VOZlog(ボズログ)

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VOZ Records(ボズレコード)の主宰者堀克巳がふと思ったことなど。

 音楽生成AIを使っているクリエイターはどんどん増えていると思います。
 知り合いに聞いても、実作業面でものすごく効率が上がったと言ってました。

 今のところ、音楽生成AIは使用目的の決まった100%お仕事のものか、逆に自分のオリジナル曲が形になるだけで満足、という人にとっては、最高のツールになっていると思います。
 言いかえれば、100%他者のため、もしくは100%自分のため、の音楽制作でAIが有効なら、ためらいなくどんどん使っていいんですよね。

 これが、他者のためと自分のため、の線引きが微妙に混ざっている音楽、つまり、自分の名前を掲げたオリジナル作品で売り上げを作っていこうとする<アーティスト>の人たちにはちょっと悩ましいことかもしれません。
 アーティストにとって、自分らしさ、個性は命綱ですから、AIを使うことでそこが薄まってしまういう心配もあるんじゃないでしょうか。

 サブスクの世界では、毎日毎日、膨大な量の作品が世界中から、新譜も旧譜も区別なく全部横並びになって発信されています。その中で知名度が低い人が発見されるのは稀です。
AIを使わず精魂込めてクオリティを上げた作品でも、全く知られずに終わるということは普通のことです。
 少し前までは、とにかく数多くリリースことがサブスクで注目される確率を上げる方法の一つでしたが、今のようにAIを使う人が増えた時代では、AIを使って作品を量産することはもはや得策でもありません。

 ということで、音楽生成AIはひとまずデモ作りくらいにしておいて、あとは話し相手としてAIを使い倒すことはどうかなと思います。

 僕は今のアーティストにとって、一番大事なのはメンタルだと思うんですよね。技術面があるレベルにまでいったら、あとはメンタル勝負って感じがしています。
 
 最近はアーティストのためのメンタル・ケア、メンタル・トレーニングをやっているところも日本でも出てきていて、プロの方で商売に支障をきたすような悩みがある方はプロに行った方がいいと思います。
 
 もっと軽い、日常的に煮詰まりや落ち込みがあって、まわりに話し相手がいないとか、生身の人間には話しづらいという人は、AIを話し相手にするのがいいんじゃないかと思うんですよね。話の壁打ちの相手です。
 自分のモヤモヤを文にして打ち込む(音声入力で声に出すのもいいです)だけでも、ちょっと違いますし、AIが、おっ、と思うような返事を返してくることも結構あります。
 もちろん、AIは神様でも教祖様でもないので、その回答を鵜呑みにするんじゃなくて、自分が何かに「気づく」きっかけになれば、もう上出来なんですよね。

 自分で自分を見る視点ってどうしても定点カメラみたいに固定されているので、全く別の視点を知る、ってだけでも、いいヒントや発想の転換になるんです。凝り固まっていた気持ちが少しほぐれるんですね。

 ただ、びっくりするほど的確な答えが返ってくることもあって、僕なんて、もう、メンターとして頼ってしまいたい、なんて気持ちになることもありますが(苦笑)、頼りすぎないというラインは守った方がいいと思います。
 
 僕は20年くらいプロデューサーやディレクターのような仕事もやってきましたが、ずっと大事にしてきたのがアーティストやミュージシャンのメンタルで、”売れること”と同じかそれ以上(?)に大事だと思ってきました。

 メンタルって、その作品に出るんです。ミュージシャンやアーティストがいいムードで録音したものは、いい”気”、バイブレーションが音源にも込められていて、僕はそういうのが好きなんですよね。
 
 これからの音楽作品はAIの比重がどんどん増えていくと思うのですが、だからこそ、作品からいい人間同士のいい”気”、バイブレーションが出ている作品の方がすごく貴重になって、大事な個性にもなるように僕は思っています。そのためにも、アーティスト本人のメンタル・ケアはすごく大事になるはずです。
 
 振り返ってみると、才能やセンスがあるのに、メンタル面が先に折れてしまって、音楽を続けられなくなって人もたくさん知っています。
 そういうこともあって、アーティストの「モチベーション」に気を使ったり、僕が何か考えを押しつけるのではなく、本人がなんらかの答えを見つけられるように努めてきました。
 おかげで、あるアーティストの方からは「かかりつけの心療内科さん」とまで言って貰いましたw。
 しかし、”相手の話を聞きながらやる気を引き出す、本人の”気づき”をサポートする”というのがプロデューサーとしての僕の得意技が、今ではAIに仕事を奪われそうです(苦笑)。
 
 でも、やっぱり生身の人間と壁打ちしたいというアーティストの方がいましたら、いつでも僕にご連絡ください(笑)。→ vozrecords@gmail.com

 
 
 

 尺八奏者の工藤煉山さんのアルバムが2枚昨年12月にリリースされました。

 僕はずっとポップ・ミュージック一筋で生きてきたので、伝統邦楽についての知識はまったくなかったのですが、縁があって知り合うことになり、一昨年くらいからいろいろやりとりさせてもらっています。
 工藤さんの独自のところは、尺八のルーツとされる江戸時代に禅の宗派普化宗の虚無僧(こむそう)たちが、悟りを開くために尺八を吹きながらする修行「吹禅(すいぜん)」を実践しているところです。その時代の尺八(地無し尺八)を再現するために、実際に竹林から竹を選んで伐採し、そこから作っているんですね。

