平山朝治のブログ

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カバー画像出所:中国を訪問していたアメリカのトランプ大統領は、習近平国家主席との2日間の首脳会談を終え、帰国の途につきました。

 

 

「習氏は14日の会談で、首相と台湾の 頼清徳 ライチンドォー総統の2人を名指しし、両氏が地域の平和を脅かしているとの主張を展開した。その上で、両氏を支援しないようトランプ氏に迫ったという。」という複数の政府関係者の証言が報道された[1]。

 

習氏の狙いは、台湾独立を党是とする民進党頼政権の支持者として日本の高市政権を位置付けたうえで、トランプ氏は台湾独立を支持しないという言質をとることだったのではないかと思われる[2]。実際、会談を終えた同氏は「私は、誰かに独立してほしいとは思っていない。我々は戦争するために、9500マイル(約1万5300キロ)も移動することになっている。私はそんなことは望んでいない。彼ら(台湾)に冷静になってほしい。中国に冷静になってほしい」と述べた[3]。

 

習氏は、台湾をめぐって日米を切り離し、米国を中国寄りに誘導しようとしたのであり、台湾併合のために武力行使を排除しないという2019年1月2日の談話[4]と比べると、台湾独立を米国が支持しない限り武力行使はしないという、それ以前の穏健な方針に立ち戻ったことを遠回しに示唆しようとしたようだが、2019年以来の強硬な立場を撤回すると明言する代わりに、日本を敵役に仕立てて対面を保とうとしてたのだろう[5]。

 

台湾有事において、中国軍艦艇の海上封鎖に対抗して出動した米軍が中国軍に攻撃された場合に存立危機事態と認定し、米軍防護のために自衛隊が出動する可能性があるということを、2025年11月8日の国会答弁で高市氏は発言したが、中国は「米軍が中国軍に攻撃された場合」という限定条件[6]を無視して、台湾有事に自衛隊が出動できると高市氏は発言したと反発したのも、日米を切り離し、日本だけを敵役にするということであり、今回の米中首脳会談に至るまでその方針は一貫している。

 

しかし、実際には、11月の高市発言に先立って、2025年7月12日、英紙は「米国防総省ナンバー3のコルビー政策担当次官が日本とオーストラリアの国防当局者に対し、台湾有事で米中が軍事衝突した際の役割を明確化するよう伝え、『関与』を求めたと報じた。複数の関係筋の話としている。[7]」との報道があり、高市発言はそれに応じた政府決定をふまえたものだったと思われる。

 

7月当時、第2次石破内閣は衆参両院で少数与党であったから、存立危機事態認定のためには野党の協力が不可欠であり、外相経験者で集団的自衛権に前向きな立場でもあった立憲民主党の岡田氏もおそらく参加して高市発言のような内容が石破首相のもとでまとめられ、米国防総省に回答していたのではなかろうか[8]。

 

いずれにせよ、高市発言は米国防総省の求めに応じた内容であり、米中衝突時の米軍防護という条件なしに日本が独自の判断で台湾有事に自衛隊が出動しうると述べたものではない。

 

米中会談で、米国は台湾独立を支持しないので中国は台湾に武力侵攻しないということがはっきりしたので、それならば、台湾有事で米中が軍事衝突することもなく、したがって、自衛隊出動がありうると高市氏が述べたような存立危機事態も起こらないので、高市発言に対する中国の反発も完全に的外れであることがはっきりした。

 

米中首脳会談のあと、中国で行われたAPEC貿易相会合で赤沢経済産業相が中国の王貿易相と立ち話をし[9]、高市首相が「この度、中国山西省の炭鉱内でガス爆発事故が発生し、大きな被害が生じていることに、大変心を痛めています。 犠牲になられた方々に哀悼の意を表すとともに、御遺族に対し謹んでお悔やみ申し上げます。 また、被害に遭われた方々に対し、心からお見舞い申し上げます。」とx(旧Twitter)に投稿し、さらに習首席と李首相に哀悼とお見舞いのメッセージを送った[10]のは、米中首脳会談の結果台湾有事が発生する可能性は当面遠のいたことがはっきりしたことをふまえて、日中関係の改善を計ろうとしているように思われる。

 

5月25日加筆

英紙『フィナンシャルタイムズ』は2026年5月25日午前0時33分(日本時間)、以下のように配信した[11]。


   President Xi Jinping castigated Japanese Prime Minister Sanae Takaichi for her country’s “remilitarisation” in an intense diatribe during his summit with Donald Trump, according to seven people familiar with the meeting in Beijing.   

   Xi became vocal and agitated when discussing Japan, surprising US officials because the subject had not featured in talks with their Chinese counterparts before the summit. Several people said Xi’s verbal attack was the most heated part of the two-day summit between the leaders.  

   After Xi lambasted Takaichi and Japan’s rising defence spending, Trump responded that Tokyo had to take a more assertive security stance because of the rising threat from North Korea. It was unclear if Trump mentioned China — the biggest Japanese security concern — in the same context.  

