三重県熊野市紀和町の棚田「丸山千枚田」での虫送りの行事、

沖縄本島北部での「アブシバレー」という虫払いの行事は、

ともに地域の「害虫駆除と五穀豊穣」祈願イベントだけど、
沖縄での米作について私見を述べたい。

新潟県の「魚沼産コシヒカリ」や秋田県の「あきたこまち」、

宮城県の「ひとめぼれ」、北海道産「ゆめぴりか、ななつぼし」、

山形県の「つや姫」、三重県では「伊賀米」…、
こういった有名ブランドは誰もが一度は食べたことがあると思うけど、
「沖縄県産米」って本土のスーパーで見かけたことがないはず。

沖縄県でも米作は行われているけど生産量が少な過ぎて

県内だけで消費されてしまうから本土には出回らない。


おそらく東京や大阪、名古屋、福岡の沖縄県のアンテナショップには

少量置いてある可能性はあるから、興味がある人は買って食べてみたらいいよ、

あまり美味しくないけどね。

亜熱帯気候の沖縄での米作は二期作が可能で、
石垣島や西表島では一部で二期作が行われている。

本島北部では名護以北の国道58号線沿いに

一部田んぼも見られ米作が行われている。

名護市の古老の話では
「子どもの頃は見渡す限り田んぼだったよ」
と言っていたから、

半世紀以上前は「見渡す限り」かどうかは主観によるから別にして

昔は米作が多かったのは事実なのだろう。

今では沖縄で田んぼを見かけるのは少ないから、本島北部の

「アブシバレー(=畔払い)」という虫払い行事が受け継がれていることに、
「ところで畔(あぜ)とか田んぼってどこにあるの?」
とは思うけど、

「アブシバレー」は昔米作が盛んだったころのなごりなんだろうね。


18世紀~19世紀にかけて大量のハイテク機械の発明により、

産業の主体が手作業の分業から工場による大量生産に変わった産業革命以降、
地球の温暖化が進み、近年日本近海の海水温度が高くなっているのは

多くの人が知っているはず。

日本近海における2019年までのおよそ100年間にわたる海水温度の上昇率は「+1.14℃」で、世界平均の上昇率「+0.55℃」の約2倍になっている。

昔の台風はフィリピン東海上で発生し、北上して台湾付近を通過、

琉球弧列島に沿って沖縄本島までは強い勢力のままやってきて、
海水温度が低い日本近海で勢力が衰えて本土に来る頃には

熱帯低気圧になったり消滅したりしていたのが、
近年は日本近海の海水温度が高くなり、グアムや小笠原諸島方面からも

台風は本土に直接やってくるようになってきた。

昔の沖縄での台風シーズンは
「5月のGWから概ね10月まで」
だけど、

沖縄での米作は台風被害を免れるために6月には収穫を終えたい、
それが一期作での「超早場(はやば)米」。

二期作目は9月上旬までの苗の植え付けになり、
沖縄では7~9月は最も勢力の強い台風が襲来する時期に重なる。

そのため収穫量や歩留まりが低いなどの理由で、
稲作は一期作の半分以下の作付けとなっている。

令和元年の沖縄県のデータ
・一期作 作付面積506ha 収穫量1670トン 10a当たりの収量331kg
・二期作 作付面積171ha 収穫量321トン 10a当たりの収量188kg

沖縄では二期作は可能だが、

台風の被災を怖れ二期作目をしないのは当然だよね。


沖縄県のお米の生産量は、

令和4年産で「3370トン」(全国の米生産量の0.05%に相当)。

沖縄県の年間米消費量は「約9万1千トン」といわれるから、
県内の米生産量は県内需要量のわずか約4%に過ぎない。

沖縄県内で消費されるお米の約96%は

本土から船便で玄米を輸入し精米しているのだ。


そのため沖縄で売られているお米は船代が加味されている分、高い。
私が在住してた頃では5kg袋で2000円以下のお米は見かけないし

混合米が多かった。


本土の有名ブランド米でも特に美味しいと感じなかったから

ホンモノかどうかは疑わしかった。
(魚沼産コシヒカリは、実際の生産量の30倍以上が流通しているのが現状だから

 お米ってウソだらけ、ある意味パンドラの箱)

