先日、家族でいちご狩りに行ってきました。
我が家にとっては、すっかり春の恒例行事になっています。
子どもたちが小さいころから毎年のように出かけているので、
「春=いちご狩り」という図式が自然に出来上がってしまいました。
桜を見る前か後か、その年によってタイミングは少し違いますが、
とにかく春になると「そろそろいちご狩り行く?」という話題が出てきます。
カメラマンの私にとっては、この行事は実はかなり楽しみなイベントでもあります。
赤く実ったいちごと、子どもたちの笑顔。これはもう、最高の被写体です。
ハウスの中に入ると、ビニール越しのやわらかな自然光が広がっています。
直射日光ほど強くなく、でも十分明るい。写真を撮るにはちょうどいい光です。
いちごの赤もきれいに出ますし、人物の肌も柔らかく写ります。
「ちょっとこっち向いてー」
と言いながら、私は今年もせっせとシャッターを切っていました。
娘たちは最初こそポーズを取ってくれますが、すぐに飽きます。
というのも、彼女たちにとっての主役は写真ではありません。
当然ながら、“食べること”です。
いちご狩りがスタートした瞬間、娘たちはほとんど競争のような勢いでハウスの奥へ走っていきました。
「ママ見て!大きいの!」
「こっちのほうが甘いよ!」
まるでいちごの品評会です。
真剣な顔でいちごを見比べている姿は、ちょっとした研究者のようでもあります。
「これは赤いけどまだ固い」
「こっちは完熟!」
などと、彼女たちなりに分析しているのが面白いのです。
その様子を撮りながら、私はふと数年前のことを思い出しました。
まだ子どもたちが小さかったころは、いちごを摘むのも一苦労でした。
「どれ取ればいいの?」
「これ食べていいの?」
そんなふうに聞いていたのに、今ではすっかりベテランです。
子どもの成長って、こういうところにも表れるものですね。
さて、一方の私と夫ですが。
正直に言うと、そんなにたくさん食べられる年齢ではありません。
最初の数個は、もちろん美味しくいただきます。
「甘いねぇ」
「今年のいちごいいね」
そんな会話をしながら、ゆっくり味わいます。
ところが、10個くらい食べたあたりから、二人ともだんだん無口になります。
いちごは美味しい。
美味しいのですが――
いちごだけを延々と食べ続けるのは、なかなか大変です。
夫と目が合いました。
「……」
「……」
しばらく沈黙が続きます。
そして私は心の中で、そっと電卓を叩きました。
入場料×人数
÷食べたいちごの数
「これ……元取れてる?」
完全に大人の事情です。
その横で、娘たちはまだまだ元気です。
「あと10個いける!」
「私まだ全然食べられる!」
若い胃袋って本当にすごいですね。
見ているだけで少し羨ましくなります。
それでも、最後には娘たちが満足そうに
「もうお腹いっぱい!」
と言ってくれました。
その顔を見ると、やっぱり来てよかったなと思います。
親というのは不思議なもので、自分がどれだけ食べられたかよりも、
子どもたちが楽しそうだったかどうかのほうが大事だったりします。
春の行事というのは、きっとこういうものなのでしょう。
思い出を少しずつ積み重ねていく時間。
そう自分に言い聞かせながら、ハウスを出ようとしたときでした。
入り口の近くに貼られたポスターが目に入りました。
「夜のいちご狩り開催」
思わず足を止めました。
内容を読んでみると、昼間とはまったく違う雰囲気のイベントのようです。
ハウスの中はライトアップされ、大人向けの落ち着いた空間になるとのこと。
さらに、いちごを使ったアルコールドリンクが楽しめたり、体が温まるスープが無料で提供されたりするらしい。
それを読んだ瞬間、私の頭の中にはイメージが広がりました。
夜のハウス。
やわらかな灯り。
赤く光るいちご。
……絶対、写真映えする。
「えー、これ来てみたい!」
思わず声が出ました。
しかし隣の夫は、ポスターを見ながら一言。
「夜に……メインがいちご?」
なんとも渋い反応です。
どうやら彼の頭の中では、夕食の主役は肉か魚であるべきらしい。
「いちごカクテルあるんだって」
「ふーん」
「スープも出るって」
「肉ないの?」
ロマンより実用派。
実に分かりやすい性格です。
私はというと、夜のいちごとほのかな灯りの光景を想像して、すっかり心を持っていかれていました。
ライトアップされたハウスで、ゆっくり写真を撮って。
いちごのカクテルを飲みながら、のんびりいちごを摘む。
昼のいちご狩りとは、まったく違う楽しみ方ができそうです。
でも、夫はあまり乗り気ではなさそう。
かといって一人参加というのも、少し寂しい。
さて、どう説得しようか。
それとも友達を誘おうか。
そんなことを考えながら帰り道を歩きました。
春の小さな悩みは、いちごの甘さと一緒に、しばらく続きそうです。