1.3続 ロンドン

 

本格インド料理

ルパート通りでの夕食は、初めて一人歩きで街のレストランに入ったので、これはよく憶えている。通りに入ってすぐ、正面ガラス張りの入りやすそうなレストランが並んでいたので、その一つのGolden Curry Restaurantという店に入った。

カレーなら間違いなかろう、と思ってドアを押すと、全然お客さんがいない。うっ、どうしようかな?と一瞬たじろいだけど、ここで引き下がっては情けない、と思い、完全に中に入ってドアを閉めると、インド人かな、何か喋りながら近寄ってきて「飯か酒か?」と聞かれたような、はっきり判らなかったけど、dinnerと言うと、先に立って、薄暗い一番奥のレジのすぐ傍の席に案内してくれた。メニュを広げてくれたが、細かい英語の文字だけなのでさっぱりわからない。わからない、と言うのも癪なので、お薦めは?と聞いてみた。するとメニュを指差しながら、「いろいろ味わえるよ」と言ったような気がした。どんな料理かわからなかったが、それを注文した。

待ってる間、改めて店内を見回してみると、内部の照明はかなり暗くて、結構広いのに、やっぱり他のお客さんはいない。こんなガラガラなら、なんでこんな隅っこに座らせるんだ、窓際の方が気分いいのに、、、と思ったが、欧米のレストランでは、外から見える窓際は一番悪い席だ、と聞いたことがある。日本人の感覚と違うが、でもこんな隅っこで縮こまって食べるようで、やっぱり冴えないなあ、、、とかぼんやり考えていると、料理が運ばれてきた。大きな皿に鶏肉や野菜やそのほかよくわからない食材が賑やかで、カレーの小鉢が3つ、別の皿に大きなナンが乗っかってる。ナンを見たのは初めて、てっきりパンかご飯がついてくると思ったので、つい聞いてしまいました。どうやって食べるの?インド人がびっくりしたかも?ちぎってカレーにつけて食べろ、と手真似で教えてくれた。

ナンはそのまま食べてもとても美味しかった。カレーはやっぱりもの凄く辛い。鶏肉やそのほかの食材も焦げ目がとても旨そうだが、香辛料が強烈、こりゃダメだ。大きな皿を平らげることはできなかったけど、確かにいろいろ味わいました。美味しい、というより、とにかく刺激が強くて辛かった。

1時間くらいかかって食べ終わって、奥のレジに払いに行った。多分テーブルで合図すれば、座って払えたんでしょうね、レジのお兄さんが、なんでわざわざ来たの?みたいな感じで「Thirty」と言ったような気がした、ちょっと高いよなあ、、、£30?って聞き返したら、ゆっくりと「Thirteen」、10%のサービス料込みで、£13.45だった。ということは2,000円くらい、ずいぶんお値打ちだった。お兄さんが「旨かったかい?」みたいなことをにやりと笑いながら聞くので、本当は辛かったんだけど、おう、美味しかったよ、Thank you. と胸を張って店を出ました。

考えてみれば初めて一人で街のレストランに入ったんだ、ちょっとした冒険だった。ナンも知らなくて、支払い方も知らなくて、変なお客と思われたかもね?ロンドンのインド料理は強烈、その後日本で何回か食べたものとは違う、あれが本格インド料理だったんだ、と勝手に思ってる。

 

日本女性に魅せられ

ロンドンでの翌日の仕事はまた通訳兼ねて駐在員が一緒だったので、マンチェスターの時と同じように、悲壮感に乏しかった。仕事の後で、駐在員がメアリルボーン(Marylebone)地区の和風バーに連れてってくれた。そこで、日本人の女性が働いていた。あやさんとかいったかな?

ホテルでたくさんの日本人に遭遇してから、非日常の新鮮さを維持するために、なるべく日本人のいないところを歩いてきたのに、なんということだ、ここで日本女性の美しさに衝撃を受けてしまった。着物だったからかなあ、、、控えめで、気配りが行き届いて、所作を見ているだけで落ち着く。あやさんは学生なのかなあ、アルバイトで働いているのか、バーだからお客さん相手は当たり前だろうけど、我々のグループがほとんど彼女を占有したような格好で、一緒に写真撮ったりもした。我々が有頂天な顔つきなのに、あやさんはお客に迎合したような笑顔でない、清楚な微笑をもって控えめに写っている。いいなあ、、、、

