併し犬に對する素人をだますために、随分如何はしい系統書を振りまはして居るものが、尠だ少くないのは、驚くべきである。
そのインチキ系統書たるや、實にインチキのインチキを極めたもので、
少し犬の事の判つたものならば直にインチキである事を見破るほどであるものを、麗々しく振り廻すのであるから、その大胆さに驚かざるを得ない。
ところが此一目してインチキと見破る事の出来る系統書に甘々とだまされて
大金を払つて、インチキ犬を買ふものがあるのだから、世の中は實に廣いものであると今更乍ら感心せられるのである。
ルーブル紙幣を十円札に見せかけられて、平気で釣銭を払ふおたんちんのあるのは決して無理ではないと思はされるのである。

 

愛拳生 「愛犬メモ」より 昭和8年