「関心領域:THE ZONE OF INTEREST」という映画

 

 

 ルドルフ・ヘス収容所長の家と庭(GoogleMap)


 表題のような関心を呼べない地味な名前の映画をみた。勿論シニア料金で。
アウシュビッツ強制収容所所長,ルドルフ・ヘス一家が住む官舎の生活を描いたものだからだ。私が,かつてアウシュビッツ収容所に感じた違和感は,周りに小学校などがある,こんなのどかな土地で,大量ガス虐殺が毎日行われたのか!!というものでした。そして,遺体焼却室の近くに住んでいたヘス一家の精神状態は,どんなものだったか。一体ドイツ人達はその時代,どの様な受け入れ方をしていたのか。

 

   手前の焼却室の向こうに平和な学校の風景が見える。

 

   毒ガス室と焼却室。右手の林の向こうが収容所長の官舎

 

       アウシュビッツ強制収容所のメイン通り


  映画に描かれたルドルフ・ヘスは,頭のてっぺんに頭髪を残し,周りを五厘刈りにした変なヘアスタイルの職務に忠実な親衛隊中佐でした。軍人の家族ならば,収容所で何が行われたか知っていた。所長の妻は,戦時下でも豊富な配給品を受け取っていたし,定期的に持ち込まれてくる囚人私有の衣服を品定めし,目ぼしいものを選んで自分の物にしていた。傷部については裏地の繕いをメイドに命じていたりしていた。旧知のユダヤ人が収容されるに際し,その家にあった素晴らしいカーテンが,他のドイツ人に先に取られてしまったと嘆いてもいました。また,収容されたユダヤ人が歯磨きのチューブの中に宝石を隠すのを知っていて,チューブを熱心に探したり。子供は夜の遊びに誰のものと知れない歯で遊んでいたり。
 ヘス所長は命令に忠実な男で,アウシュビッツでのユダヤ人殺害と焼却の能率を図るため,毒ガス虐殺室と大量遺体の焼却室を隣り合わせにして,能率的に使用する計画も進めていました。映画の終盤に,現在残っている焼却炉の画面が出ますが,画面をみると,その計画は達成されなかったようです。  

 

   焼却室の見取り図(映画の計画のようなロータリー式ではない)

 
  田舎育ちらしい妻は,収容所と高い壁を隔てて支給されていた官舎の家屋を2階建ての大きな邸宅に改築し,敷地には広い花壇や温室,四阿家を整備し,庭には滑り台付きのプールを作ったり色々工夫して,満足に生活していました。だから映画の途中でヘスが出世して幹部の町に転勤になるのに対し,自分はここから出るのは嫌で,単身赴任してくれと強要したりしました。実母を呼んで,今の豊かな暮らしぶりを案内披露するのです。実母はそんな娘の勢いに感心して宿泊するのですが,夜中までする焼却炉のボイラーの地音に眠れず,とうとう夜逃げして出て行ってしまいました。実母は昼間,高い壁の向こうに見える毒ガス室と焼却炉から立ち上る火炎と煙,骨灰の降下を見た時,気味が悪くなったのでしょう。収容所からは,銃声,悲鳴も常時発せられていました。

 

   所長官舎の庭(温室,滑り台付きのプール,映画の小冊子より)

 

    強制収容所の川側を走る道路(映画の小冊子より)

 

   収容所内から,壁の向こうの道路を走るトラック(左)を撮影

    (前の写真の道路に相当か?)


 所長の優しい娘は,豚さんが食べるようにリンゴを地面に埋めているのですが,ヘスはリンゴを取った子供をみせしめに川に投げ込み殺してしまいます。所長の家族がその川で水遊びをした時,たまたま別の遺体の破片が所長の触れます。驚いた所長は,即子供たちの水遊びを中止させ,帰宅後,痛い位強く,石鹸で洗い落としました。

 単身赴任した所長は,自分の出世を誇る一方,命令とはいえ自分の行為に嫌悪と恐怖を覚えたのか,事務所の階段を上っていくステップ毎に,激しい吐き気を覚え茫然とするのでした。

 私は,一般のドイツ人が所長家族のようだったとは思いません。

もし,近くにユダヤ人の友人が誰もいなく,国家から強制収容所の囚人は犯罪者だと洗脳された場合,誰も収容所内の人達に何の関心も持たなくなるでしょうか。
 

                                                                     おわり