 尺八と禅、というとかなりストイックな気難しそうな印象を持つ人もいるかと思いますが、お会いすると物腰がすごく柔らかくてフレンドリーで、中学生時代はTMネットワークやYMOに夢中だったと語っていました。YMOから坂本龍一さんのファンになり、坂本さんの出身校ということで藝大にすすみ、坂本さんと念願の共演も果たしています。
 工藤さんは「空道」という2mくらいある長い尺八も吹くのですが、坂本さんは「空道」に大変興味を持っていらっしゃったそうです。
 それから、昨年の大きな話題としては、映画「国宝」のサントラにも参加しています。

 そんな工藤さんが昨年一年近くかけてアルバムを制作していました。その過程で時々僕は感想や意見を求められて、僕はほとんど役には立たなかったのですが、一人の一般的なリスナーとしてざっくりした(苦笑)感想を戻させてもらったりしました。
 尺八の音楽に馴染みのない方も、先入観を取っ払って、軽めの瞑想をするように聴いてみるといいように僕は思いました。

 アルバムは、禅の心をベースにし、細かな息遣いも感じるような短編的な演奏を収めた作品集「IS-BE」と夏の自然音の中で即興的でアンビエントな長尺の演奏を収めた「Noneness」の2枚。

 「IS-BE」は映画「国宝」の音楽を手がけた原摩利彦さんが、「Noneness」は鎌倉、円覚寺の横田南嶺菅長がコメントを寄せています。

 今の時代はただ生きているだけでも心の波長が乱れてしまうんですけど、そんな時に目を閉じてゆっくり呼吸しながら聴くといいんですよね。

 ご興味のある方はぜひこちらからご試聴いただけます。

工藤煉山 配信リンク

 ギタリスト鳥山雄司さんとドラマー神保彰さんのユニットPYRAMIDのライブが2/6(金)ビルボード東京でありました。
 高校在学中からのバンド仲間だった鳥山さん、神保さん、和泉宏隆さんの3人で、アマチュア時代にカバーした1970年代のジャズ/クロスオーバー、R&B、ファンクをあらためて演奏してみようという動機でスタートさせたバンドがPYRAMIDです。神保さん、和泉さんがいたカシオペアやT-SQUAREのようなジャパニーズ・フュージョンよりは、洋楽のジャズ/クロスオーバー色が強いバンドなんですね。
 (2021年に和泉さんが急逝されたのですが、2人で継続することに決め、クラウドファンディングでアルバムを作ることにしたタイミングで、僕は知人を介してA&R、レーベル業務担当として彼らのスタッフとなりました)

今回のライブは「Gracenotes」と名付けられた企画の第二弾。
「Gracenotes」は二人が強く影響を受けた70年代のクロスオーバー、ファンク、R&Bを大きくフィーチャーしたセットリストになっているのがポイントです。
 今回はハービー・ハンコック、アース・ウィンド&ファイアー、ラムゼイ・ルイス、クルセイダーズなどのカバーを演奏しました。
 
 彼ら以外のメンバーは、今やPYRAMIDの準メンバーになっているGaku Kano君、藝大で打楽器とピアノを学んだ、超マルチプレイヤー。全楽器自ら演奏しオペレーションしたアルバム『Experimental Jazz』が話題になり、KIRINJIに認められニューアルバムにも参加している、今後”世界水準のアーティスト”になること間違いない才能です。彼が大きくフィーチャーされたPYRAMIDの最新曲「Tomorrow(feat.Gaku Kano)」ももちろん披露されました。
 和泉さんが彼独自の情感のあるスタイルを持ったキーボーディストだったので後釜は探そうにもいないわけですが、Gaku君はもうボコーダーをやったり全然違うスタイルのミュージシャンで、かえって違う化学反応を起こすことができていると感じます。

 そして今回初参加となったシンガーのTiAさん。2004年にR&Bテイストのポップ・シンガーとしてデビューしましたが、今ではゴスペル・シンガーとしてクワイアを率いてアメリカの大会で優勝するなど、他のシンガーとは全く違った道を切りひらいている方です。
 彼女のまっすぐで伸びやかでいながら、たぶん相当な鍛錬を積み重ねてきたんだろうなと思われる深みも感じるボーカルが、PYRAMIDの音楽性と驚くほどマッチしていました。
 アンコールのクルセイダーズの「ストリート・ライフ」では、今まで観たPYRAMIDのライヴでいちばんの盛り上がりだったんですけど、PYRAMIDのヴァージョンはクルセイダーズのオリジナルよりもグルーヴを強調したアレンジになっているのに加え、TiAさんのボーカルワークが最高にハマって、その結果、僕と同じ高年齢層(?)のお客さんがみなさん立ち上がって踊っていました。
 今回のメンバー、最強の布陣だと思いました。

 今回のライブの静かなハイライトは中盤にありました。和泉さんが生前、譜面だけ残していたという曲を、鳥山さんが一部を調整し完成させた、この日仮に「Always By My Side」と名付けられた楽曲。和泉さんらしいリリカルで美しいメロディを鳥山さんのギターで奏でる、すでに”スタンダード・ナンバー”のような佇まいのある曲でした。必聴です。


 2/16にはビルボード大阪でもライブを行いますので、関西圏の方はぜひ。