平山朝治のブログ

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出所 「中国軍高官2人失脚、習近平主席が軍側近にも不信感…台湾侵攻すぐは困難か」

 

2026年1月24日、中国人民解放軍制服組トップの張又俠・中央軍事委員会副主席が「重大な規律・法律違反」の疑いで調査されるとの発表があった。張氏は「軍事作戦の計画や統括指揮を担当する統合参謀部のトップ」であり、習近平主席と父親同士が戦友という関係もあって「習氏自らが抜てきしたにもかかわらず『忠誠を失い、党の信頼に背いた』(軍機関紙・解放軍報)と批判されており、側近にも疑心暗鬼にならざるを得ない事情が透ける」(カバー画像出所と同じ)と指摘され、「今回の事案の調査と新たな人事決定までは台湾有事どころではないだろう」という中国軍に詳しい専門家の見解が紹介されている。

 

「アメリカ統合参謀本部議長のマーク・ミリー(Mark Milley)陸軍大将は二〇二一年六月に連邦議会において、習近平が人民解放軍に対して台湾侵攻能力の獲得を二〇三五年から二〇二七年に前倒しするよう要求したと証言」(松田康博『中国と台湾 危機と均衡の政治学』慶應義塾大学出版会、2025年、Kindle版、461/644)しており、2027年までというタイムリミットが迫った2026年1月にその制服組責任者が更迭されたことと合わせて、「忠誠を失い、党の信頼に背いた」とは主に台湾侵攻準備の遅延の責任を問われたということだろう。

 

中国は日本が台湾有事に介入しないよう期待していたと思われるが、2025年11月7日の高市首相答弁でその期待も裏切られた。台湾有事に自衛隊が関与した場合、中国軍は隻数では半分に満たない日本の潜水艦の性能の高さのため劣勢に追いやられるとする説もある(青山やまと「だから習近平は台湾にも尖閣にも手を出せない…中国軍が最も恐れる海上自衛隊の『静かな反撃力』の正体」『PRESIDENT online』2026年1月23日)。

 

そのため、現実的な作戦は米軍や自衛隊が介入するよりもすばやい奇襲攻撃に絞られていたと思われる(「人民解放軍を誰よりも知る日本人研究者が語る『台湾有事、中国側はこんな超短期決戦をしかけてくる』」『週刊現代ウエブサイト』2023年9月6日)が、そのような作戦を隠密裏に立案、訓練、実施するような、日本の真珠湾攻撃やアルカイダの9.11並みの規律が中国軍にはなかったらしいことは、中国製防空レーダーを中国が提供している同盟国ベネズエラに中国が特使を派遣している最中にアメリカがマドゥロ大統領拘束の奇襲作戦を成功させたことからも窺われる(須田 慎一郎「習近平が最も恐れる展開になる…トランプ大統領が『ベネズエラの次』に標的にする“産油国の名前」『PRESIDENTonline』2026年1月11日、マイカ・マッカートニー「中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析」「ニューズウイーク日本版』2026年1月7日、「米国に突破された『ベネズエラ防空網は中国製…技術流出の危機に中国『騒然』」(『中央日報日本語版』2027年1月7日)。

 

さらに、米国は2025年秋ころから、カタール当局の仲介でロドリゲス副大統領(現暫定大統領)やその兄で国会議長のホルヘ氏とマドゥロ大統領拘束の事前協議を進め、副大統領は米国への協力を約束していたことまで明らかになった(「ベネズエラ暫定大統領のロドリゲス氏、マドゥロ大統領の拘束に「協力」約束か…『米側と事前協議』と英紙報道」『読売新聞オンライン』2026年1月23日)。

 

カタールは「2017年の建国記念の軍事パレードでは従来の英国式から中国人民解放軍の訓練教官によって中国式の隊列とガチョウ足行進に変えられ、中国製弾道ミサイルBP-12Aを披露し上海協力機構に加盟を申請するなど中華人民共和国への接近が目立った」(https://ja.wikipedia.org/wiki/カタールの軍事)「タミーム・ビン・ハマド・アル・サーニー首長は、韓正氏が第二回世界社会開発サミットに出席したことに感謝の意を表し、習近平国家主席に祝意を伝えるよう要請した。タミーム首長は、中国はカタールの最大の貿易相手国であり、カタールと中国の関係はカタールにとって極めて重要であると述べた。カタールは中国との友好関係を大切にし、領土主権と国家安全保障の維持に向けた中国の支援に感謝し、『一つの中国』原則を断固として遵守する。カタールは中国の第15次五カ年計画の動向を常に把握し、中国との様々な分野での協力を拡大し、エネルギー分野でのパートナーシップを強化し、カタールと中国の関係を新たな高みへと引き上げたいと考えている。」("Han Zheng Meets with Qatari Emir Sheikh Tamim bin Hamad Al Thani  韓正氏、カタールのシェイク・タミーム・ビン・ハマド・アール・サーニー首長と会談"『中国外務省ウエブページ』2025年11月4日)というように、中国はカタールがベネズエラ問題で米国側につくことも警戒していなかったと思われる。

