ホームセンターって、どうしてあんなに長居してしまうんでしょう。
必要なものだけ買って、さっと帰るつもりだったのに、気づけばカートを押しながら店内を一周。
しかも「これ、今必要?」みたいなものを手に取っては、そっと戻すという謎の攻防を繰り広げている自分がいます。
その日も、そんな感じでした。
目的はひとつ。
防災用品コーナーで「災害時用トイレ」を買うこと。
きっかけは、先日見かけたネット記事。
大地震の断水時は、トイレを流してはいけない。
自分の家は大丈夫でも、地震による下水配管の破損がある場合、汚水が溢れて街の衛生状態が劣悪になる。
また集合住宅の場合は下の階のトイレが溢れることもある。
という話を初めて知って、これはちゃんと備えないといけないなと思ったのです。
その週末家族でホームセンターに赴き、防災コーナーに向かいました。
するとそこには、思っていた以上にいろんなものが並んでいて。
簡易トイレだけでも、袋タイプ、便座にセットするタイプ、箱型のしっかりしたものまで種類が豊富。
凝固剤も単品で売っていて、「何回分」とか「長期保存可能」とか、やたらと頼もしい言葉が並んでいます。
(へえ…ちゃんと考えられてるんだなあ)
感心しながら、私はスタンダードな簡易トイレセットと、追加の凝固剤をカゴに入れました。
ここまでは、完璧。
問題は、このあとです。
ふと横を見ると、ランタン。
「停電時に便利!」と書かれていて、しかも少しおしゃれなデザイン。
(これ、いいかも…)
さらにその隣には、非常用ラジオ。
手回し充電ができて、スマホも充電できるらしい。
(いや、でもモバイルバッテリーあるし…でも手回しは強いよね)
さらに奥には、折りたたみの簡易ベッド。
(これ、キャンプでも使えそうじゃない?)
気づけば、完全に“用途拡張モード”に入っていました。
防災用品を見ているはずなのに、どこかで「日常でも使えそうかどうか」で判断している自分がいる。
そしてその思考はだいたい危険です。
(いやいや、今日はトイレだけだから)
と、なんとか理性を取り戻して、私はカゴの中身を守り抜きました。
一歩間違えたら、かなり本格的な装備一式を持って帰るところでした。
レジに向かう途中でも、まだ誘惑は続きます。
非常食コーナーに差しかかったとき、「おいしい保存食」と書かれたカレーやパスタがずらりと並んでいて。
(これ、一回食べてみたいな…味の確認って大事だよね)
という、完全にグレーな理由で手に取りかけました。
しかもパッケージが妙におしゃれで、もはや非常食というより“普通においしそうなレトルト”。
(いやいや、今日はトイレ…今日はトイレ…)
と、心の中で唱えながら、なんとか棚に戻しました。
防災意識と食欲は、簡単に結びついてはいけない。
帰宅後。
さっそく買ってきた簡易トイレをテーブルの上に広げて、説明書を読み始めます。
袋をセットして、用を足したあとに凝固剤を入れて固める仕組み。
シンプルだけど、よくできている。
「へえ、これでいけるんだ」
と感心していると、夫も興味津々で覗き込んできました。
「お、ちゃんとしてるじゃん」
説明書を一緒に見ながら、
「最大荷重100kgって書いてあるね」
と、夫が一言。
「じゃあ、まだまだ俺大丈夫だね!」
…何が?
何に対しての「大丈夫」なのか、まったく分かりませんが、本人はなぜか満足げです。
そんな伸びしろ、いらない。
そしてここで、自然と出てきたのがあの話題。
「これ、一回試してみる?」
沈黙。
「いや…一回やってみた方がいいよね?」
「でも本番まで取っておくのもアリじゃない?」
妙にリアルな議論が始まりました。
娘たちは娘たちで、
「え、誰がやるの?」
「え、やだよ」
と、完全に他人事。
夫はというと、
「いや、俺はいいかな」
と、さっきまでの“最大荷重で安心していた人”とは思えない消極的な姿勢。
結局、誰も手を挙げず。
しばらく微妙な空気が流れたあと、
「…じゃあ、これは本番まで未使用でいこう」
という、なんとも曖昧な結論に落ち着きました。
(それでいいのかどうかは、よくわからない)
でも確かに、いざというときのためにとっておきたい気持ちもあるし、今ここで試す勇気もない。
この“やった方がいいけどやりたくないランキング上位”みたいな位置づけ、なかなか絶妙です。
そのあと、買ってきた防災トイレは、きちんと収納棚の一角に収めました。
凝固剤も追加してあるし、とりあえず備えとしては安心。
…のはずなんですが。
なぜか、以前よりもトイレの存在を強く意識するようになりました。
普通に使えることのありがたさ。
そして、「使えないかもしれない状況」を想像してしまう自分。
さらにその日の夜、ふと娘が言ったんです。
「これってさ、もし使うことになったら、どこに置くの?」
…確かに。
リビング?寝室?それともトイレの中?
急に現実味が増して、家族で「設置場所会議」が始まりました。
「いや、トイレの中に置くのが自然じゃない?」
「でも流せないのにトイレでやるの変じゃない?」
「じゃあベランダ?」
「いやそれは近所の目が…」
最終的に、
「そのときの状況で考えよう」
という、これまたふんわりした結論に落ち着きました。
(なんだろう、この“ちゃんと考えたようで何も決まってない感”)
でもきっと、こうやって少しずつでも意識することが大事なんだと思います。
防災って、物を揃えたら終わりじゃなくて、その後の会話や想像も含めてなのかもしれません。
それにしても。
今回のことでひとつはっきりしたのは、
「備えようと思うと、人はつい盛りすぎる」
ということ。
そしてもうひとつ。
「簡易トイレは、買うのは簡単だけど試すのは難しい」
ということ。
なんともリアルな学びでした。
とりあえず今は、「使う日が来ないこと」を願いながら、あの箱をそっと見守っています。
そして夫には、もう一度だけ言っておこうと思います。
上限値100kgまであとちょっとの安心感、本当にそれでいいんですか?