12. 1998年11月 韓国顧客セミナ

 

12.1 大田(テジョン)

 

2度目の韓国はクール

地球の反対側から戻ると、韓国出張が待っていた。大田(Daejeon)でお客様のセミナがあり、担当分野の開発状況を話す、という役目だ。1週間では大した準備もできず、既存の資料でやるしかない。韓国は半年前にソウルに行って、ずいぶん忙しい思いをしたが、今回も2泊3日で忙しい。 

10時半 成田発のJAS(日本エアシステム)で、13時にソウル着、時差はないので前回と同じ2時間半。今回のエコノミーはずっとプレゼン準備をしていた。入国審査と両替を済ませ、13時半、前回と同じく地下鉄で汝矣島(Yeouido)へ。30分ほどで前回と同じ₩450。ソウルの地下鉄は安いだけでなく、とても静か、ちゃんとアナウンスが聞き取れる。この時期韓国は気温0℃、寒風身に凍みる。

14時半 現地関係会社に着いたが、受付で来意を告げても、だれも迎えに来ない。前回来て要領判っているので、勝手に事務所に入ったが、部屋にも関係者が誰もいない。これも国民性か?ずっとプレゼン準備してたら、19時にやっと部長さんと担当者が戻って来た。忙しいのだから当然、という感じで、明日私の出番は10時からなので、間に合うようにホテルに迎えに行く、すぐ飯食いに行こう、だって。プレゼンの中身を確認しなくてもいいのかね?想定質問とか?理解に苦しむ、、、

20時に、どこかの食堂で慌ただしくビビンバを食べて、本場のビビンバは旨かったけど、20時半、担当者がテジョンのホテルまで車で送ってくれた。テジョンはソウルの南150kmくらいの所にあり、電車でも2時間くらいかかるようだが、明日のセミナにはこの担当者が、ずっと私に付き添ってくれるそうだ。助手席に乗せられて、単調な高速道路を行く。韓国の車はハンドルが軽くできてるのか、ハンドルに片方の手を乗せて、手のひらでやたらくるくる回すので、助手席で見ていて感覚が合わず、催眠術にかかったように眠くなってしまった。23時半 テジョンのホテルに到着、それから風呂入ったり、明日の準備したりで、寝たのは3時過ぎだった。こんな旅程って、酷い。

 

ホテルのオンドル暖房

リビエラ(Riviera)なんて名前はかっこいいが、田舎っぽいホテルだ。だだっ広い部屋に、大きなベッドが2つ、床は日本のように靴を脱いで上がるのだが、絨毯もないし、ビニール貼りかと思うような殺風景さ。照明スイッチが部屋の入口にしかない。シャンプーもなく、固形石鹸があるだけ、甚だ使い勝手の悪いホテルだ。真夜中に着いて、ビビンバ以外は冴えない一日で文句ばかり、、、でもしばらくして気が付いたのだが、部屋中どこにいてもちょうどよい暖かさなのだ。これはオンドル暖房ということを翌日聞いたけど、初めて体験した。設備も維持もエアコンより大変だと思うが、これは超贅沢暖房だ。この部屋は、見た目と違って、実はとても快適だった。

 

 韓国地図

 

 ホテルのオンドル暖房部屋

 

フルートを吹く女性像

翌朝7時半に起きて、8時にホテルで朝食、美味しいけど別料金で₩14,520だったので、ちょっと高い。9時にチェックアウト。朝食と税金入れて₩134,530は、ソウルのホテルより高かった。セミナ会場がどれくらい離れているか知らないが、9時半には着いてないとまずいから、すぐ迎えに来るだろう、と待っていたが、ちっとも来ない。

ロビーにブロンズ像が並んでいた。近在の彫刻家の展示即売らしい。フルートを吹く女性の像に目が留まった。50cmくらいの高さで、表情や動作がとても優しく捉えられ、衣装も繊細に表現されているのに、なぜかお尻だけが異様に突き出ている。前から見れば自然でリアルなのに、こんな体型はないやね、でも妙に惹き付けられる。値段は数万円、これは玄関に置くと素敵だなあ、一瞬買って帰ろうか、と思った。でもこのお尻を見たらきっと女房殿が怒るに違いない、とも思った。この彫刻家は、そのまま素直に作るのでは物足りないらしく、どの作品にも何か一つデフォルメか所があって、面白い。デフォルメがなくても写実的で素敵なんだけど、自己主張か、いたずらか、すごく健全な潜在的な欲望をそそる。

ブロンズ像見終わって、そろそろ9時半になっちゃう、こりゃタクシーで行く方がいいか、と心配になってきたころ、やっと迎えが来た。「9時半で十分間に合いますよ」とか言いながら。そりゃ間に合うでしょうが、もう少し早く迎えに来て欲しい。こちらは気が気ではないんだから。でも、これも国民性かなあ、そういう気遣いを期待するのは無理なのかも、、、

