VOZlog(ボズログ)

VOZlog(ボズログ)

VOZ Records(ボズレコード)の主宰者堀克巳がふと思ったことなど。

 尺八奏者の工藤煉山さんのアルバムが2枚昨年12月にリリースされました。

 僕はずっとポップ・ミュージック一筋で生きてきたので、伝統邦楽についての知識はまったくなかったのですが、縁があって知り合うことになり、一昨年くらいからいろいろやりとりさせてもらっています。
 工藤さんの独自のところは、尺八のルーツとされる江戸時代に禅の宗派普化宗の虚無僧(こむそう)たちが、悟りを開くために尺八を吹きながらする修行「吹禅(すいぜん)」を実践しているところです。その時代の尺八(地無し尺八)を再現するために、実際に竹林から竹を選んで伐採し、そこから作っているんですね。

 尺八と禅、というとかなりストイックな気難しそうな印象を持つ人もいるかと思いますが、お会いすると物腰がすごく柔らかくてフレンドリーで、中学生時代はTMネットワークやYMOに夢中だったと語っていました。YMOから坂本龍一さんのファンになり、坂本さんの出身校ということで藝大にすすみ、坂本さんと念願の共演も果たしています。
 工藤さんは「空道」という2mくらいある長い尺八も吹くのですが、坂本さんは「空道」に大変興味を持っていらっしゃったそうです。
 それから、昨年の大きな話題としては、映画「国宝」のサントラにも参加しています。

 そんな工藤さんが昨年一年近くかけてアルバムを制作していました。その過程で時々僕は感想や意見を求められて、僕はほとんど役には立たなかったのですが、一人の一般的なリスナーとしてざっくりした(苦笑)感想を戻させてもらったりしました。
 尺八の音楽に馴染みのない方も、先入観を取っ払って、軽めの瞑想をするように聴いてみるといいように僕は思いました。

 アルバムは、禅の心をベースにし、細かな息遣いも感じるような短編的な演奏を収めた作品集「IS-BE」と夏の自然音の中で即興的でアンビエントな長尺の演奏を収めた「Noneness」の2枚。

 「IS-BE」は映画「国宝」の音楽を手がけた原摩利彦さんが、「Noneness」は鎌倉、円覚寺の横田南嶺菅長がコメントを寄せています。

 今の時代はただ生きているだけでも心の波長が乱れてしまうんですけど、そんな時に目を閉じてゆっくり呼吸しながら聴くといいんですよね。

 ご興味のある方はぜひこちらからご試聴いただけます。

工藤煉山 配信リンク

 ギタリスト鳥山雄司さんとドラマー神保彰さんのユニットPYRAMIDのライブが2/6(金)ビルボード東京でありました。
 高校在学中からのバンド仲間だった鳥山さん、神保さん、和泉宏隆さんの3人で、アマチュア時代にカバーした1970年代のジャズ/クロスオーバー、R&B、ファンクをあらためて演奏してみようという動機でスタートさせたバンドがPYRAMIDです。神保さん、和泉さんがいたカシオペアやT-SQUAREのようなジャパニーズ・フュージョンよりは、洋楽のジャズ/クロスオーバー色が強いバンドなんですね。
 (2021年に和泉さんが急逝されたのですが、2人で継続することに決め、クラウドファンディングでアルバムを作ることにしたタイミングで、僕は知人を介してA&R、レーベル業務担当として彼らのスタッフとなりました)

今回のライブは「Gracenotes」と名付けられた企画の第二弾。
「Gracenotes」は二人が強く影響を受けた70年代のクロスオーバー、ファンク、R&Bを大きくフィーチャーしたセットリストになっているのがポイントです。
 今回はハービー・ハンコック、アース・ウィンド&ファイアー、ラムゼイ・ルイス、クルセイダーズなどのカバーを演奏しました。
 
 彼ら以外のメンバーは、今やPYRAMIDの準メンバーになっているGaku Kano君、藝大で打楽器とピアノを学んだ、超マルチプレイヤー。全楽器自ら演奏しオペレーションしたアルバム『Experimental Jazz』が話題になり、KIRINJIに認められニューアルバムにも参加している、今後”世界水準のアーティスト”になること間違いない才能です。彼が大きくフィーチャーされたPYRAMIDの最新曲「Tomorrow(feat.Gaku Kano)」ももちろん披露されました。
 和泉さんが彼独自の情感のあるスタイルを持ったキーボーディストだったので後釜は探そうにもいないわけですが、Gaku君はもうボコーダーをやったり全然違うスタイルのミュージシャンで、かえって違う化学反応を起こすことができていると感じます。

 そして今回初参加となったシンガーのTiAさん。2004年にR&Bテイストのポップ・シンガーとしてデビューしましたが、今ではゴスペル・シンガーとしてクワイアを率いてアメリカの大会で優勝するなど、他のシンガーとは全く違った道を切りひらいている方です。
 彼女のまっすぐで伸びやかでいながら、たぶん相当な鍛錬を積み重ねてきたんだろうなと思われる深みも感じるボーカルが、PYRAMIDの音楽性と驚くほどマッチしていました。
 アンコールのクルセイダーズの「ストリート・ライフ」では、今まで観たPYRAMIDのライヴでいちばんの盛り上がりだったんですけど、PYRAMIDのヴァージョンはクルセイダーズのオリジナルよりもグルーヴを強調したアレンジになっているのに加え、TiAさんのボーカルワークが最高にハマって、その結果、僕と同じ高年齢層(?)のお客さんがみなさん立ち上がって踊っていました。
 今回のメンバー、最強の布陣だと思いました。

