10.2続々 台北

 

烏龍茶

15時過ぎ、帰りはDr.Mとは飛行機が違うので、一足先にタクシーで中正国際空港へ。客待ちの運ちゃんに値段を聞いたら、1,200元均一、ということで、だれに頼んでも、どの道を通っても、時間関係なく、同じ値段だそうだ。不思議な協定があるもんだと思ったが、ふっくらした人なつっこい顔の人だ、そういうことならお願いします、と乗り込んだ。

走り始めてすぐ、運ちゃんが「お土産に烏龍茶はどう?」と気さくな感じで声をかけてきた。なるほど、考えてなかったけど、チョコレートより台湾らしい、と心が動いた。ちょっとヘンなアクセントの日本語で、「高速道路の入口に自分の店があるから見ていけ」と言う。飛行機の時間もあるし、ちょっと不安もよぎったので、空港で買うからいい、と応えると、「空港は高いだけで不味いよ、高山モノが美味しくて、身体にも良い、日本にはないものだよ、日本で売られているモノは番茶で、日本人は本当の烏龍茶を知らない、自分とこは問屋なので、安いよ」と、一生懸命に勧誘する。フィリピンの二の舞はまずいなあ、と思ったが、運ちゃんの実直そうな様子からみて、これは本当に日本人に本物を教えてあげたい、という親切心なのかもしれない、と心が動いた。

普通なら行かないよね、君子危うきに近寄らず。でも、虎穴に入らずんば虎児を得ず、とも言うなあ、最後は日本人の品格がモノを言う、などと腹括るなんて、懲りないねえ、じゃ連れてってくれ、と言ってしまった。

故宮博物院から5kmほどで空港方面への高速道路に入るが、それを通り越して、吉林路(Jilin Rd)という、いろんな店が並んでいる道路を1kmほど行って停まった。店の前に子どもの三輪車があったりして、観光客向けの店ではないような、この界隈はごく日常の問屋街なのかな?店に入ると、お客さんが何人かいて、店の奥には大きなドラム缶のような量り売りの機械があった。ほ~、こりゃ本当にお茶の問屋らしい。

運ちゃんは私を奥のカウンターに座らせると、引っ込んでしまったが、奥さんかな、「今お茶を淹れますからね、高山茶の一級品ですよ」、流暢な日本語で言いながら、お茶っ葉を小さな急須に一掴み入れて、熱湯をゴボゴボ注ぎだした。茶の葉といっても日本茶のような細かいものではなく、ゼンマイかポップコーンかと思うような形の大ぶりの葉で、ちょっとグロテスクなんだけど、ぼわ~っと茶の葉が膨らんで、急須から湯が溢れても平気、それを小さなお猪口みたいな湯飲みにまた溢れんばかり注いで、「さあ、どうぞ」、あっという間だ。高級な日本茶では、淹れるのも、湯飲みに注ぐのも、飲むのも、じっくり時間をかけるけど、これは何という乱暴な。お猪口のお茶は熱湯なので、さすがに一気には飲めないが、飲むのに礼儀作法も何もあったもんじゃない、ふーふーさまして、口に含むと、それが美味しいこと。甘みという言い方では表せない、生まれて初めての味、スーパーのペットボトルの烏龍茶しか知らなかったが、比較にならない、ダントツに美味しい。日本の煎茶だって、じっくり淹れると信じられないほど濃厚で豊かな甘みと渋味を味わえるが、高山茶はこんなに乱暴に淹れてこの味ですからね、驚きでした。

一服したのか、運ちゃんが出てきて言うには、「高山茶はもともと薬の一種で、飲み続ければ健康にも良い、急須に一掴み入れれば、それで一日飲める。開ききった茶の葉は、食べることができて、天ぷらにするといいよ。」

これは虎穴の虎児だね、だけど、値段を聞いたら、目玉が飛び出るほど高い。ちょっとねえ、、、では、最高級でなくてもいいから、美味しくて適当な値段のものを、ということで、150gで400元のものを薦めてくれた。「3つで1,000元にしておくよ。これは高山モノではなくて日本でも手に入るが、うちのは本場モノだから、美味しいよ。」

後日談ですが、帰国後、このお茶は2袋はお土産にあげてしまったけれど、1袋をほんとに美味しくいただきました。これだけ美味しいんだから、無理してでも、高山茶を買ってくるんだったなあ、と残念さがつのり、日本で高山茶を売ってる店を探して、5,000円でほんのちょっとだけ、というのを買ってみたけど、イマイチだった。やっぱり吉林路で買わないとだめだ。

 

 お茶屋さんの前で

 

高速レース

店には30分もいなかったと思うが、生まれて初めて高山茶を味わって、お土産のお茶も買って、時計を見たら16時近い。大変だ、飛行機は16:50発だ、30分前には空港に着きたい、中正国際空港は40kmも離れているのに間に合うか?運ちゃんにそう言うと、「任せなさい。」

高速道路に入るや、まるでジェットエンジンを噴射したか、時速100km以上で2台併走する前方の車の間を追い抜く、横10cmしか空いてない、前の車との車間距離は2mしかない、もう目を開けてられない、怖いよ~

空港に16:20に着いた。にこにこ顔で運ちゃん曰く、「いつもはもっとゆっくり走る、私は優良運転手、お客さんに時間がなかったからね、今日は特別」、いや~、カーレースに出られますよ。

そんなもの凄い運転しながら、「自分はお茶屋なんだけど、店は女房がいればいいから、暇な時間はタクシーやってるんだ、お客さんを店に連れてくこともできるしね、あの界隈の店はみなそうしてるよ」などと、正体を話してくれた。ということはプロじゃないんだ。故宮博物院の客待ちタクシーは、みなお茶屋さんなのか?店の前にあった三輪車は孫のものかしら?そういう雰囲気のおっさんなのに、驚きました。因みに、料金は、約束通り1,200元しかとらなかった。

 

君子に非ず

16時半にCI(中華航空)に搭乗手続きを終え、免税店でチョコレートも買って、16:50に搭乗口に行くと、まだ搭乗待ちだった。それにしても、お茶屋さんの道草は時間を考えればやばかった。時間にかなり余裕を見ている積もりだけど、なぜか想定外のことが入ってきて、いつも慌ただしくなる。最後の辻褄が合えばいいとはいうものの、よそ見しないで、計画通り行動しなくては、と反省した。なかなか君子にはなれそうにない、、、

17時に搭乗、17時半に離陸した。また隣が空いてたけど、帰りはゆったりでいい。21:20 羽田着、時差1時間なので、3時間弱かかった。帰着が羽田になったのは初めてだったが、東京駅で帰国ラーメン食べて、今回の出張は無事終わった。