ミュージカル 王様と私 4/21ソワレ(日生劇場) | 晴れ、ときどき観劇。

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楽しんだくせにネチネチ考えている女

 

 

 

 

 

映像でも、舞台でも、同作には触れずに生きてまいりました。
なので…「アジアの王様と、西洋から来た家庭教師の話」というのは知っていたけれど…少々敬遠していたのかもしれない。西洋優位、東洋蔑視の思想に満ち満ちていそうで。そういう意味では、なんかちょっと調べたら今回上演はリバイバル版であって西洋の優越的視線は多少薄まっていたようだけれど、それでこれならオリジナル版はよほど酷かったのだろうなと思いました。
 
・セットがめちゃくちゃすごい。エプロンステージがある!お衣装もすごい。子供たちがたくさん出演していて可愛らしく、出演者もアンサンブルまで実力があって本当に見ごたえのある作品だった。それは事実。人と人の友愛に感銘を受けたのも事実。
 
・でもやっぱり、現地に土着に根付いた文化への軽視であり蔑視、植民地支配の正当化あるいは美化は、確実に存在すると思いました。例えば「イギリスの使節団を歓待し、シャムが後進国ではなくシャムの国王が野蛮人でないことを証明する」方法としてアンナが提案したのが、「西洋風のドレスと靴を身に着けて、西洋風のコース料理でもてなすこと」であること。それに疑義を唱える人も存在しましたけどね。真に他国に敬意を払っていたら決して出てくるはずのない言葉です。
・一夫多妻制に違和感があるのは、私も一夫一妻制の国に生まれ育っているから。一方で女性の人権という観点からは一夫一妻制でないとしたら多夫多妻制?最低限離婚の自由が双方に存在しているなら平等と…言えるのだろうか。というかそもそも論に立ち返ると本邦における婚姻制度(と、それに紐づく家族制度)自体が男女平等でもないけれど、ということで婚姻に対してポジティブな絵を描けないので一夫一妻だろうが一夫多妻だろうが一妻多夫だろうが多夫多妻だろうが婚姻するつもりはないけれど、今のところは。何の話をしているのだ私は。
・少なくとも、「一夫一妻制」を常識とする女と、「一夫多妻制」を常識とする男は、友情を築くことはできても恋愛関係にはなれない。でも、本作において互いに淡くとも明確に恋愛感情を抱いていて、それを力強く終わらせる手法としての「王様の死」なんじゃないかと思ったら、よく言われる「作品をドラマチックにするために女は犯され、殺される」と同じ手法をアジア人である王様に使われている…やっぱり蔑まれているのではないかと推察せざるを得ないわけです。
・王侯貴族に対しては地べたに這いつくばって礼をする「伏礼」が一般的である様子を指して野蛮であるとする指摘について、確かになあと思う部分と、他国の文化をことさらに滑稽に描いて野蛮であると蔑みたいのだろうなあと思う部分があります。十二国記の「風の万里 黎明の空」という作品がありましてね、これぞまさにチュラロンコン王太子の初勅と同じ「伏礼を排し、跪礼、立礼のみとする」と主人公の景子が勅令を出すラストシーンが感涙の嵐なのですが、一方で、身分制度自体は否定していないのですよ。あれは「麒麟が王を選ぶ」というファンタジーだしね。しかしながら伏礼を廃する=人が己の王であることを説くのならば、身分制度自体を批判するべきではないのか。その追及が手ぬるいのは、結局は同様に(現在においてはある程度形骸化しているとしても)身分制度を有するイギリス原作の作品だからなのでしょうね。ぺこぺこ頭を下げる姿を滑稽だと嗤うなら、身分制度自体を愚かしいと断ずるべきではないのか。
・でも、過去の身分制度を必ずしも間違いであったと言い切れるかというと、そうでもない。貧しい時代に、身分制度があったから高度な文化と文明が花開いた。100年前だったら農民の娘で早々に奉公に出されてそれなりに目端が効くと重宝されたか小賢しいとうっとおしがられていただろう自分・あるいは10になるやならずやで結婚させられて野良作業の合間に15人くらい子供を産む途中で死んでいただろう自分が、過去の身分制度が生み出した恩恵に浴しているのだから、過去があって、今がある。それでいいじゃないと思うしかない。他国において現在もなお身分制度があるのならば、それが当該国民の総意に基づくのであれば、あるいは転覆するのが困難であるほど強固に保たれているのならば、身分制度を廃する時期に達していない……けれども独裁による知の独占、情報統制と国民の無知によってそれが成されているのならば、他国の介入が必要かもしれない。
・王様と同じく、答えのない問いのなかにぐるぐるしているわたくしです。
・奴隷制度批判に関しては、これイギリスの作品ですよ?どの口が言うか一択です。アメリカ人に捕鯨を反対されるのと同じくらい意味不明で不快。面白がってバイソンを撃ち殺して絶滅させた民族に、鯨一頭で七浦潤わせてきた本邦を批判される意味が分からん。植民地化政策どころか悪名高き三角貿易(奴隷、アヘン)にまで手を染めたイギリスに!よりによってイギリスに!奴隷制度を批判されるほどの屈辱があるか?伏礼どころの騒ぎじゃありませんよ。
・……となると、かつての非道極まりない所業に関する内省(あるいは批判)に対する「いやいやそんな奴らばっかじゃないって、イギリス人の家庭教師が野蛮な国の王を人間として扱ってやって、教え導いてやって、その息子も改心したって話もあったかもしれないぜ。イギリスのおかげでな」というプロパガンダであることが透けて見えてきます。しかも、それすら上から目線。何様のつもりなのか。もちろん他国の文化を滑稽に誇張することも忘れません。さすがイギリス、仕事ができることで!
 
