奥の細道 松尾芭蕉 七 黒髪山 裏見の滝   | まいどーおおきに 河内の樹々の独り言

 

(⒈)黒髪山は、(⒉)霞かゝりて雪いまだ白し。

 剃り捨てて黒髪山に(⒊)衣更へ 曾良

曽良は河合氏にして惣五郎といへり。(⒋)芭蕉の下葉に軒を並べて、予が薪水の労をたすく。

このたび松島・象潟の眺め共にせんことをよろこび、かつは羈旅の難をいたはらんと、(⒍)旅立つ暁髪を剃りて墨染に様をかへ、惣五を改め宗悟とす。

よって黒髪山の句あり。衣更の二字力ありて聞こえゆ。

二十余丁山を登って滝あり。岩洞の頂より飛流して、百尺千岩の壁潭に落ちたり。

岩窟に身をひそめ入りて、滝の裏より見れば、裏見の滝と申し伝え侍るなり。

 しばらくは滝に籠るや(⒎)夏の初め





注釈
(⒈)日光連山の主峰男体山
(⒉)「身の上にかゝらむことぞ遠からぬ黒髪山にふれる白雪」(新後拾遺集・源頼政家集)
  など、雪をよみならわしている。「かゝる」は、「髪」の緑語
(⒊)春服を夏服にかえること。ここでは曾良が俗服を脱いで僧服に帰る意をかけてある
(⒋)曾良は芭蕉庵の近くに住んで、芭蕉の生活の手助けをした
(⒍)曾良の出家は、実際は元禄元年(1688)である
(⒎)夏は夏安居、夏行、夏ごもり等の略。陰暦四月十六日から七月十六日まで、一室に安居して読経、写経、座禅などをする修行 


 


新校 奥の細道

昭和三十二年三月二十日 第一層刷発行
昭和四十三年四月十日  第十七刷発行

発行所 ㍿白揚社