5.3続 2度目のパリ

 

モンマルトルの画家

21時半、アベス駅からホテルに行く道は5分だが、ホテルを通り過ぎて、適当に坂を上がっていくと、オラパンアジル(Au Lapin Agile)という妙な店の前に来た。居酒屋みたいだが、わざとそうしてるのか、壊れそうな佇まいで、横手に回ると入口らしき柵の切れ目があったので、恐るおそる入ってみた。が、扉らしきものを押しても引いても開かない。エジンバラでは、ちょっと押せば入れたのに、ここは開かない。やめとこう。後で知ったのだが、ここはシャンソンが聴ける有名な店だったらしいが、ちょっと気後れしましたね。でも、こんな時間帯に安酒場で一杯、という雰囲気を味わってみたいと思いながら、来た道を戻ると、喧噪の余韻の残るテルトル(Tertre)広場を抜けて少し下った角っこに、Au Rendez-Vous des Amisという店があった。

友だちとの出会い、みたいな名前の店だが、窓から覗くと、エジンバラの時みたいに、皆立ったままおしゃべりしている。ここなら気楽そうだ。扉は簡単に開いた。狭い、とりあえずビールを注文。すぐに隣の人が仏語で話しかけてきた。仏語は話せない(これだけは仏語で言えるのだ)と言うと、英語で応対してくれたが、あまり上手でない。お互い、ボツボツの似た者同士の英会話、いい感じだった。「私は画家で、今はテルトル広場で似顔絵を描きながら絵を売ってるが、近々自分のアトリエをすぐそこに開くんだ」と希望に満ちた顔で話してくれた。もう青年という時期は過ぎているように見えたが、画家で生きていくのは大変だ、最後に自分の城のアトリエを持てるまでになるには、一生ものだ、私みたいなサラリーマンは、なんのかんの言っても気楽なものだ、ありがたいと思わなくちゃ、などとしんみりしてしまった。苦労を重ねてきたような画家の表情は、はつらつとしてたので、私としては、素晴しい、と言ってあげるだけでよかった。でも、アトリエ開いても、その先も大変だろうなあ、、、名前だけで絵が売れる、なんて人は何人いるだろう。でも、どんな絵にも画家の気持ちが込められていて、有名無名関係なく、どの絵も自己主張している。そうだ、絵を1枚買っていこう、と思い立った。

 

 Au Lapin Agile

 

 Au Rendez-Vous des Amis

 

画廊

30分くらい、ビールお替りして26F、安酒場でちょっとしんみりして、22時半ごろ店を出て、もう閑散としているテルトル広場からは、サクレクール(Sacré-Cœur)寺院の屋根が夜空に浮かんで見えた。ホテルへ戻る途中に、まだ開いている画廊があった。

若い女性が絵に囲まれて店番していた。日本人かな?日本語で話しかけると、やはりそうだった。学生で、店番はアルバイトだそうだ。昨年会った音楽留学の女性といい、この女性といい、みなさん凄いね。出張なら気楽だけど、留学で居を構えるとなると、相当根性がないと。丹田の訓えなどとかっこつけてられない、男の留学生はまったく見かけなかったが、女性は強い、、、こんな夜遅くまで大変だねえ、とか話しながら、額に入った絵は持って帰るのが大変なので、キャンバスだけのにしよう。どの絵も素敵だ。ふとムーランルージュ(Moulin Rouge)の赤い風車屋根が目にとまった、200Fだった。キャンバスをくるくると巻いて筒状にして持って帰った絵は、額に入れて飾ってあるが、誰が描いたのか分からなくても、私にとっては素敵な絵で、生きている。

 

 夜空に浮かぶSacre Coeur

 

 左手前が画廊

 

 画廊

 

朝のムーランルージュ

普通に眠れて、翌朝は6時に起床、やっと時差ボケがなくなったのに、この日は米国に行く。

朝食後、絵と同じムーランルージュの場所に行ってみよう、と思った。アベス駅から地下鉄で、ブランシュ(Blanche)駅まで15分。後で地図を見たら、歩いても1kmもない下り坂なので、10分くらいで行けたようだが、道が良く分からないからね。

8時過ぎ、ブランシュ駅の交差点から西の方を眺めると、買った絵と同じ構図のムーランルージュがあった。朝のムーランルージュは淋しい。風車の赤色も黒ずんで見えて、華やかな夜のイメージとまったく違う。まあ、歓楽街なんてみな同じで夜以外は見ない方がいい、ってことだろうけど、でも買った絵は青空の下のムーランルージュなのに、赤い風車が存在感たっぷりなのだ。ここには、画家の思いが込められてるんだろうなあ、実際の風景がどうか、ということよりも、ムーランルージュはこうでなくっちゃ、、、

 

 朝のムーランルージュ

 

 モンマルトル地図

 

ユトリロの世界

地下鉄でアベス駅に戻り、モンマルトルの丘のサクレクール寺院の前から、南に広がるパリ市街を眺めて、サクレクール寺院の中に入って、礼拝堂や地下を見学して、300段あるらせん階段上って、またパリ市街を見渡した。いい眺めだけど、パリ市街全体というのはそれほど感激しないなあ。一つ一つの建物はそれだけで芸術と言えるほどすばらしいが、上から見ると褪せてしまう。

隣のサンピエール(Saint Pierre)教会の西側に、ふと素っ気ない石畳の路地を見つけた。両側は民家の壁で、店なんか一つもない、石畳も昔のまま、これはまるでユトリロ(Maurice Utrillo)の絵を見るようだ。狭っ苦しい、100m程の短い路地だけど、何もない故にこれぞモンマルトル、という味わいがある。ゆっくり歩いて通り抜けると、昨夜ムーランルージュの絵を買った画廊があった。あとで地図を見たら、サンルスティク(Saint-Rustique)通りという。ユトリロの世界に浸れるこの石畳の狭い路地は、モンマルトルの白眉です。

画廊から坂を下ればすぐホテルだが、もう一度テルトル広場に行ってみた。まだ朝早いので、準備中といったところ、今回は本来の賑わいを見られなかったが、この広場もモンマルトルを象徴するような場所で、翌年来た時はこの賑わいにも遭遇し、その時撮った写真は、既載の夜の写真と同じアングルです。

10時半にはホテルをチェックアウト、タクシーでCDGへ、11時半にUAに搭乗手続き済ませた。

 

 サクレクール寺院

 

 寺院の階段

 

 シュバリエバール通り

 

 サンルスティク通り

 

 朝のテルトル広場

 

 テルトル広場(1997年撮影)