平山朝治のブログ

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ジンジャンホテルのホールと緑の芝生

上海コミュニケの調印場所であるジンジャンホテルのホール

 

中国が高市首相の台湾有事をめぐる発言に強く反発したため、忘れられたかのようだが、最近の米中対立の最も重要な問題は、1972年ニクソン大統領訪中の際の米中上海コミュニケ以来、半世紀余りの間、「アメリカは、台湾海峡の両側の全ての中国人が、中国はただ一つであり、台湾が中国の一部であると主張していることを認知(acknowledge)している。アメリカ政府はその立場に異議を唱えない。」としてきた基本的な立場を修正しはじめたということである。

 

すなわち、「米国務省や米国の対台湾窓口機関である米国在台協会(AIT)が9月、約半世紀ぶりに『台湾地位未定論』を公式に打ち出し」、「台湾有事『軍事介入』への環境整備か」とみられている。

 

それは、中国の台湾侵攻の法的正当性を否定してその際に米国が軍事介入することを強く示唆するものであり、トランプ大統領が台湾侵攻には北京爆撃で対抗すると述べたことが本年7月に報道されたことといわば車の両輪として、中国の台湾侵攻抑止をねらったものと思われる。

 

それに対して中国は、11月5日の最新鋭空母「福建」就役式において、習主席がみずから同艦に乗り込み、電磁カタパルトのスイッチを押して最新鋭ステルス戦闘機を発射するなど、アメリカの脅しに屈しない姿勢を示し、台湾有事の勃発までエスカレートしかねない事態に至った翌々日、日本の国会で岡田議員と高市首相が台湾有事をめぐって質疑応答したことは、両氏の意図はともかく、米中対立の構図を日中対立に置き換え、当面の間中国が台湾に侵攻する可能性を消したものと評価できることは、下のブログで示した。

 

また、下のブログで述べたように、香港民主化運動弾圧を契機に、台湾の人々が自分は中国人であるというアイデンティティを捨てたことは、中国の台湾侵攻リスクを禁止的に高くし、武力による台湾併合という形での「一つの中国」実現を中国は断念せざるをえなくなったと思われる。

 

 

2020年以降、台湾の人々の圧倒的多数は自らを台湾人とし、台湾人ではなく中国人であるとする人はごく少数であるということは、上海コミュニケのなかの「台湾海峡の両側の全ての中国人が、中国はただ一つであり、台湾が中国の一部であると主張している」の部分が現状と合わなくなっているということであり、アメリカが2025年9月に台湾地位未定論を表明したことも正当化できる。

 

中国が武力による「一つの中国」実現を断念したことがはっきりすれば、次の段階として、中台関係をいかに安定化させるかということが課題となる。

 

台湾の民主主義を定めた独自の憲法(1991年第一次改正以降)を中国が侵さないという、実効性のある取り決めが必要だが、それは両憲法より上位の規範なので米中の取り決めや国連決議などが必要では?

 

それによって台湾の国際法的地位が確定するので、台湾の体制選択を中国の国内問題とする「一つの中国」論はいったん括弧に入れ、議論の出発点として「台湾地位未定論」が不可欠では?その結果、実質を伴う「1国2制度」のもとで「一つの中国」が実現されるだろう。

 

台湾地位未定論は戦後米国の一貫した立場だが、1954年の米華相互防衛条約を締結とともに主張しづらくなって封印してきたもので(「アメリカ政府が「台湾地位未定論」を表明。「未定論」はアメリカの一貫した立場だが、今表明したのは中国の主張に対抗するため 」)、1971年の米中接近以降もその封印を維持してきたのだが、台湾侵攻を仄めかす中国に対応すべく、伝家の宝刀を抜いたと思われる。

 

習首相は米中によるG2中心の新型国際秩序をめざしているとすれば、米中が台湾の法的位置付けを定め、東アジアに秩序をもたらすことは、香港のように台湾を一党独裁体制に飲み込むという不可能な試みの放棄に見合うだけのメリットが中国にはあると判断するかもしれない。