 

このように、米国のマドゥロ大統領拘束は米国単独の極秘作戦ではなく、中国と軍事的経済的関係が深いカタールの仲介によって副大統領や国会議長との事前協議を経て行われていたようであり、それにもかかわらず中国は事前に何の情報も得られず、何の対策もしていなかったことが露見した。マドゥロ氏は裸の王様だっただけでなく、習氏自身が米国がらみの軍事外交分野では裸の王様同然だったと評すべきではなかろうか?

 

習氏は、2027年にもし台湾侵攻しても台湾軍、米軍と日本の自衛隊に勝てる見込みはまずないと悟って作戦を事実上撤回ないし延期し、その責任を父親同士が戦友という制服組トップの張氏に着せて粛清し、対日外交で強硬路線をとることで、難局を切り抜けようとしているのであろう。

 

その後、張氏は「核兵器に関する機密情報を米国に漏えいした疑いを持たれている」と報じられた(「中国軍制服組トップ、核兵器に関する機密を米国に漏えいか…部下の昇進の見返りに賄賂との報道も」『読売新聞オンライン』2026年1月26日)。事実とすれば、核兵器に限らず、「習近平が人民解放軍に対して台湾侵攻能力の獲得を二〇三五年から二〇二七年に前倒しするよう要求した」ことを筆頭に、中国の軍事機密情報が米国にかなり漏れてきた可能性があり、台湾政策は一から見直さざるを得なくなったのではあるまいか?


付記

ディディ・キルステン・タトロウ「人民解放軍を弱体化させてでも...習近平が軍幹部を立て続けに粛清した『本当の理由』」(『ニューズウイーク日本版』2026年1月27日)は、張氏によるクーデター未遂があったとするフランチェスコ・シスチ氏(ローマ拠点のシンクタンク、アッピア研究所所長であり、30年間中国に滞在した)の説を紹介し、核兵器に関する機密情報の漏洩には多くの専門家が懐疑的であるとしたうえで「なぜ彼(習氏:引用者注記)は権力を欲するのか? なぜ彼は党を強く、規律正しいものにしたいのか? そうなれば当然、党や軍が実際にどれだけ機能するのかという能力面の問題が浮かび上がる。人民解放軍は、2027年の『台湾との戦争に勝てる軍』という目標達成を目指す中で、数々の問題を抱えてきた」と指摘している。

 

だとすれば、張氏らは2027年に台湾侵攻能力を獲得するという習氏の指令を受けた制服組トップであり、それができなければ粛清されるだろうことを予測し、身の危険が迫れば米国に亡命しようと考えたとしても不思議ではなく、その準備として台湾侵攻計画の進捗状況を密かに米国に漏洩しつづけてきたのではないかと推測することができる。

 

このように、核兵器の機密情報は表向きの理由で虚偽の可能性が高く、実態は台湾侵攻計画情報の漏洩だと推測できる☆。また、仮にクーデター計画があったとしても、機密情報提供の対価として、失敗したときの亡命を米国が保証していたとも推測できる。

⭐︎張氏が逮捕直前に書いたとされる密書は、張氏の自著かどうかは不明ならが張氏の立場をかなりよく伝えているものと思われ、「私がロシアや米国と接触したのは国家利益を守るためであり、情報の交換も権限の範囲内だ。実は米側との交流の際、彼らは意図的に最高機密を漏らしてきた。我々の軍事基地の写真、核施設の配置図、さらには党指導者の私邸の詳細に至るまで見せてきたのだ。彼らの目的は明白だ。『ハイテク技術で毎日空から監視しており、すべてお見通しだ。戦争など起こすな、勝ち目はないぞ』という警告だ。」という部分が事実とすれば、機密情報は張氏が漏らしたものではなく、米国がハイテク技術で空から入手したものを張氏に見せたということのようだ。また、同文書は「武力による台湾統一の幻想を打ち砕き、壊滅的な戦争のシナリオを予測している。 一旦開戦すれば、その結果は『数十万の兵士を海に沈めても無駄』であり、日米の介入は必至であると断じている。その際、中国南部の沿岸にある軍事施設、橋梁、石油備蓄基地などの重要目標は数時間以内に破壊され、国家の海外資産も凍結され、最終的には『党も国も滅びる』の絶望的な境地に追い込まれると警告している。」(「『習近平が私を捕らえるなら公開を』張又俠氏の『密書』拡散 軍事クーデター説と台湾侵攻反対の真相」風傳媒(台湾のオンラインメディア) 日本語版』2026年1月31日)

