大牟田のさる料亭の主人が死んだ。
其の料亭は市の一流料亭で、新佛の主人には私も二三の面識がある。
ある日の午後、オフイスの窓から街を眺めて居ると、偶然其の葬式の列が通るのに氣がついた。
田舎町の而も有名な料亭の主人の葬式だ。原始色いとも華やかな花島が数へられぬ程通り、其の後から輿丁に擔がれた棺が續く。
と、棺側の白衣の遺族に混つて、二頭のシエパードが牽かれて行く。グレーの五ヶ月位のが二頭。
私はこの思ひがけない興味に思わず目を瞠つた。
最近の大牟田に於けるシエパード犬熱は、中々素晴らしいものがある。無論一時の流行的のものではあるが、茲数年間、私の懸命な宣傳も係はらず全市を併せ同犬の数は十指にも満たなかつた。
それが今では四、五十頭にも及ぼうか。そして今見る葬列の扈従である。
白芽荘 西村六二「大牟田犬信」より
毎度おなじみ、戦前の九州犬界事情を発信し続けた西村さんのお話。
「結婚式と犬」「出産と犬」「葬儀と犬」「墓を守る犬」など、郷土史あたりでチラホラ見かける記録を集めたら面白いかもしれません。