4.1続 北京

 

天安門広場と紫禁城

揉め事は何とかしのいで、ホテルの部屋に荷物を置き、駐在員が夕飯まで付き合ってくれた。

15時、最初に行ったのは、天安門広場。いやぁ~広い、石板が敷き詰められた広大な広場で、遙か彼方に天安門が霞んで見える。何百mもありそう。その向こうに紫禁城がある。

紫禁城(故宮)は、入場料が外国人は55元、中国人とは窓口が別になっていて、上手な中国語で話せば5元で済むらしいが、ちゃんと外国人2人分払って、南から北に1kmくらい、あちこち覗きながら歩いた。映画のラストエンペラーに出てくる、大和殿、中和殿、保和殿がある。広い、でかい。建物も凄いが、石段や周りの柵の白い石の彫り物も素晴しい。ただ、どの建物も内部は空っぽで、玉座の椅子があるだけ。調度品や装飾品は、全て台湾にあるそうだ。ここに置かれていた宝物を空想しながら、とても淋しい思いがした。

紫禁城内には多くの建物があり、奥の方は、また趣の違う建物や庭があった。政務と離れた私的な生活空間、いわば大奥のような場所だったのかな?一番奥に、穴だらけの軽石のお化けみたいな岩があって、てっぺんに御景亭というお堂がある。この奇岩は人工のものらしいが、堆秀山という立派な名前がついているとか。お堂に上るには、岩の中に階段があるのかな?高さ10m以上あり、見晴らしが良さそうだ。ひょっとしたら、紫禁城に閉じ込められた大奥の女官が、憂さ晴らしに外界を見渡す場所だったのかも?

紫禁城の北門を出ると、道路を挟んで景山公園があり、小高い山に登ると紫禁城が一望できた。ここも人工の山だそうで高さ50mくらいだが、当時の北京市街では一番高い所だったかも?残念ながら霞んでてきれいには見えなかったが、縦一列に紫禁城の屋根が並ぶ様は壮観でしょうね。因みに入園料はRMB 0.3元で、こちらは外国人も中国人も区別なく約5円、そういう貨幣価値の時代だったんですね。

 

 天安門広場

 

 大和殿

 

 大和殿の玉座

 

 堆秀山

 

 故宮入場券

 

 景山公園入場券

 

 北京市街地図

 

さすがの王府井

16時半、紫禁城の北門でタクシーが待っててくれて、北京銀座へ。紫禁城から東に1kmくらい離れた所にある、王府井(ワンフーチン)という、南北の大通り。それほど広くない道路の両側に、個人商店が並んでいた。駐在員が「がっかりしますよ」なんて言うから、どんな所かと思ったが、確かに銀座は言い過ぎだけど、これはこれで風情があっていい。お店はそれぞれ歴史がありそう。

北京画店という店に入り、端渓の硯を買った。私はいい歳になってからお習字を始め、硯は娘の中学校時代のものを使っている。筆はともかく、弘法硯を選ばず、娘のお古で十分なんだけど、中国に来たのなら、端渓の硯を買おう、と思ったのです。日本で買えば相当高い、私なんぞが使えるモノではない。だから、お習字の先生へのお土産ということで、自分用のと2つ買った。角が丸い、達磨のような形で、深緑の目が付いている。四角い硯より形も面白い。ついでに、お習字仲間へのお土産として、細筆も何本か買って、締めてRMB 600元だった。当時の貨幣価値から見るとかなりの金額だが、本物ですからね。クレジットカードで払った。店員のお嬢さんは、日本語も英語も通じないけど、笑顔で接客してくれたのがとてもさわやかだった。ホテルのフロントとは大違いだ。

そうだ、娘にチャイナドレスを買おうと思い立った。それらしき店に入ると、たくさん吊してある。値段はさほどでもないが、色彩がみな強烈で柄も大味で、どうも落ち着かない。ふと、壁の一段高い所に飾ってある、淡いクリーム色の、控えめだが繊細な柄のドレスに気が付いた。吊してあるのと、明らかに雰囲気が違う。店員に値段を聞くと、400元だって。どうせ冷やかしでしょ?とでも言いたげな素っ気ない返事。さすがお目が高い、とか何とか、売り込めばいいのに、壁から降ろそうともしない。冷やかしのために降ろすのはめんどくさい、というところか。相手にしてくれないのでやめたけど、結局、後でホテルの売店でチャイナドレスを買ったんだよね、これだったら、王府井で買えば良かった。王府井は、見掛けはともかく、どの店も本物ですね。

 

 王府井

 

北京ダック

18時、夕食は駐在員が北京ダックの店に連れてってくれた。聞いたことはあるが、食べたことも見たこともない。道路に面して冴えない入口があって、安っぽいテーブルと椅子が並んでいて、大衆食堂って感じ。いらっしゃいませ、とも何とも声が掛からない。駐在員が店員に呼びかけても、相手にしてくれない。こりゃまたホテルのフロントの二の舞か?と心配になってきたが、しばらくして駐在員は怒ることなく戻ってきて、「入口が違うんだって。」

駐在員についていくと、店の周りをぐるりと回った所に正面入口があった。立派な階段のある、中2階のような大きな玄関で、全聚徳と書いてある。店を間違えたのかと思うくらい、こちらはホテル並みだ。広い空間でテーブルも椅子も豪華。係の服装もビシッと決まって清潔、丁寧。席に着いて注文し終わってから、駐在員が子細を話してくれた。

先に入ったところは中国人用、こちらは外国人用で、同じ全聚徳なんだけど、料金がまったく違うとか。つまり、中国人には装飾抜きで、全聚徳の味だけを安く提供している、ってことのようだ。紫禁城の入場料が10倍も違うのに驚いたが、食べることも違うんだ。

さて、注文した料理が出てきたが、直径15cm程の皿に、小さく細切りにした鶏肉がこんもり。これで二人前?半人前にも満たないぜ?そのほか、いろんな野菜や餃子の皮みたいなのが並んだけど、こんなので腹が膨れるのかね?駐在員が食べ方を教えてくれた。皮に野菜と鶏肉を一切れ載せて、3か所折り曲げて包んで、手で頬張る。鶏肉はそのまま食べると味が濃くて、さほど旨いとも思えないが、皮の方はさっぱりとした甘さで、これだけ食べても美味しい。いろいろ包んで一緒に食べると、皮の甘さに鶏肉の濃い味がきりっと締まって、両者の絶妙なバランス、実に旨い。鶏肉を食べる、というより、皮でお腹がいっぱいになってしまった。お皿にはまだかなりの鶏肉が残っている。だめだ、もう食えない。冷静に考えたら、細切りの鶏肉が何本あったか、1本につき1枚ずつの皮を、野菜たっぷり包んで食べたんだから、おにぎりを10個くらい食べたようなもんだ。半人前にも満たないと思ったのは大間違い、こんなことなら、鶏肉1切れずつと言わず、数本まとめて包めばいい、と思うでしょ?途中でそうしたんだけど、1切れでも数本でも同じ、1切れずつで十分旨かったのです。畏るべし、北京ダック!

ビール飲んで、ほかにもスープや4品くらい食べて、2人分の料金がRMB 178元だった。これは出張で旨い、と思った数少ない記憶の一つだけど、旨くて、経済的で、栄養満点ですね。