そのため私はネットで本土からカルガモ米や減農薬米を取り寄せていた。

沖縄県の米の収穫量は、2012年~2021年の10年間で11.8%減少、
作付面積も27.5%減少しているから、沖縄県産米は今や絶滅危惧種なのだ。

名護市近郊のお米は「名護米」というのだけど、
令和4年産の農水省データでは作付面積が0.3ha(3000㎡=907.5坪)。

沖縄県の10a当たり平年収量は

313kg=収穫量は約0.9トン(=900kg)でしかない。

収量900kgは玄米であり、

これを精米すると約1割減になるから概ね800kgになる。

800kgをスーパーで売られている5kg袋に換算すると約160袋でしかない。


名護米はJAが運営する道の駅許田(きょだ)でしか買えないんじゃないかな、

他で売られているのは見た記憶がない。


私が在住している当時は5kg袋2700円だった。
(石垣米は5kg袋3000円)
一度だけ名護米を買ったことがあるけど、本土の二等米レベルの味。
だけど希少性はあり、毎年完売していた。


沖縄特産の泡盛は原料はお米だけど古来からタイ米が使われている。

泡盛は14世紀後半~15世紀頃、
「シャム国(現在のタイ)から琉球に伝えられた蒸留技術から始まった」
とされている。
当時の琉球王国はアジア貿易のハブ(hub=拠点)として繁栄していた。

琉球王朝はアジア各地に貿易使節船を派遣。
琉球国内の硫黄や馬、夜光貝などを中国に献上し、

代わりに陶磁器や絹織物などを入手し、

シャム、マラッカ、スマトラなどの東南アジアや日本へ再輸出した。


一方で、東南アジアで入手した胡椒や蘇木(そぼく)を中国や日本へ、

日本で入手した刀剣や扇子、屏風を中国や東南アジアに再輸出していたのだ。

そうした経緯で、タイ米は泡盛の原料として泡盛の製造技術とともに

シャム国から一緒に伝えられたもので、
現在に至るまで500年も昔からほとんど変わっていないといわれている。
(私は両親の遺伝で「下戸(げこ)」、

 お酒を飲めないから名産泡盛は飲んだことがない)

タイ米はインディカ米という粒が長く粘り気がないお米。
カレーやピラフ、パエリアなどの料理に合う。

(インドから栽培が始まったことに由来、日本のはジャポニカ米)

前にテレ朝の「羽鳥慎一モーニングショー」で玉川徹さんが
「お米の消費量が減少し、お米の流通価格が下がり、

 高齢化と採算悪化から米作から離農が増えている」
ことに対し、
「日本ではお米をじゃんじゃん生産すべき。余ったお米は海外に輸出すればいい」
と語ったが、私は異論がある。

インディカ米は世界で最も多く生産されているメジャーなお米で、

世界全体の生産量のおよそ8割を占めている。


主なインディカ米生産地は、

インド・バングラデシュ・タイ・ベトナム・マレーシアなどの

東南アジアや中国の中南部など、気温の高い地域で、
インディカ米に合う食文化になっているから、

粘り気のある日本人向きのジャポニカ米は東南アジアでは売れないのだ。
(寿司は今や海外でも人気の日本食になり、

 寿司店用であればジャポニカ米は売れる可能性はある)


