【Q.個人事業主として、借家の一室で仕事をしていますが、毎日12時間くらいは仕事をしています。支払っている家賃の50%を経費にできますか】
という質問を受けたことがあります。確かに、1日の半分を仕事に費やしたので、払っている家賃も半分が経費という発想であり、とてもシンプルで分かり易いところです。
この点、所得税法ではプライベートな支出を家事上の経費(=家事費といい、衣服費、食費、住居費、娯楽費、教養費等の個人の消費生活上の費用が該当)として区分し、そもそも、必要経費の算入を認めていません。また、前述のように、プライベートな部分と業務用の部分の混在する支出を家事上の経費に関連する経費(=家事関連費)として区分したうえで、必要経費への算入の取り扱いを次のように規定しています。
【所得税法施行令第96条:家事関連費】
所得税法第45条第1項第1号(必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
(1)家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費
(2)前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分の金額に相当する経費
言い回しとして、上記(1)と(2)の経費を、
必要経費に[算入される経費]として限定するのではなく、
必要経費と[されない家事関連費には含まれない経費]としてピックアップしている点に、
特徴があります。結果としては、必要経費とされない家事関連費には含まれない=必要経費に算入される部分と解釈できるのですが、東京地裁平成25年10月17日判決〔※1〕を参考にしてみようと思います。
この判決は、3LDKの2階建て住宅の総面積のうち、保険代理店等の事業用として使用している部分の面積(=事業専用割合)は60%であるとして、月額賃料の60%を必要経費に算入して申告した事案です。
納税者側は、リビング、ダイニングキッチン(シンクを除く部分)、洗面、1階のトイレ、2階の洋室1室を、業務専用スペースとして常時使用していた旨主張しました。また【毎日、会議や食事会、パーティーミーティングのために使用しているから、時間的にも家族団らんの場所として使用することは不可能】とか【リビングルームは、ビジネス専用の集会場であり、あくまでもリビングルームに見立てた部屋である】とも主張しました。
これに対し【~建物の構造上、住宅の一部について、居住用と事業用とを明確に区分することができる状態にないことが明らか~業務専用スペースとして常時使用し、それ以外の用向きには使用していなかったとは考えられず、むしろ、家族と共に家族生活を営みつつ、業務を行っていたものと認めるのが相当】であるとして、必要経費の算入は認められませんでした。
そして、家事関連費を業務の遂行上の必要性があるというためには【その支出が業務の遂行との間に何らかの関連性があるというのみでは足りず、また、単に事業主が主観的に必要であると判断することだけでなく、その必要性が客観的にみて相当であることを要する】としています。確かに、施行令第96条の言い回しが、OKな経費ではなく、ダメな経費には含まれない経費の列挙というあえて分かり辛い表現からも、家事関連費の必要経費算入の取り扱いは【必要性】と【明らかな部分】を求めていると言えます。
さて、前述の質問を受けたのはこの判決と出会う前で、事業専用割合は【時間】ではなく【面積按分】が妥当という回答をしました。これは、現行の判断でも一番身近な割合ですが、それにしても、洗面所もトイレもキッチンも・・・って、どれだけ【攻めた】申告なんだと。
確かに、家事関連費の判断は、簡単に考えてはいけなくて、ハッキリ言って面倒くさくて【何で】の多い取り扱いです。そして、現行の取り扱いが【適正な申告にとって】万能とは言えない点も否定できません。この事案でも、面積按分することの【方向性】は間違っていなかったでしょうに、それ以上の判断で【主張すべき部分】と【引くべき部分】の強弱を間違えたように思われます。これが、もっと説得力のある事業専用割合であれば、攻めた申告ではなく、適正な申告に近づいたのかもしれません。まずは、関与先への聞き取りから始めよう。
<参考>所得税法第37条、45条、所得税法施行令第96条、税務訴訟資料第263号-187(順号12311)〔※1〕