「ほっかいどう サムライ伝」



 先日(2023年6月29日)は,JR福島駅西口の「コラッセ福島」4F会議室で,日本技術士会東北本部福島支部による「倫理講習会」に出席しました。帰りに駅の岩瀬書店で本を買ってきました。郷土コーナーにあったその本は真新しい表紙に「ほっかいどう サムライ伝」と題し,下に老齢の永倉新八,左隣に牧田重勝が写る集合写真の本でした。奥付書きをみると2023年6月30日初版発行の本でした。つまり,講習会は29日なので,翌日販売予定の本が既に店頭に並べられてあったのです。北海道に関する本なのですが,何故か発行日前に北海道から遠くの福島県で販売しているんです。オカシイ!

 

        

         前列中央:永倉新八              

         前列左隣:牧田重勝(棚倉藩)


だから,疑問をもって,一晩で一気に読んでしまいました。
 発行前に店頭に置かれた理由は,多分,書かれているサムライに福島県出身者が多かったことから,書店のインテリ店員が気を利かしたのでしょう。飯沼貞吉,梶原平馬,大庭恭平,三沢毅(以上会津藩),牧田重勝(棚倉藩)と田村銀之助(平藩)。
彼らの概要
  飯沼貞吉:蘇生した白虎隊の生き残り
  梶原平馬:根室に眠る会津藩最後の家老
  大庭恭平:札幌最初の学校「資生館」の校長
  三沢 毅:新琴似屯田兵中隊長(以上会津藩)
  牧田重勝:樺戸収治監監守,厚田,月形で撃剣場(棚倉藩)
  田村銀之助:彰義隊剣客伊庭八郎を看取った新撰組隊士(平藩)
江戸時代の剣術の本流も数多く北海道に流れています。
    北辰一刀流:小樽玄武館野田和一郎(小林四郎),千葉重四郎
    直心影流:十七世島村久之助(小樽)
    甲源一刀流:冨田喜三郎(札幌)
    二刀円明流:多田 寛(小樽)

以前,このブログで前に紹介したように飯沼貞吉や田村銀之助については知っていました。今回は次の2人に興味がありました。

 

   
    Wikipediaによる


一人目は,子母澤寛(上左)です。
私が札幌在住の時,仕事で厚田や月形を訪れていて,漠然と厚田出身であること,画家三岸好太郎の異父兄であることは分っていました。今回,詳しい出自を初めて知りました。
 子母澤寛の祖父は,江戸詰め伊勢藤堂藩士の息子(戸籍上)で,彰義隊で上野の戦い,函館戦争で戦い,敗戦後連れてこられた札幌の開拓事業を拒否し逃亡して,厚田に住み着いた梅谷十次郎という人でした。「蝦夷物語」では厚田に向かったサムライ7名(彰義隊士3名,幕府御家人4名)の御家人の一人斎藤鉄太郎(別名)とされています。江戸では,祖父は将軍家茂の護衛に当たっていた心形刀流伊庭道場の剣客三橋虎蔵を師としていたという。子母澤自身も厚田の道場で棚倉藩出身の一刀流剣客牧田重勝に剣の手ほどきを受けたそうです。
 実父伊平は流浪の旅に出て行方知らず,実母のイシは子母澤を残して博徒橘厳松と札幌へ駆け落ちしてしまった。この橘厳松とイシの子が三岸好太郎という訳です。かつて,私は札幌の知事公邸隣にある三岸好太郎美術館や愛知県一宮市にある三岸節子美術館を訪れたことがあります。子母澤寛(本名は梅谷松太郎)は,10歳迄厚田で祖父母に育てられ,その後祖父母と札幌に出たという。

 

    

  道立三岸好太郎美術館(札幌市) 三岸節子記念美術館(一宮市)

 

  


 子母澤の作品「父子鷹」勝海舟の父勝小吉を描いた話ですが,祖父十次郎の姿をそのまま反映しているとか。

彼の文学は勝者をほめたたえる「正史」側の文学ではなく,敗者側の「稗史」です。戦前,新撰組は極悪非道の殺人集団とされて鬼悪者一色だったのを,京都守護職直属の武装警察として,正当な評価を与えた作品「新撰組始末記」があります。

 2人目は,札幌市豊平区平岸林檎園公園の札幌リンゴ三人男の一人,阿部隆明です。新撰組隊士,高台寺党。伊東甲子太郎の仇として,近藤勇を銃撃し重傷を負わせました。戊辰戦争では官軍の赤報隊二番隊隊長鈴木三樹三郎の下で活躍(平藩出身の新井忠雄とは新撰組,高台寺党と行動を共にした)。戦後開拓使,後,平岸林檎園経営,北海道果樹協会を立ち上げ理事,事務局長。頭は後の北大二代目総長南鷹次郎。

  

   

    平岸林檎園にある歌碑

   
  阿部と共に行動した加納鷲雄(道之助)。千葉重太郎とともに函館の七重で開拓使として試験場に勤務。

油小路の戦いで新撰組隊士を振り切って生き延び,流山で大久保大和と名乗る近藤勇を見破った人としても名高い。

彼も北海道に流れて暮らしたのです。

まぁ,北海道には多士済々の猛者が集まりましたね。
                                                            おわり