沖縄本島中・南部は、隆起サンゴ礁台地(=琉球石灰岩地層)のため、

カルシウム成分が多く硬度が高い硬水だし、雨水が地下に浸透してしまう。


晴天が続けば日照りになり、大雨が続くと地面はじゃぶじゃぶになり

稲作向きとはいえない。


一方、北部の本部(もとぶ)半島と読谷(よみたん)を除く北部地域は、

本土の地層と同じ四万十類型の強酸性土壌で、超軟水。

沖縄の水は、地域によって硬度が極端に違う。
土壌も本島中・南部は「ジャーカル(クチャ)」という粘土質のアルカリ土壌、

北部は「国頭(くにがみ)マージ(真地=赤土)」という

痩せた強酸性土壌と極端に違う。

本島北部の「名護米」は「強酸性土壌+硬水」だから美味しくないのかもね。

沖縄ではかつては米作が盛んだった時代があったのだろうが、
戦後の食糧難や農地改革、台風の被災、サトウキビの需要増などにより、

台風でも倒されるだけで枯れないサトウキビ栽培にシフトしていったのだと思う。

私が沖縄在住の頃、県庁農水部の課長レベルでも
「新規就農者はサトウキビ栽培をするべき」
と言う。

理由は、
「作ったら全量国が買い上げてくれるのだから」
と言うのだが…。

現在はサトウキビの生産量は米作に比べるとはるかに多く、

沖縄県の農業産出額の約2割を占める基幹作物になっている。

しかし、沖縄のサトウキビ生産でも高齢化+収益性が課題で今後はどうなるのかな?

沖縄のサトウキビの収穫量と栽培面積は、令和2年産では
・収穫量81万3853トン(前年産20%増、台風被災の有無でも収量は違う)
・収穫面積1万2871ha(前年産100ha減少)

1万3千haというと想像もつかないと思うけど、
・東京ディズニーリゾート 1万2900ha
・富士急ハイランド 1万2800ha
・岩手県一関市 1万2976ha
・北海道網走市 1万2867ha
・北海道美唄市 1万2816ha
・岩手県花巻市 1万2764ha
・屋久島 1万3600ha
・佐渡島 1万3500ha
・隠岐の島 1万3400ha
・種子島 1万2900ha
こういう感じ。

令和2年産の沖縄産サトウキビの

10アール(1000㎡=302坪)当たり収量は6323kg(前年産1085kg増)。


地域別では、沖縄地域(沖縄本島と周辺離島)が収穫量の42.1%、

宮古地域が43.4%、八重山地域が14.5%を占めている。

沖縄のサトウキビ生産では収量1トンの栽培面積は、

平均して約16アール(1600㎡、484坪)。


令和2年産の場合、10アール当たりの単収は6323キログラムなので、
「収量1トンに必要な栽培面積は約15.8アール(1580㎡、478坪)」

令和4年のサトウキビ価格は、糖度13.7度の場合、トン当たり23506円。
(国内産糖は輸入粗糖から製造される砂糖に比べ生産コストが高いため、

 国策として糖価調整制度が作られている。
 糖価調整制度は輸入粗糖に調整金を課して、

 国内産糖の生産者・製造事業者に交付金が交付されている)

23506円の内訳は

生産者交付金16860円+原料取引価格6646円。

(糖度が13.7度を上回るか下回る場合は、それに応じて価格が変動)

「収量1トンに必要な栽培面積は約15.8アール(1580㎡、478坪)で

買い取り価格が23506円」
というと、
23506円÷478坪=49.2円
1坪あたり年間約50円の生産性でしかないのだ。

沖縄県農家の平均農地面積は本土の約半分の約3000坪。
3000坪×50円=15万円(年間)
これでは生きていけない。


県庁ではこれを推奨いるのだからお気楽なものだよね。
(狭い農地では今でも昔ながらの鎌で刈り倒す人海戦術方式だけど、

 広い農地では収穫機械ハーベスタを使う。
 少人数で広大な農地の収穫が出来れば収益性もあるはず)


なので、私が知ってる限りでは、沖縄のサトウキビ栽培は耕作放棄地とかで
「空き地にしとくならサトウキビ栽培をした方がマシ」
という人が多かった。


「美味しいお米」といえば、
新潟県の「魚沼産コシヒカリ」や秋田県の「あきたこまち」、

宮城県の「ひとめぼれ」、北海道産「ゆめぴりか、ななつぼし」、

山形県の「つや姫」、三重県では「伊賀米」…、
寒暖差の大きい、寒い地方ばかりだよね。