 

お土産余談

最終日、ホテルの窓から撮ったロンドンの街、東方向に走る眼下の道路がホテルの前のクロムウェルロード(Cromwell Road)、朝だというのにすっきりしないけど、まあこれがロンドンですね。ホテルで朝食、チェックアウトして、荷物を持って地下鉄で事務所へ。9時から事務所で軽く打ち合せを行い、これで全て完了。帰国便は午後2時半なので、午前中はまた近場を散歩した。

事務所の背中合わせに、ピカデリー通り(Piccadilly)に面して、ロイヤルドゥールトン(Royal Doulton)の専門店があった。通りから眺めるだけでも美しい、あまりの美しさに店に入った。昨日ハロッズでお土産は買ったけど、そう言えば出張を最終的に許可してくれたもっと上の上司には買ってないな、この上司と仕事仲間、そして女房殿にロイヤルドゥールトンは最適、で上司には結構大きい直径15cmほどの陶器の花の置物を、仕事仲間に一本£3.75の黄色いバラのピンを10本、女房殿にはピンクのバラのペンダントを、合計£70あまり、結構買ってしまった。

ところで先にお土産って自分には残らない、と書いたが、この最初の出張で一つだけ手元に残ったものがある。ロイヤルドゥールトンの小さな陶器の花の置物だ。上司に買った花の置物は数千円だったが、日本で輸入物を買えば1万円以上するかも、、、実は上司なんて、直属の上司ならともかく、普段話すこともないのに出張時の印だけもらいに行くような何階層も上の上司は、向こうだって一社員のお土産なんかほとんど有り難みがない、と分っていながら、安いモノではまずい、とか気を遣うんだよね。このとき、あまりにも美しいので、誰にという当てもなく、千円くらいのを、おまけに買ったんだけど、何かの拍子に花ビラの一部が欠けて、誰にもあげられなくなったのです。これは、欠けていても、いつまでも美しい。

 

 クロムウェルロード(ホテルの窓から)

 

バッキンガム宮殿の衛兵交代

ロンドンに着いた最初の日にも、ちらっとバッキンガム宮殿の前を通ったが、また行ってみると、仮設スタンドがあって、何やら人だかりがしている。隙間から覗いてみると、おっ、衛兵の交代式をやっている。

厳粛な儀式にも見えるが、観ている人たちが気楽そうに見ているので、あまり緊張感はない。大した時間もかからずあっさりと終わってしまった。でも、そのとき撮った写真を見ると、ずいぶん長い隊列ですね。単なる観光用でなく、日常に行なわれる伝統の儀式でしょうから、観客に媚びるところなどなく、淡々と行なわれていくのを見るのは、すがすがしい気分になる。偶然、ラッキーだった。

 

 バッキンガム宮殿の衛兵の交代

 

帰国ラーメン

帰りは、ヒースロー空港を14時半に出て、成田空港に翌日の15時半に着いた。時差8時間で17時間かかったことになるが、南回りだったのかな?現在は直行便で偏西風に乗るので、12時間もかからないと思うが、昔は北極圏回りも南回りもそのくらいかかった。でも、政治情勢によっては直行便が飛べなくて、昔のルートが復活するかもしれないね、そんなことにならないよう祈ろう。

成田に着いて、急にラーメン食べたくなって、空港ビルのどこかの店で醤油ラーメンを食べた。旨かった。エジンバラのローストビーフのときとは別腹、このタイミングのラーメンは特別だ。醤油味でなくてはいけない。日本にいると、ラーメンといっても、味噌とか塩とか豚骨とか、浮気をしたくなるが、絶対醤油だ。空港で醤油ラーメンを食べるのは、この後の出張でも習慣になってしまった。私の海外出張は、醤油ラーメンを食べるところまで、そこまでは非日常が持続し、食べ終わって初めて日本の生活に戻ることになった。

後日談ですが、空港の免税店で買ったシーバスリーガルは無事、実作業者に渡したけど、この優雅な出張の縁の下を支えたのは自分ですぞ、という顔つきだったなあ。そうなんです。因みに、奮発したロイヤルドゥールトンを持って、何階層も上の上司に報告に行ったら、うんうん、と聞いてはくれたが、お土産はそのまま机の片隅にポイッと置かれてお終い。むしろ1本500円のピンの方が仕事仲間の大歓迎を受けた。お土産って値段じゃないんだよね。