キプロス・トロードス山塊の写真

 

  地球の最も表面は地殻で,主に玄武岩からなる海洋性地殻と花崗岩質の大陸性地殻からなります。その下のより地球内部は橄欖岩(かんらん岩)からなる上部マントルです。

 


その境界は大陸では普通地表下30~70キロ,海底では10~数キロメートルにあり,モホロビッチ面(モホ面)といいます。モホ面を境に岩石の地震波速度が急変しますので,地震波の解析によって認識できるのですが,普通地表で目にすることはありません。ただ少数の限られた地域では観察され,その模式地がキプロス島なのです。



       トロードス山塊の斜め写真(GoogleMap)

 

  トロードス山塊を南から望む(オリンポス山頂上の白点はレーダ基地)

 

    オリンポス山を北から望む。手前はムトーラス部落

    白四角は「一般地質学」の教科書に載る写真域

 その研究は1960年後半に橄欖岩(マントル,風化して蛇紋岩)と,海洋地殻である斑糲(ハンレイ)岩・玄武岩枕状溶岩,チャートの組み合わせとする層序(総称してオフィオライトといいます)が地震波解析によるモホ面と合致することから,蛇紋岩がプレートを構成するマントルであると脚光をあびてきました。
なぜ,分かったか? 実際,最近日本の海洋開発機構がオマーン国の沖合で海底にボーリングしているからです。
 私が学生時代はオフィオライトの研究成果が出始まったばかりの頃でした。深く勉強しなかったため,卒業後ダムの地質調査の実務で苦労しました。だから,残り少ない人生の間に,一目でもオフィオライトの模式地を訪れ,教科書に載る写真(アーサーホームズの名著『一般地質学』竹内均訳P1124 )と同じものを撮影したく,キプロス・トロードス山塊を訪れました。地質平面図(Carte geologique de Chypreより)と断面図(一般地質学)を示しました。

 

      「一般地質学」P1124のオリンポス山

 

   私が撮影した写真。広角レンズのため山際の凹凸が強調されない。

 


 20世紀の初めころから,キプロス島は地質学的に大きな謎の島でした。
というのは,キプロス島のトル―ドス山塊の下には1600k㎡にわたり異常に密度の大きい岩があり,重いものがあれば沈降するはずなのに隆起している地形を示しているからでした。最も古いマントルの直上の層(断面図のa)は全体の90%以上を占める南北方向でほぼ垂直の岩脈からなり,その全体の厚さからこの地域が130㎞も東西に押し広げられたことが分かり,その構造は北東太平洋の海底を思い起こさせます。

 

        キプロスの地質図(ネット)


 1939年に実施された重力測定では島全体にわたって大きい重力異常(即ち重い岩体でできている)があり,特にトル―ドス山地の下で一番大きかった。山体周囲に取り囲むレフカラ層(古第三紀に深海で堆積したチョーク)の分布からみて,白亜紀の頃から少なくても山頂は3000mも隆起しているのです。そして海嶺山脈のようにアラカバス(トランスフォーム)断層によって,断層の南にあるマントル域が左回りにズレいると考えられたわけです。

 

        

 

 

        「一般地質学」P.1123

 


  その後1963年に再度行われた重力調査によると,山頂部のオリンポスあたりでの重力異常が山地の約半分しかないこと,頂上ではさらに小さい異常が分かった。このことから,山地の超塩基性岩の下には,地殻のかなり厚い層があり,アフリカ楯状地がマントルのこの部分へもぐりこんだためにマントルのオリンポス山が近くの上に持ち上げられたと考えられた。そして,オフィオライトが海嶺で形成された海洋地殻と直下のマントルであるという学説の大勢に対し,1973年に都城先生がトロードス山塊のオフィオライトは島弧で形成されたと発表して世界の驚かせた。

 

    「一般地質学」P.1125


 この時点で,海嶺山脈性由来の原因と島弧性の由来の異なる見解がでていたが,どちらかかの議論はまだ続いている。なおトロードス山塊頂上付近にあるアスベスト採掘跡(アスベストは橄欖岩が風化した蛇紋岩にできる)に立つユニセフ・ジオパーク博物館には,海嶺起源説の地質構造図が掲げられている。
  最近の見解(Dilek and Furnes,2011) では,オフィオライトは,沈み込み帯に関連しないタイプ,関連するタイプの2通りあるとし,関連しないタイプには大陸リフト帯,海嶺型,プルーム型,関連するタイプには,沈み込み帯型,火山弧型に分類する考えが出ている。

 

  幌満岳のめくりあがり構造(広瀬,2022.1,「地球の中身」P.59)


 私は,トロードス地塊のマントルの分布面積はどのタイプより極めて小規模ではないかと思い,北海道の襟裳岬の幌満橄欖岩のような局部的な衝突型タイプがあっても良いかなぁという素人の感じを持った。なお,日本でモホ面を見たければ,福井県大飯郡大飯町県道241号線の新大島トンネル北口から約200m北西地点より容易に図の岩の連続が観測できるという(川端,2024.1「岩石鉱物図鑑」,P57 )。
                                                    おわり