 北京で行われたドナルド・トランプ米大統領との首脳会談で、習近平国家主席は高市早苗首相に対し、日本の「再軍備」を激しく非難した。会談に詳しい7人の関係者が明らかにした。

 習主席は日本について語る際、声を荒げ、感情的になった。首脳会談前に中国側との協議で日本問題が取り上げられていなかったため、米当局者らは驚いた。複数の関係者によると、習主席の激しい非難は、2日間にわたる首脳会談の中で最も白熱した場面だったという。

 習主席が高市首相と日本の防衛費増額を厳しく批判した後、トランプ大統領は、北朝鮮の脅威の高まりを理由に、日本はより積極的な安全保障姿勢を取る必要があると応じた。トランプ大統領が、日本の最大の安全保障上の懸念事項である中国について、同じ文脈で言及したかどうかは不明である。

 

しかし、25日午後に、中国外務省の毛寧報道局長は記者会見で、習氏が高市氏を名指し非難したという報道を否定し、「報道内容は中国側が把握している状況と一致しない」と述べた[12]。

 

習氏による高市氏名指し非難を報道した[1]は日本政府関係者が情報源で台湾の頼氏と並べているのに対し、[11]はその19時間後に首脳会談に詳しい7人の関係者が情報源で「再軍備」を問題としているので、[1]の裏を取るためにFINANCIAL TIMESが米関係者に取材して「再軍備」について習氏が声を荒げ、感情を露わにして高市氏を名指し批判したという新たな関連情報を得て記事にしたのであろう。[1]と[11]の情報源や内容からみて、習氏が高市氏を名指し非難したという報道の信頼性は高いと思われる。

 

高市氏の哀悼とお見舞い[9][10]の直後に[11]が公にされて全世界に拡散されたことは、絶妙のタイミングであり、その結果、習氏の高市氏に対する姿勢が変化し、日中関係が改善に向かうことを期待したい。


[1] 「米中首脳会談で習主席が高市首相を名指し非難、トランプ氏は擁護…緊張長期化の見方広がる」『読売新聞オンライン』5/24(日) 5:01、https://share.google/WiMo0Aa0tjHtsc4MZ

[2] 民進党の党綱領は1991年10月、「台湾共和国建設」を盛り込んで修正されたが、1999年5月の党大会で「台湾は国会全面改選・総統直接選挙を経て事実上すでに独立した民主国家となっているという前提に立ち、主権国家である現状を変更するには、いかなる内容であれ台湾全住民による住民投票が必要である」という『台湾前途決議文』を採択して「事実上、党綱領に掲げた台湾共和国樹立の目標を棚上げし、中華民国体制を容認した」(https://ja.wikipedia.org/wiki/台湾前途決議文)。このことをふまえれば、国が台湾の独立を支持するとは住民投票の実施を支援するということではなく、中華民国を独立した主権国家として承認して国交を樹立することをめざすということのはずだが、米国も日本もそのようなことをめざしているわけではない。

[3] “Trump warns Taiwan not to expect blank check from US military after intense Xi summit: The president told Bret Baier he's 'not looking to have somebody go independent' because the US is backing them,” Fox News, May 15, 2026 10:55am EDT, https://www.foxnews.com/media/trump-warns-taiwan-expect-blank-check-us-military-intense-xi-summit,和訳は「習氏との会談終えたトランプ氏、台湾の独立望んでいないと発言 合意の詳細は明かされず」『BBC NEWS Japan』2026年5月16日、https://www.bbc.com/japanese/articles/c4g5ql5wyxlo

[4] 「台湾に対して『一国二制度の台湾版』を話し合うことを呼びかけ、他方で台湾向けの『武力の使用を放棄することを決して約束しない』とまで言い切った。これは台湾に対する『降伏勧告』に近い強硬な発言である。」(松田康博『中国と台湾 危機と均衡の政治学』慶應義塾大学出版会、2025年、Kindle版、232-3/466)

[5] 「中国は台湾併合を諦めた」『平山朝治のブログ』2026年5月1日初出、https://ameblo.jp/vyc13162/entry-12964735660.html、「米中首脳会談と台湾問題解決への見通し:武器売却をめぐって」『平山朝治のブログ』2026年5月16日初出、https://ameblo.jp/vyc13162/entry-12966377119.html

[6] 「歴史的背景からみた台湾有事問題(報告レジュメと主な議論)」『平山朝治のブログ』2026年2月11日初出、https://ameblo.jp/vyc13162/entry-12956399045.htmlの「主な議論」。

[7] 「米高官、台湾有事で日本の関与要求 FT報道『役割明確化を』」『日本経済新聞』2025年7月12日21:13(2025年7月13日 0:25更新)、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB122Y20S5A710C2000000/、英紙の記事は “US demands to know what allies would do in event of war over Taiwan,” FINANCIAL TIMES,

https://x.com/FT/status/1943975421097210143?s=20

[8] 「高市早苗と岡田克也は漫才コンビ!?」『平山朝治のブログ』2025年1月20日初出、https://ameblo.jp/vyc13162/entry-12947400181.html

[9]「日中閣僚が立ち話 APEC貿易相会合が閉幕―中国」『JIJI.COM』2026年05月23日17時08分、https://www.jiji.com/jc/article?k=2026052300318

[10] @takaichi_sanae、午後9:11、 2026年5月23日、https://x.com/takaichi_sanae/status/2058158942388457905?s=20 、「高市首相、中国主席に哀悼メッセージ」『JIJI.COM』2026年05月24日19時30分、https://www.jiji.com/jc/article?k=2026052400384&g=pol

[11]  "Xi Jinping railed against Japan’s ‘remilitarisation’ at Donald Trump summit,'FINANCIAL TIMES, https://x.com/FT/status/2058572196071485898?s=20。和訳はGoogle翻訳による。

[12]「中国外務省、習近平氏による「高市首相の名指し非難」を否定」『日本経済新聞』2026年5月25日 16:24, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM255XT0V20C26A5000000/