いつも珈琲を買っている自家焙煎の店

があるのだけれど、たまには違うところで

買ってみようかなと思ったのです。

 

距離的にはそう違いはありません。

そこは喫茶店も兼ねて、豆も売っていました。

豆を選んでいると、

珈琲を飲んでおしゃべりしていた女性二人が

立ち上がり近づいてきました。

 

『お帰りかな、精算するのかな』と

思っていたら私の隣に来て

「どういうのがいいの?」と私に聞きました。

(実は店主の奥さん)

 

私が「酸味が少ないのが好きなんですが」と

言うと、「ならこれがいいわね」と指差すと、

もう一人が(実はお店の常連さん)

「私もいつもこれ。贅沢にたっぷり

入れるとよけいにおいしいのよ」と

言うので、

 

二人に勧められて

「じゃあこれを100gください」と

お願いしました。

 

「あら、200g買うと、ここでコーヒー1杯

飲めるのよ」と言われました。

私は『なんだかお節介な人ね』と

思っていたら、その女性お店のオーナーの

奥さんだったのです。

 

私はいつも初めての豆は100gと決めています。

もしも自分の好みではなかった場合、

少ない方が早く終わるからです。

気に入ったら、今度は200g買えばいいのです。

 

でもどれだけ気に入っても、

もうここへは来ないと思いました。

ご主人がコーヒー豆を挽いている間、

その女性が私に言いました。

「ねえ、私、いくつに見える?」

・・・こう聞かれるのがすごく苦手です。

実年齢よりも少なめに言わないと相手は

嬉しくないからです。失礼のないよう、

かなり若く言わなくてはなりません。

見た感じ、78才くらいに見えました。

なので10才引いて、

「68?くらいかしらね」と言うと、

「あ〜ら、嬉しい。

みなさんに若くみられるのよ私。

実際は私76!」

 

 

「それには理由があるのよね」

と指差したのが電光掲示板のような機械。

この時期にサンタクロースが飾ってある

季節感のないセンスなんだけれど、

珈琲豆ケースの上に

「DENBA」という文字の

デジタル時計のようなものがあるのも変。

 

そして76才の女性はそのパンフレットを

持ち出してその「デンバ」が何なのかを

説明し始めたのです。

このデンバを冷蔵庫に入れておくと、

お肉はいつまでも新鮮になるんだそうです。

 

「ねえ、このリンゴどっちが美味しそう?」

と見せた写真がこれ。

私は正直に言いました、

「みなさん、

右のを好きとおっしゃるでしょうけれど、

私は左のが好きです。

水分が抜けて酸味がなくなったリンゴが

好きです。長野県では『ぼけリンゴ』

って言うんですよ」と私が言うと、

「まあそう言う人は珍しいわね」

私の意外な答えにがっかり。

 

「このデンバを浴びているとお肌ツヤツヤ、

人間もシワができないのよ」と、

自分の頬を両手で包みました。

 

そうこうしていると、ご主人、

珈琲の豆が挽き終わったようです。

 

得体の知れない機械を

押し売りされちゃいそうなので、

「DNBAですね、家に帰ったら

パソコンで検索してみますね。

コーヒー、おいくらですか」

と会計を済ませました。

奥さんはもっとデンバの説明を

したかったのでしょうけれど、

諦めたようです。

 

帰り際、奥さんは言いました、

「コーヒーは冷凍庫に入れると

風味損なわないからね、私はお茶も冷凍室よ」

(え?デンバを冷蔵庫に入れれば

何でもフレッシュなままってさっき言ったじゃん)

 

私は逃げるように店を出ました。

 

家について「DENBA」で検索しました。

あの珈琲屋さんにあったタイプのは198000円

業務用は90万円でした。

 

何でも新鮮なうちに食べれば

そんな高い機械いらないですね。

あのお店のコーヒー豆はデンバを

浴びているからいつまでもフレッシュ?

一体いつ仕入れた豆なんだろう。

 

あっぽ