強い故か、或ひは其の日〃のコンデイシヨンが判り過ぎる故か、犬の様子で訓練する事を私は好まない事があつた。
さゝいな事の様でも、そうした時意見は對立した。
主人は自分が満足する迄訓練するを好む。或ひは絶對服従の言葉から當然な事かも知れぬ。
でも私は女だ。とてもそこ迄の気持ちは持てない。
私は私だけの愛情と指導で幾分なりとも動いてくれる事を望んだ。
会が近づくにつれて私の気も張つて後十日、五日ともなればそれ以上の向上より犬に動揺を与へたくないと願つた。
當日は當地特有の風が目も開けられぬ程吹き捲つて居た。
天候が悪いやうに犬のコンデイシヨンも良好ではない。
何となく不安ではあつたが出かけた。
犬も私も初陣なので上つて居たかも知れぬ。出場して犬にカゴを銜へさせる時、烈しい痙攣を起した。
私は胸が一パイになつた。
駄目だ棄権しやうと。
だか今日迄訓練したのは何の為に、更生を叫んだエアデールへの愛ではなかつたか。
少数の人にでも良い、エアデールの良さを見てもらひ理解して貰ひたかつた為に今日あるを望んで来た筈ではなかつたか。
そうだ、今此の苦しみをぬき切る事が必要なのだ。
私のマーよ、お前はエアデールだ。
S犬に異り野性味はなく張りがなくも、お前の動作で家庭犬、心からの使役犬であることを知らせるのだ……。
その結果審査員諸氏の発表により良好な成績を得られた其の時は、喜びと感謝で一パイになつた。
アマチユア故に大きな目で見て下さつたにしても、初陣にしては大きな手柄だつた。
私のエアデールよ、良かつたね。
それ以上の言葉が此の場合あるかしら?
見知らぬ人、遠い所に住んで居る人でも話し合へば十年の知己にも勝る気持ちで接する事が出来る犬の友よ、エアデールの友よ、元気で立つて頂きたい。

札幌 北国生「親友エアデールへ」より 昭和13年