 

張氏について、次のような米国元国務次官補スティルウェル氏の意見が示されている。「第1次トランプ政権で国務次官補(東アジア・太平洋担当)を務めたデービッド・スティルウェル氏は、2012年5月に1週間にわたって米国に派遣された軍事代表団に参加した張氏が中国人将校で唯一、米軍の輸送機オスプレイへの搭乗を希望したと回想。スティルウェル氏は『張氏は他の人民解放軍将校とは大きく異なる。米軍に非常に良く溶け込めただろう』とし、米軍の兵士との対話と兵器を試すことに熱心な姿勢から、政治的ではない職業軍人であるとの印象を受けたとして『張氏がいなくなることで失われるのは理性の声だと思う』と嘆く。」(Michael Martinaほか「焦点:中国軍制服組トップ失脚、対米パイプ喪失で高まる誤算リスク」『Reuters』2026年1月29日)

 

スティウェル氏は、2027年の台湾侵攻成功の見込みが少ないことを習主席に直言したため責任を取らされた可能性を無視して、台湾侵攻計画の遅延以外の理由で張氏は粛清されたという前提のもとで、その結果、台湾侵攻計画を習氏に思いとどまらせることができる合理的な人が政権内にも軍部にもいなくなり、習氏が侵攻命令を発するリスクが高まったとみている。

 

張氏らの粛清で中国軍の戦闘能力は短期的には低下し、そのことを習氏は合理的にとらえて台湾侵攻を中止ないし延期するとみる見解と、米中の軍事力を理性的に比較して台湾侵攻を中止ないし延期すべきだと直言できる張氏がいなくなったため、みな習氏のイエスマンとなり、無謀な作戦の実施に突き進むリスクが高まったとみるかという見解の対立がある*。

*台湾のオンラインメディア『風傳媒 日本語版』に掲載された、陳得馥「もはや習近平氏の台湾侵攻を止める者はいないのか?張又侠氏ら軍トップ失脚の衝撃 研究者が読み解く中国軍の『次の一手』」(2026年1月28日)は、「現在、中国共産党中央軍事委員会は前例のない事態に陥っている。同委員会に残っているのは、主席の習近平氏と副主席の張升民氏のみで、他の委員は全員失脚した状態だ。林氏は「張升民氏が政治工作・軍紀律検査系統の出身であることを踏まえ、現在の中央軍委には『野戦部隊の指揮経験』を持つ将官が一人もいない状態」と指摘。「習氏にとって、現在は『対外的な作戦能力』よりも『軍内部の安定』が優先順位として高いことが浮き彫りになった」と分析している」と、淡江大学国際事務戦略研究所の林穎佑准教授の見解を紹介し、「一方で、著名な政治系YouTuberである『八炯』氏は、より悲観的な見方を示す。彼は動画やThreadsで、『張又侠氏のような実権を持つ重鎮の失脚は、党内に習氏の台湾侵攻を阻止できる実力派の反対勢力が消滅したことを意味する』と警告。『これは単なる他国の政変ではない。内部の制衡が消え、台湾内部での国防予算を巡る対立と相まって、台湾海峡の情勢はより危険なものになる恐れがある』と分析している」とも伝えている。

 

しかし、私の理解では、どちらの見解も的外れであり、高市首相が存立危機事態発言を撤回しないことがはっきりして以降、台湾侵攻に米軍のほか日本の自衛隊も介入する可能性があるため台湾侵攻には成算がなくなったということでは習氏と張氏に見解の相違はなくなり、その責任を誰がどういう形でとるかという問題に関して、張氏がクーデターを企てたか、あるいは習氏が張氏らの粛清によって決着をつけることにしたかのいずれかだろうというのが、私の推測である。

 

主な更新

2026年1月28日 付記を加筆

2026年1月31日 末尾の赤字部分を加筆

2026年2月2日 注⭐︎、*を加筆