 今回のライブの静かなハイライトは中盤にありました。和泉さんが生前、譜面だけ残していたという曲を、鳥山さんが一部を調整し完成させた、この日仮に「Always By My Side」と名付けられた楽曲。和泉さんらしいリリカルで美しいメロディを鳥山さんのギターで奏でる、すでに”スタンダード・ナンバー”のような佇まいのある曲でした。必聴です。


 2/16にはビルボード大阪でもライブを行いますので、関西圏の方はぜひ。



 
 けっこうな年齢(?)の音楽ファンにしかピンとこない話になっちゃいますが、1970年代から80年代にかけて、ジャズ、ファンク、R&B、ロックなどの要素を合わせたインストを”クロスオーバー”とか”フュージョン"というジャンル名で呼んでいました。
 で、”クロスオーバー”と”フュージョン"この二つ、全く同じなのか、どこか違うのか、曖昧なまま、二つ連れ添うように、そのあたりの音楽をふわっと包むようにして今も存在しています。僕も深く考えずにずっとざっくりとした理解のままでした。
 だいたい、ジャンル名なんて主観的なものなので、人それぞれ解釈が違うので、厳密な線引きはできないものなんですけどね。

 で、”クロスオーバー”と”フュージョン”という言葉がなぜ今頃気になり出したかというと、
僕がA&Rとしてご一緒させていただいているPYRAMID(鳥山雄司さん、神保彰さん)の音楽をジャンルで言い表す場合、”フュージョン”じゃなくて”クロスオーバー”かな、という話になったんですね。
 僕の感覚では”フュージョン”というと日本ではカシオペア、T-Squareのイメージが強いですし、クロスオーバーは洋楽っぽいがあったので、PYRAMIDの音楽性は確かに洋楽っぽいからその通りだな、と思いました。 
 それに、カシオペアでは多点のドラムセットを自在に操り”千手観音”とも呼ばれた神保さんがPYRAMIDではミニマムなセットでグルーヴ・ドラマーに徹していて、カシオペアのスタイルとははっきり違いを打ち出しています。
 
 その後、しばらくして、そもそも”クロスオーバー”と”フュージョン”ってどんな経緯でつけられた名前なの?と気になってきました。
 英単語としてCross Overは「垣根を越える→異なるジャンルや要素が境界を越えて混ざり合うこと」Fusionは「融合、融解」。
 音楽についてGeminiに聞いてみると
「クロスオーバーは現象やブームの名前」「フュージョンはその結果定着したジャンルの名前」と捉えるのが一番わかりやすいでしょう。
との答え。なるほど。
 
 検索してみたらアメリカでは”クロスオーバー”という音楽ジャンルはないんですよね。
 クロスオーバーは「異なるタイプの聴衆に訴求する音楽作品やアーティストを指す」言葉ということで、黒人のロックンロールを白人シンガーがポップスとしてカバーする際などにも使われていたようです。
 そして、1970年代前半にマイルス・デイヴィスがジャズに電気楽器を持ち込んだ『Bitches Brew』以降、そういう”まだ名前のない新たな試み”のことをクロスオーバーと呼び、そういう音楽のスタイルが確立されていくとともに「フュージョン(ジャズ・フュージョン)」というジャンル名が生まれたらしいんです。

 1970年代に日本でバンドをやっていた人のブログを見ると「フュージョン」という呼び名が生まれる前はみんな「クロスオーバー」と呼んでいたという記述がありました。
 アメリカでは”音楽のジャンル”じゃなく”新たな現象”として便宜的に「クロスオーバー」と呼んでいたものを、日本ではそういう音楽のジャンルのことだと理解してしまったのかもしれません。
 そして、その音楽のスタイルが明確に隔離され人気になっていくとともに、アメリカで「フュージョン」という呼び名が生まれ、日本でも「クロスオーバー」から「フュージョン」にとってかわったわけです。そういう経緯なら、アメリカでは呼称は「フュージョン」しかないのに日本では「クロスオーバー」「フュージョン」の二通りあることも納得できます。

 ちなみに、僕の「クロスオーバー」観を固定させてしまったものが、NHKラジオの「クロスオーバー・イレブン」で、クロスオーバーというと反射的に番組テーマに使われていたAZYMUTH(アジムス)の「Fly Over The Horizon」を思い出してしまうんです(PYRAMIDもカバーしています)。


 でも番組自体はそういう音楽だけじゃなく、普通のポップ、ロック、R&Bもオンエアされてました。まさに”クロスオーバー”だったんですよね。

 で、PYRAMIDに話を戻すと、最近はOvall、Jairo、Gaku Kanoなどジャンルも世代も全然違う若いアーティストたちとコラボしています。一つのスタイルに固執せず、軽やかに垣根を越える彼らを言い表すには、やっぱりフュージョンじゃなくて、クロスオーバーがふさわしいかなと思いました。
 
 *PYRAMIDの最新曲は1976年リリースのブラザーズ・ジョンソン(クインシー・ジョーンズ・プロデュース)のカバー。現役藝大生、Gaku Kanoがヴォコーダー/シンセ/キーボードで参加