ニクソンショックと為替体制の変化
1971年8月15日、リチャード・ニクソン米大統領は金とドルの交換停止を電撃的に発表し、これが「ニクソン・ショック」と呼ばれています。 同時に「金・ドル交換停止」「10%輸入課徴金」「90日間賃金・物価凍結」の三本柱からなる新経済政策が提示されました。 これらの政策の目的はドルの安定、インフレーションの抑制、貿易赤字の是正です。
1971年12月に締結されたスミソニアン協定では金価格が1オンス=38ドルに引き下げられました。 為替変動幅は従来の±1%から±2.25%へと拡大されました。 この協定によりブレトン・ウッズ体制は実質的に崩壊し、変動為替相場制への移行が1973年に完了しました。
フランスは1971年8月にドル売りを加速し、金との交換を要求しました。 イギリスは同月13日に米国に対し30億ドル相当の金交換を要請しました。
日本は8月14日に外貨準備が100億ドルを超え、8月27日には125億ドルに達しました。 8月28日に日本は1ドル=360円の固定相場制から変動相場制へ移行し、初日は約5%円高の約342円/ドルとなりました。 12月20日には新たな固定レートとして1ドル=308円が実施されました。
金価格の推移と中央銀行の保有動向
1971年の公定金価格は1オンス=35ドルでした。 2023年、2024年、2026年1月に金価格は史上最高値の約5,590ドル/オンスに達し、1971年比で約160倍に上昇しました。 2026年6月には約4,190ドル/オンスに調整され、約25%の下落が見られました。
ニクソン・ショック後の金需要急増は金価格上昇の一要因とされています。 1973年と1979年のオイルショックはインフレーションと市場不安定性をもたらし、金への関心を高めました。 中東情勢やインフレーション懸念は「有事の金」需要を刺激し、金本位制廃止後は金が安全資産として認識されるようになりました。
世界の中央銀行・公的機関の金保有量は約36,000トンで、ニクソン・ショック直前の水準に迫っています。 2008年のリーマン・ショック以降、金の売却から購入へと政策が転換され、金回帰政策と呼ばれています。 この転換は金の保有比率上昇に寄与しています。
2026年1〜3月期の金需要は前年同期比+3%の243.7トンでした。 中国人民銀行は2026年4月に8トン、5月に10トン、6月に15トンを購入し、6月末までに20か月連続で購入を続けました。 同時点で中国の金保有量は2,346トンに達し、ポーランド国立銀行は31トン、ウズベキスタン中央銀行は25トンを購入しました。
欧州中央銀行は2025年末時点で準備資産に占める金比率が27%に達し、米国債比率(22%)を上回っています。 この比率は金が主要な準備資産として位置付けられていることを示しています。
ドルの国際的地位と今後の展望
1971年の金本位制放棄により、ドルは基軸通貨体制を確立しました。 1960年代のベトナム戦争、財政赤字、インフレーションにより金準備が減少し、ドルの信認が低下しました。 IMFは2022年3月にドルの国際的存在感が静かに薄れると警告しました。 COFERのデータは2025年上期にドル指数が下落し、外貨準備に占めるドル比率が低下したことを示しています。 2025年・2026年の世界外貨準備におけるドル建て資産比率は約56%台に低下し、過去最低水準となっています。
中国はウクライナ侵攻後に金購入量が世界最多となり、ロシアを抜いて第5位の保有国に浮上しました。 2026年7月に香港と連携した人民元建て決済システムの試験運用が開始され、人民元を「世界的な準備通貨」にする方針が掲げられています。 欧州中央銀行は金比率が27%に達し、米国債比率を上回っています。
管濤(元中国国家外貨管理局)は金の復権が国際通貨秩序に「第三の道」を開くと述べています。 金は2025年第3四半期で外貨準備構成要素の26%を占めるまでに成長しました。 2026年の金価格最高値後はボラティリティが続き、調整局面が見込まれます。 ECB、 中国、新興国の金保有比率上昇が続く可能性があります。 人民元建て決済システムはドル代替の実証実験として注目され、国際通貨多元化に寄与する見込みです。