建設業の2024年問題というのをみなさんご存知だろうか。建設業はこれまで天候の影響を受けやすく工期を間に合わせるために突発的な残業が増える傾向にあったため36協定の適用除外を受けていたが、2024年4月より他の産業と同様に36協定の適用を受けることになったのだ。これにより、これまでは月の残業時間が80時間まで合法的に許されていたのが45時間に規制されることになる。建設業、とりわけ現場監督をしていて月の残業時間が45時間というのは並大抵の努力でできることではない。

 

 まず、会社の始業時間は8:30なのに現場の朝礼は8:00からである。労働日数が20日/月だとしたら10時間は確定で時間外労働が発生する。現場が稼働している8時~17時はひっきりなしに職人から電話がかかってくるし、トラブル対応、作業完了の確認など現場対応で忙殺される。そのため、工程表の作成、品質管理記録のまとめ、安全書類の確認、作業手順のチェックなど膨大なデスクワークは自ずと職人たちが帰った17時以降やることになる。

 

 ここで、月の時間外労働を45時間におさめるためには夕方の残業時間を35時間以内にする必要がある。これを20日間で割ると1.75時間となり8:30~17:30が定時の会社だとしたら19時には絶対退社しないといけない計算になる。しかも私は良心的に月20日勤務で計算したが、建設業では土曜日出勤は当たり前でそれも全部時間外労働に加算されるため、19時に毎日帰っていたとしても土曜日出勤すればアウトである。

 

私がまだスーゼネに勤めていたときはかなりキツイ仕事ながらもまだ残業時間が80時間つけられて残業代も満額出ていたので旨味はあった。しかし、これからは違う。上述の通り、たとえスーゼネと言えど月の残業45時間ははっきり言って夢物語である。というか達成不可能な目標であると思っている。たまたま運よく豊富な人員とゆったりした工期の現場に配属されて達成できることはあったにせよ、全社的に、全国どこの現場でもきっちり労働時間守ってますなどという会社は出てこないだろうと思う。そうすると自ずとサービス残業が横行し、安い給料のまま会社のコマとして従順に働くのである。そして、現場には長時間労働を心から改善したいと思っている管理職の人間はいない。彼等はこれまでこの働き方をヨシとして評価され成り上がってきたわけで、働き方改革を口にしてもそれは会社からそうしろと言われてやっているだけのことであり熱がない。本気で現状変えたいと思っている管理職の人間はもうとっくに会社に残ってないし、そもそもそういう人達を評価せず煙たがり排除してきたのは何より会社側なのである。今更焦って変えようとしてもはっきり言って無駄である。

 

 そして、今回の鉄骨崩落事故を受けて更に残業時間と現場での事故は増えていくと予想する。まず現場で職人と打合せし作業の進捗を確認したり安全に作業できているか確認するのは若手職員の仕事である。一番現場の隅々まで見ているのは彼らで当然現場に出ている時間も長くなる。そして、安全書類の作成や確認するのも若手職員の仕事である。今回の事故でただでさえ膨大な安全書類がさらに増えるのは必至である。そして、それははっきり言って無駄な書類である。次に何か事故があったときに労基署や警察にうちはこれだけやってましたと見せられるようにし法的責任を逃れるための形だけのものである。

 

 少しでも残業時間を減らしたい彼らは日中の現場稼働時間にデスクワークをすることになる。すると、現場の作業はいったい誰が管理して見ているのだろうか。余計に現場の安全管理は疎かになっていき管理の行き届いた現場運営はできなくなる。そして膨大なデスクワークに追われサービス残業でこなしていき、イヤになった若手職員が辞めて人手不足に陥るのである。

 

以上の理由から私は今後ますます建設業で安全や品質関する重大事故が発生すると予想する。それは、なにも外国人技能実習生が増えて意思疎通が難しくなったためなどという安直な理由からではない。もっと根深く深刻な問題である。