9.4続 フランクフルト

 

シュテーデル美術館

中央駅からぐるっと5~6km、4時間くらいかけて歩いたわけだが、半分の時間、シュテーデル美術館にいた。

シュテーデル美術館(Städel Museum)は、フランクフルトでも大きな美術館だそうで、中世から印象派や現代作品まで幅広く展示されている。当時の入館料はDM10.00だった。とにかくたくさんの絵画があり、部屋数も大小70くらいあって、一応部屋ごとに国別とか時代別になっていて、有名な画家が並んではいるが、ちょっと散発的な感じもした。でも個人の収集らしいから、凄い。

フェルメール(Johannes Vermeer)とかボッティチェリ(Sandro Botticelli)とかは、初めて見る絵だけど、貴重な絵だったようだ。ティシュバイン(Johann Heinrich Wilhelm Tischbein)の「ゲーテ」の絵は学校の教科書で見たような気がする。

一番頭に残った絵は、ミュラー(Victor Müller)の「Ophelia」。ごく普通の娘の絵、森の中で太い横向きの枝に寄りかかって、普通の服で、普通の生活の中で、ちょっと手脚を伸ばしただけという感じなんだけど、克明に描写された人物と背景の木や緑の中に、清楚な女性美と躍動する若さを感じた。この部屋には、ほかにもミュラーの絵が幾つかあったが、みな素敵だった。

ミュラーは教科書にも出てこないし、聞いたことがなかったが、後で調べたら19世紀の独の画家なんですね。印象派の前の世代なのかな。シュテーデル美術館はたくさんの収蔵絵画があるけど、私にとってはこの絵がこの美術館の代表作になった。

 

 シュテーデル美術館

 

ゲーテハウス

ゲーテハウス(Goethe Hous)は、18世紀の独の文豪ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe)の生家で、遺品だけでなく、素晴しい絵画も結構あった。入館料はDM7.00、時間が心配で30分もいなかったので、立派な画集を買ってきた。

遺品や調度品はともかくとして、絵画は、近代絵画と違う、写実的なこってりした18世紀の人物画や風景画が多かったと思うが、駆け足で回った中で思わず足を止めた奇怪な2つの絵があった。後で画集を見たら、フュースリー(Johann Heinrich Fussli)というスイスの画家の作品で、「夢魔」とか「Mad Kate」とか、おどろおどろしい名前がついていた。

前者は、女性が反っくり返って眠っている姿を馬の顔が白目むき出しでじ~っと見ている、暗闇の中に女性の身体と馬の目だけが白く浮かび上がっている、不気味な絵。後者は、若い女性が何かに驚いたようなポーズで目の玉が飛び出てくるような、強烈な絵。両方共70cmくらいでそれほど大きいと思わなかったが、絵から発する狂気に思わずたじろいでしまった。以前、ルーブル美術館でモナリザの意味深な視線にたじろいだが、それとは違って、ここのは怖かった。

 

帰国便珍事

16時に中央駅に戻って、空港まで電車で15分、16時半にJALのカウンターに行って搭乗手続きをしたら、普通ならすぐ済むのに、係の女性が引っ込んだままなかなか出てこない。カウンターは別の係がほかのお客さんの搭乗手続を始めた。1時間以上待たされて、やっと係の女性が出てきて、なんと、「お客様の予約は明日の便で、席が空いてれば簡単に変更できますが、きょうはあいにくエコノミー満席なので、ビジネスクラスでよろしければ変更します」だって。一瞬、訳が分からなかったが、ほんとだ、搭乗予約は月曜日になってる。今日は日曜日だ。

文句言うどころか、なんとか今日の便で帰りたい、と頼むと「ではビジネスクラスにどうぞ、お支払いは不要です、搭乗までラウンジでお休みください」だって。いや~、有り難い。この際、エコノミーでなきゃいやだ、なんてわがまま言いません、さすがJAL様々です。18時にやっと搭乗手続が終わり、生まれて初めて、ビジネスクラスに乗ることになった。何回かの出張の中には、こんな珍事もあったんですねえ、、、

 

ビジネスクラスは快適過ぎる

珍事解決して、免税店でメンバへのお土産に、チョコレートとZimmermannのスプーンを何本か買って、搭乗時刻までまだ2時間以上あるので、JALのエグゼクティブラウンジに入ってみた。エコノミー料金しか払ってないのにいいのかなあ、気が退けたが、何も言われなかった。飲み物は自由、ゆったりソファで新聞広げて、贅沢ですねえ、でも時間がもったいない、、、あ~貧乏性。

21時半にやっと搭乗アナウンスがあり、22時に離陸した。なるほどねえ、エコノミーとは格が違う。スリッパがついてる、個人用のテレビがある(当時のエコノミー席はテレビは各席にはなくて、前の方に映画用の大きなスクリーンがあったのです)、ゆったりスペース、一つの席に窓が3つもある、リクライニングシートを倒しても後ろに迷惑にならない、2階席で乗客24人にスチュワーデスが3人もついている、等々。

これまでエコノミー席で、隣とおしゃべりするのが醍醐味だった私にとっては、別世界の飛行機だ。お隣さんは気軽に話をする距離にはいないし、だいたい話しかけるのがためらわれる雰囲気。テレビなんてあまり見たくもないし、することもないので寝るしかない。おかげで、5時間ほども寝ることができた。帰国便は疲れもあるから、この方がいいのかもしれないが、、、翌日の7時(夏時間なので日本時間では14時)に目が覚めて、朝食の和食がとても美味しくて、スプーンとフォークのお土産までついていた。

当時はエコノミー症候群などという病名はまだなくて、エコノミーの窮屈さに贅沢言うような雰囲気にはなく、みなが豪邸に住めないのと同じで、当たり前と思っていた。が、今回ビジネスクラスに乗ってみて、エコノミー席は嫌になっちゃったか?というと、そんなことはありません。そりゃビジネスクラスの方が確かに楽だし、至れり尽くせりで気分もいいが、エコノミー席の醍醐味を味わうことはできません。たとえその場限りとしても、人間の幅を広げる貴重な機会、この醍醐味は貴重だと思う。

15:40 成田着、時差7時間なので、11時間弱かかった。余談ですが、珍事ほどではないけど、この後の出張で、JALのジャンボ機のエコノミーからエグゼクティブの2階席に、頼みもしないのに変更してくれたこともありました。エコノミー好きといっても、せっかく無料でビジネスクラスに乗せてくれるんだから、ありがたくお受けしましたけどね。