・もちろん皮肉です
 
・と、いうのはともかくとして、異国情緒を感じさせつつゆめゆめしさもあり、涙を誘う、いい作品に仕上がっているとは思います。私が50年前の常識で生きるイギリスの貴族階級の人間だったら、アンナは友人を失ってかわいそうに、王様も天に召される前に改心なされてよかったことホロリ)とか思っていたことでしょう。
・まあ当該場面において、「志半ばで幼い息子を残して去らなければならなかった王はさぞかし無念であったことだろう、頑固であったが民に愛されるよき王であったのだ…そして幼き新王は即位してすぐ列強の脅威に立ち向かわなければならないのだ…」的ホロリはしていたのですけれどね。
王様@北村一輝さん。確かにお歌は粗削りという言葉がぴったりでしたが、そのぎこちなさがかえって「英語は不慣れ」という感じが出ていて良かったです。なんで一国の主が英語を流暢に話せないといけないんだよ、と憤りをぶり返させるのはやめておきます。エキゾチックな雰囲気や威圧的な存在感、不器用な物言い、ツンデレ感、全てがとっても王様でした。…気になったのは、足にすごーくテーピングをされていて…かなり高さのある階段状のセットだったので、身体にご負担になっていないといいけれど。踊りはなさったことがあるのか、と思ったら日舞が特技で!?存じ上げませんでした。アンナとのワルツ、とっても軽快で素晴らしかったです。
チャン王妃@木村花代さん。ものすっげえ上手いなと思っていたら四季の…!王が悩んでいることを知っていて、王が安らかであるように心を配り、後宮を差配し、側妃や子供たちに目を配る。誰にでもできることじゃないし聡明さとは彼女のなかにこそあるのではないかと思う…半面、改革の一番大きな障壁になるのは彼女のような人であるとも思う。色々感じさせる苦悩する居方が素晴らしかったです。

タプティム@朝月希和さん。お久しぶりに拝見いたしました。可憐で、かわいそうなくらい恋に一途で、学び、自分の頭で考え、行動し、あっという間に思い切ってしまう女性。ちょっと怖いくらいのまっすぐさをまっすぐに演じておられました。あとアンクルトムの場面では跳ね上げてしゃくるみたいな音階の曲を歌われていて、アンサンブルの皆様ともどもすごかったです。

クララホム首相@小西遼生さん。しきたりに固執する一人であり、それ以上に王に心酔する男。アンナが王から指輪を賜ったと知った時の嫉妬と羨望が綯い交ぜになった表情とか、アンナが王を罵倒し傷付けたときにアンナを怒鳴りつける泣きそうな表情とか、わたくしはそういうアレが大変…ねえ。専門分野としておりますものですから。素晴らしかったです。

ラムゼイ卿@中河内雅貴さん。結婚前のアンナに求婚していた男。彼はもうちょっと嫌な役にしても良かったかもしれないですね。警戒していたのですが案外いいやつで、イギリスの使節団がそんなリベラルな思想の持ち主ってことはないだろうと思ってしまいました。隙あらば占領しようとしているはずなので。ええ。偏見に満ちているのは宇田川ですって?お黙り。(自作自演)

・そしてアンナ@明日海りおさま。なんかもうますます絶頂ですね。輝く美貌と、透明感のある美しい歌声と、急にドスを効かせてくるところ。男役で培った迫力、押し出しと、本来持っておられるふんわり柔らかな持ち味がマリアージュして本当に素敵。それに、私が前段で作品を思い出しながらあれだけネチネチ書いたような感想を、実際に観劇している最中はうっすらとしか感じなかったのは、明日海さんの一生懸命でひたむきで本当に心から人と人のあいだに友愛を築けると信じているお芝居があったからだと思います。

 

 

 

ということで…、なんか謎の恨み節をお読みいただいてすみませんでした。

演者は良かったし、エキゾチシズムを楽しみもしたし、お子様たちは本当に可愛かったけれど、すっごい良かったのは事実なのだけれど、手放しで素敵な作品だった~泣けたわ~~と賞賛だけしていられる作品ではありませんでした。

 

ではでは次は…映画かな。