キリマンジャロとブレンドコーヒーをひとつ | LOVES ME LOVES ME NOT

LOVES ME LOVES ME NOT

ストイックになりたい僕が過ぎ行く日々を綴る僕の僕による僕だけの日記

走りなれた道を車でとばす


乗りなれた車のステアリングは程よく固く


心地よい位置のひじ置きはいつもの決まった姿勢を作り出す


新しくなったオーディオシステムからはストロークスがソフィスティケートされたガレージロックを鳴らしていた


僕は鮮やかなサックスブルーのボタンダウンにネイビーのニットタイを締め


よくプレスしたブラックのスラックスをはき、長年の味が出たGジャンを着て出かけることにした


18時までのバイトは残ってくれと上司に言われたが


実家に帰らなくちゃいけないとそれっぽい理由をつけて時間きっちり働き、あっさりと上がった


もちろんそんな用事は何処にもない


外売りで冷え切った身体を温めるために僕は風呂に入り


コーヒーを入れて煙草を吸った


そんなに乗り気ではなかったし、僕は今日タフな仕事の連続で少し疲れていた


でも僕はどうも律儀な人間らしく


誰かに会う時はそれなりの格好、それなりの態度で望む 


そういった人間らしい


約束までにはまだ少し時間があったので


コンビニに行ってホットココアと柑橘系のガムを買った


車の外で煙草を吸い、吸い終わるとガムを規則正しく左右で噛んだ


19:30


駅に待ち合わせ時間ぴったりに着いた


僕が約束時間ジャストに着くなんてちょっとした奇跡に近い


しかし紳士たるものせめて女性に会う時は10分前にくるのが鉄則だろう


僕のフィロソフィーはそうだ


だから僕のフィロソフィーから言わせれば10分の遅刻だ


僕は車を降り


そうだと思われる女の子に声をかけた


「はじめまして」


「はじめまして、待ったかな?寒いのに待たせてごめんね」


「いや今来たから全然待ってないよ」


僕らはそんな初対面らしいぎこちない会話を交わして車に乗り込んだ


「待たせてしまったお礼にこれ」


「えっほんと?ありがとう!優しいね」


コンビニで買ったホットココアはこのためにあった


僕は外ではコーヒーしか買わない


ホットココアは飲まれるべき主人を見つけすこし安心したようだった


パスタが好きだという彼女のリクエストで駅から南に真っ直ぐに伸びる県道を走り


地元では美味しいと評判のパスタ屋に行くことにした


彼女の黒のシンプルなコートと首もとのファーは1歳下と思わせない大人びた印象を僕に与えた


バックはハイブランドのものだったがそれも嫌味な感じではなく、そっと品を保っていた


車内で僕らはすぐに打ち解けた


僕は話を振って彼女が話し出すとそれを運転しながら頷きながら聞いた


評判の店に着き、駐車する場所が無いくらい車はこじんまりとした駐車場に所狭しと並んでいた


店内は予想通り込み合っていたが


幸運にも一席空いた所に僕らが来たらしくすぐに通してくれた


中学校が一緒の話、共通の知人の話、大学の話


僕らはパスタが運ばれてくる間、そんな話で盛り上がった


料理が弾ける笑顔の店員から運ばれてきて


僕らはお行儀良く「いただきます」と言って食べた


彼女はきのことホウレン草のスープパスタ


僕はいくらとサーモンのウニソースのパスタだった


パスタが好きと言っただけあって彼女は実においしそうにパスタを食べた


いつもは少食な僕もそれにつられて完食した


でもやっぱり食べるのは遅く、食べ終わるのは彼女と一緒ぐらいだった


それはルールと言えばルールだったので良しとしとこう


そして一緒にまたお行儀良く「ご馳走様でした」と言った


食後にコーヒーが飲みたいと言う事になったので


落ち着いて話もしたかった事もあり僕らはまだ開いてそうな喫茶店を見つけそこに入った


「煙草吸いたかったら吸っていいよ」 彼女が言った


「いや女の子の前では煙草を遠慮しとこうと思っていたんだ。


煙草はイメージが悪いし、僕は一度煙草が原因で痛い目に合ったことがあってね」


後半は語らなくていい事だったと後で気付いた


「私は煙草は別に気にならないからいいよ。それに吸う人だろうなって思っていたから」


どうして女性にはそういう勘が働くのだろう


そしてものの見事に当たってしまうんだろう


不思議だ


僕は彼女の好意に甘えバイト場で買ったピースをふかした


「お決まりでしょうか」


「キリマンジャロとブレンドコーヒーをひとつ」


オーダーが終わって僕らは話の続きをした


「正直言って私人見知りするから、今日はどうしようって思ってたんです。


でもタクヤさんが私が喋りやすいようにしてくれて、今日初めてじゃないみたいですごく話しやすいです」


「僕だってどうやって喋ろうか緊張したよ。でもよく笑ってくれるし、


話してて面白いからつい喋りすぎてしまったよ」


そう言った後で背後から、お待たせしましたの声と同時にキリマンジャロとブレンドコーヒーが運ばれてきた


「もし退屈だったり、この人ないなって思ったら私、たぶん一切話さないですもん」


「じゃあ君が黙り込んだら帰る事にするよ」


「楽しいから黙り込んだりしませんよ」 そう言いながら笑った


本当に笑顔が素敵だった


そして本当に楽しい時間だった


コーヒーのリラックス効果はあったかもしれない


もしくは暖かな間接照明のおかげかもしれない


照れながら黒髪の前髪を時折整えるようにさわる仕草が唯一21歳の雰囲気を残していた



そろそろ閉店時間も近くなったので店を出て


彼女の実家まで送っていくことにした


そして帰り際に僕は正直に思った事を彼女に話してみた


「僕は嘘がつけない性格だし、正直に思った事を言わないと気が済まない人なんだ。


自分が思ってる事なんて口に出して伝えないと10分の1も伝わらないと思うんだ。


だから言おうと思うけど、僕は今日君とこうして会って、本当に凄く楽しかったし、


君をもっと知りたいと思ったんだ。そしてまた君に会いたいと思ったんだ。」


僕は右手でステアリングを握り締めていた


「すごくストレートなんですね」 


僕はいつだって女性にはストレートにしか伝えれない


一呼吸置いて


「私も今日はすごく楽しかったし、また会ってもう少しタクヤさんの事を知りたいと思いました。


こんな私で良かったらまた会ってやってください」


「そう言ってくれて本当に嬉しいよ。もちろん。また僕から連絡するよ」


「はい、待ってますね」


「じゃあ、おやすみ」


「今日はご馳走様でした。ありがとうございました。おやすみなさい。」


手を振る彼女に手を振り返して僕はギアをドライブに入れアクセルを踏み込んだ



帰る途中


少しだけあたたかい気持ちが僕を包み込んでいた


期待はしないと心に決めてはいたが


数分前までのあの時間は長らく僕が忘れていた思いを


僅かではあるが思い出させてくれた


ストロークスはトラックナンバー5.SOMEDAYを歌っていた


〝someday someday


口に出してしまうと痛いけど 君にはずっといて欲しい


sometimes sometimes〟


僕にそう思えるような人が出来るだろうか


さあね


僕はいつも大切なところで躓くんだ


期待はしちゃいけない


僕はもう一度自分自身に言い聞かせた


強く