講座を受け始めてからというもの、しばらくの間はひたすら書類と向き合う日々になりました。
とはいえ、完全にゼロからのスタートというわけではありませんでした。
やりたいこと自体は、かなり前から明確だったからです。
自宅の近くに小さなスタジオ兼オフィスを構えること。
撮影スペースを確保し、仕事のクオリティを上げること。
そして将来的にはアシスタントも雇い、少しずつチームとして仕事ができる環境をつくること。
方向性ははっきりしていたので、事業計画の骨組み自体は比較的スムーズにできました。
「何をしたいのか」という部分では、迷いはほとんどなかったのです。
ただし、書き進めていくうちに気づきました。
骨組みはあっても、細部がかなり甘い。
例えば、売上目標。
「これくらいは目指したい」という数字はありましたが、その根拠が弱かったのです。
今の売上からどう伸ばすのか。スタジオを持つことで何が変わるのか。
具体的な数字として説明しようとすると、途端に手が止まってしまいました。
さらに、家賃とのバランス。
スタジオを借りるとなると、当然固定費が増えます。
売上に対して家賃がどれくらいの割合になるのか、そのラインが適切なのか。そこも曖昧でした。
そしてもう一つ大きかったのが、スタッフを増やすタイミングです。
アシスタントを雇いたいという思いはありましたが、「いつ」「どの売上段階で」雇うのか。
そこも具体的には考え切れていませんでした。
面談や添削を重ねるたびに、フォレストの担当者からこう言われました。
「ここはもう少し具体的にしましょう」
「できれば数字で示しましょう」
最初のころは、そのたびに少し気が重くなりました。
「また書き直しか…」と。
でも不思議なことに、書き直していくうちに、計画そのものがどんどんリアルになっていきました。
売上の根拠を考えるために、過去の仕事を細かく振り返りました。
撮影単価、月ごとの案件数、リピート率。
今まで感覚で把握していたものを、数字として整理していきます。
そうすると、「このラインなら達成可能」という現実的な目標が見えてきました。
家賃についても同じです。
売上の何%までなら安全か。
スタジオを持つことで撮影効率がどれくらい上がるのか。
そうしたことを一つずつ整理していくと、今まで頭の中にあった「夢」が、
少しずつ「事業計画」に変わっていくのを感じました。
数字を入れるたびに、ふわっとしたイメージが具体的な形になる。
最初は怖さもありました。
「もしこの数字に届かなかったらどうしよう」
そんな不安もありました。
でも同時に、ワクワクも増していきました。
「このスタジオ、本当にできるかもしれない」
そう思える瞬間が、少しずつ増えていったのです。
そして何度も修正を重ね、ついに申請書類が完成しました。
最後の作業は、添付書類の確認です。
登記簿、開業届、見積書、身分証明書…必要な書類を一つ一つチェックしていきます。
プリントアウトした書類を机に並べて、何度も見直しました。
「これで大丈夫かな」
「書き漏れはないかな」
まるで試験前の最終確認のようでした。
そして、いよいよ提出。
パソコンの画面に表示された「送信」というボタンを前に、私は一瞬手を止めました。
本当にこれでいい?
まだ直せるところはない?
もう一度読み直した方がいいんじゃない?
そんな声が、頭の中でぐるぐる回ります。
でも、ここまで積み上げてきた時間を信じるしかありません。
深呼吸をして、マウスをクリックしました。
送信完了。
画面にその文字が表示された瞬間、思わず椅子にもたれかかりました。
ほっとした、というのが一番近い感覚でした。
でも同時に、不思議と背筋が伸びるような気持ちもありました。
「ここまでやったんだ」
そんな感覚です。
最近、子どもたちが私の仕事に少し興味を持ち始めています。
「ママ、今日も撮影?」
「どんな写真撮ったの?」
そんなふうに聞いてくることが増えました。
以前は、ただ忙しくしている母親に見えていたかもしれません。
でも今は、少し違う姿を見せたいと思うようになりました。
ただ働いているだけではなく、
挑戦している姿を見せたい。
挑戦する大人でいること。
失敗を怖がらず、一歩踏み出すこと。
それを言葉ではなく、背中で伝えられたらいいなと思っています。
申請書を送信してからは、少し静かな時間が流れています。
採択結果が出るまでには、数か月かかります。
正直、落ち着かない気持ちはあります。
「どうなるんだろう」
そんなことを考えてしまう日もあります。
でも、待つだけの時間にはしたくありません。
最近は、スタジオができた前提でいろいろ考えています。
レイアウトはどうするか。
背景紙はどこに置くか。
照明は何台必要か。
必要な機材もリストアップしています。
さらには、将来アシスタントを募集するときの募集要項まで、半分妄想しながら書いてみたりしています。
不思議なことに、その準備時間が今の仕事にも良い刺激になっています。
計画を真剣に考えたことで、自分の仕事の方向性がよりはっきりしてきたのです。
採択されても、されなくても。
この時間はきっと無駄にはならない。
そう思いながら、今日も目の前の撮影に集中しています。
未来のスタジオを思い描きながら。
また一歩ずつ、前に進んでいこうと思います。