 

充実セション

セミナ会場は、7~8km離れたロッテ(Lotte)ホテルで、10時10分前に着いた。会場は普通の会議室だったが、200人くらい入れそうな大きな部屋で、壁一面に巨大スクリーンがある。着いてすぐ私の出番だったので、緊張する暇もなく、司会の紹介で演壇に上がった。

10時から私のプレゼンは、持ち時間1時間なので、45分間でまず期待されているテーマについて説明し、残りの15分は付随的な話をする積もりで喋り始めた。今回の内容は、以前北京でやったものに近く、あの時は日本語で喋って中国語に通訳してくれたが、今回は英語だ。聴衆は50人ほど、喋る方も聴く方も外国語なので、はっきり発音して、余分なことは言わない、という原点に立ち返って喋った。大きなスクリーンは指し棒では届かないので、手元でペン先で指しながら、大げさな身振りなどはなし、トゥルーズのようなスターではなく、一介の技術者に徹した。それでも聴衆の顔を見ながら、聴衆の視線を感じながら、ごく自然にできたと思う。

プレゼンの間、聴衆の横やりは全くなく、淡々と45分は終わったが、一呼吸入れたら、途端に質問が始まった。曰く、そんなことは分かってるよ、知りたいのはどうやって実現してるか、ってことだよ、という類の質問が多く、回答に困ってしまった。そんな資料は用意してないので、口頭で可能な範囲で答えるしかなく、十分な答えができなかった。すると聴衆同士で議論が始まったのは、欧州と同じ。立って発言する人はちゃんと英語で喋ってくれるが、韓国語と英語が会場に飛び交い、しばらくザワザワした。みなさん、勝手に発言するので、流れに任せていたが、何となくやりとりが分かり、みなさんよく勉強されてる、わざわざ私が話すほどのこともなかったか?結局、残りの15分間は質疑で終わってしまい、付随的な話ができなかった。付随的とはいえ、そちらの方はみなさんご存じないことのはずなので、ちょっと残念だった。

このセミナは、レベルが非常に高くて、普通はお祭りムードを高めるために、お決まりの基調講演とか招待講演とかで半日くらいつぶれてしまうが、ここでは午後一番に合同セションとして一つだけ、台湾の業界重鎮の方の、業界動向に関するお話がこの大会議室で行われるだけで、あとは6会場に分かれて丸一日、様々なお客様のセションが、30分ないし1時間ずつ、40セションほど、並行して行われた。大会議室では、合同セション以外にメーカセションということで、午前と午後、2社ずつ、合計4社がそれぞれ、指定されたテーマで各社の面子をかけて?話す機会を与えられたってことで、私が一番手だったわけだ。各社とも世界的に有名な会社で、そんな中に私が入っていいものか?ということは後で知ったことで、現地担当者は、セミナの位置付けも、お客様の知識レベルも、興味の主眼も、何も事前に教えてくれないもんだから、知らぬが仏で、悠々と喋ってしまった。ホント、気遣いが足りない、と文句も言いたくなるが、もし事前に知っていたら、かえってビビッてしまったかも、、、気遣いのないのはむしろ有難かったのかも、、、

 

プレゼンの内容は質疑から察するに、もっと工夫すべきだったと思うが、45分間、聴衆の視線を感じっ放しだったし、途中で席を立つ人もいなかった。そして15分間、待ってました、とばかりの質問攻め。午後合同セションで話される台湾の重鎮の方も参加しておられて、私が答弁に困った際には、助け船を出していただいた。答えには困ったが、聴衆と一体になった、すごく充実したセションだったと思うし、トゥルーズでの絶頂プレゼンより、技術者らしい、良いプレゼンだったと思う。終わったら、助け船出していただいた台湾の重鎮が、わざわざ私に声掛けてくれて、名前しか知らなかった人なのだけど、面識を得ることもできた。嬉しかったですね。

ところで、メーカセションの私以外のプレゼンは韓国人が韓国語で喋った。つまり聴衆にとって、外国人は私だけだったわけだが、2番手のメーカの番になったら、最初はみなさん熱心に聴いていたが、途中でポツポツと席を立ち始めた。こういうのを見ると、喋る立場からは非常に淋しい。日本人なら、退屈でも途中で席を立つのは気の毒、と気遣うが、韓国人は平気だね、この辺りは欧米も同じだけど、こんなにあからさまなのは初めてだ。韓国語なので、私は聴いていてもわからなかったけど、スクリーンの図を見ながら、最後まで座っていました。